竹林。
竹の背丈は高く暗い空をさらに暗く塗りつぶしている。
生ぬるい風に煽られ、さわさわと笹の葉が擦れ合う音が続く。
「逃げた小さい子は、助けを呼ばなかったのかな?」
それは団蔵のことだろう。魔界之が遠くを見ながら言う。
「誰かが助けにきたら逃がしてあげようかと思ったけど、どうやらそれはないみたいだ」
再び文次郎に視線を戻す。その表情は柔らかい。だが、隙がない。
「……」
ダッ と、文次郎が飛び出した。
負傷した足を酷使するが、縄抜けした手は自由になり傍らの石を掴む。
「おっと」
魔界之は文次郎が投げた石を一重で避ける。遠くを目指す文次郎を追いかけて魔界之も駆けた。
「どこへ逃げるつもりだい」
「…れが逃げっか!」
からかう口調は息の荒い文次郎を心配しているようで、それが逆にかんに障った。
魔界之に向き合い、痛む左足を後ろにやって身を構える。
忍具はすべて没収されていた。文次郎には体術しか残されていない。
至近距離になった魔界之に拳、次に蹴りを繰り出す。
攻撃は荒削りだが勢いは鋭い。魔界之のいなす動作も余裕がない。
逃げることもできたが、文次郎は魔界之を倒すつもりでいた。
このままいいようにされていたらどうなるかわからない。冗談じゃない。
所詮お馴染みのドクタケだ、という侮りもあった。
だが魔界之も伊達ではない。
数分のうちに、文次郎は地面に頭をつかされた。
利き腕を後ろ手に押さえられ、背に乗られ身動きを封じられる。
文次郎はうめいたが、抵抗も形にならない。予想外の事態に対処がしきれない。
「はい残念」
上から魔界之の声。
「あまり私を過小評価しないでもらいたい。これでも立派に忍者してるからね」
忍者――本物の忍者の貫禄。年季が違う。
そして一方は最高学年といえど、忍者のたまご。未熟者であることは否めない。
震える腕を、魔界之が緩く掴む。文次郎の体がはねた。
「うっ、やめろ…!」
拘束されていることも忘れて、文次郎は必死になって逃げようとする。
薬を飲んでしばらくが経った。
その顔は汗をしたたらせ、頬は朱色に染まり、口からは熱い呼気が漏れている。
「やっと効いてきた?」
魔界之が手を前にやり、服越しに文次郎の体を撫でる。
「うああっ」
もう、それだけで声を出すまでに敏感になっている体中の皮膚。
魔界之はおもしろがって、手を探るように動かす。
忍装束の合わせ目から懐に入り、手のひらに感じた突起をきゅっとつねった。
文次郎が息をのむ。
少し動かされるだけで鋭い刺激が体を焼く。
畜生! 文次郎はぐちゃぐちゃになった頭で自分の相手を毒づき、自分の無力さを呪う。
歯をかみしめると唇がわなないた。
「下衆野郎っ…てめぇ、ブチ殺す…!」
無理やり頭を後ろに曲げて、文次郎が魔界之を睨む。
魔界之はニヤリと笑った。
「その目がいつ折れるのか、待ち遠しい」
それはいつもの飄々とした笑顔ではない。もっと不気味で非道な嘲笑だった。
胸をいじっていた手を下方に移動させ、腰紐を器用に外し、緩くなった下穿きの中に手を差し込む。
「ッ!」
下帯越しに生殖器を撫でられた。軽くなぞられただけなのに、文次郎の体にビリッと電気のような何かが走る。
体を硬直させたいのに、力が入らない。それどころかビクビクと大きく痙攣するのを止めることもできない。
「な、んで」
文次郎は自分の体が信じられなかった。
男に性的接触を強要されるなど、普段なら考えるだけで嫌悪や屈辱で憤死するはずだ。
なのに今、自分は明らかに感じ入って快感を得ている。
文次郎のものは魔界之の手淫に翻弄され、熱く硬くなっている。
大きな魔界之の手が形を確かめるように上から下、下から上に文次郎の股間を擦る。
「やっ、クソ、やめ…ろ、あっ!」
褌の布がじわりと湿り気を帯びたのを感じ、魔界之がふっと笑みをこぼした。
「おつゆが出てきたね」
耳元で囁かれ、文次郎の顔が羞恥に染まる。
「はなせ外道!!」
「つれないなぁ。こっち、下の方はとても素直なのに」
魔界之の手が下穿きの中で器用に動いて、布の隙間から性器を直接握る。
「ひっ!!ん…くぅっ…」
にちゃ、と魔界之の手が濡れる。
勃起した文次郎の性器は熱く、握力をくわえれば脈打つのがよくわかる。
「やめ…さわ、んなぁ…!」
文次郎が震える声で悪態をつく。
力の入らない体をブルブルとこわばらせて、全身で魔界之を拒絶する。
「我慢してるの?とても辛そうだ、かわいそうに。まだ理性が残ってるから……ああ、そうだ」
魔界之がひとりごちて、文次郎の下穿きをひざまで脱がされた。いつ外したのか、下着まで一緒に引き下ろされる。
露出した肌が冷えた森の空気に触れる。
何をする と文次郎が怒鳴る前に、尻に押し当てられた異物の感触。ひやりと冷たい。
急いで振り返れば、それは先ほどの陶器の小瓶。
「これは本来こう使うものだからねぇ」
言われ、次に襲ってきたのは肛門からの液体注入。
指を使い穴をこじ開け瓶口をあてがい、はませ、傾ければそこから注がれる冷たい水。催淫剤。
たらたらと流し込まれ、飲み込んでいく。
「!?――…!!」
文次郎は口を開けたまま息を止めた。ひゅっと喉が鳴る。
魔界之は両手を使っている。文次郎の手の拘束は解けた。
大人しくこんな無体を強いられるのが堪えられないと思っているのに、文次郎の腕は体を支えるだけで精一杯だ。
それさえも、瓶の中身が尽きてしまう頃には役立たずになった。
とろり
体内に拒絶された分の液体が漏れて、睾丸をつたい太股に筋をつくった。ポタポタと、装束の染みになる。
「ぅ……」
文次郎の視界が霞がかってきた。霧だと思ったが、なんだか違う。現実味がない違和感。
頭がぼうっとしてくる。物事を考えることができず、思考は端から徐々に凝固する。
体、熱ぃ…
額に誰かの手が添われた。自分より大きな手。
「潮江文次郎くん」
「……」
前髪を掻き上げてこちらを覗く目。サングラスがいつの間にかなくなっていた。
着物をするすると脱がされていくのに、無抵抗の文次郎。
魔界之の目が弓の形ににこりと笑う。
魔界之の手が再び文次郎の性器を掴む。
文次郎の体が大きくはねた。
「んあ…!?」
その声は今までと様子が違い、明らかな艶を含んでいる。
「うん、素直なよい子だ」
褒めると、次に促すように手の動きを加えた。
ずっ ズッ ぐちゅ ぐちゅ
「あ、あ!!わああっ、あ…!!」
敏感な部位を容赦なく刺激され、与えられる愛撫に文次郎が喘ぐ。
おそらくいろんなことを失念して、快楽しかくみとれない状態なのだろう。声には抑えようと言う気がない。
魔界之の手中にあるものも、今にも射精しそうなくらいに張りつめている。
不意に愛撫が止んで、
グイッ
体を抱き上げられ、反転させられ仰向けになった。
文次郎がされるがままになっていたら、直後、鋭い痛みが下半身を襲った。
「ッ…!?」
下を見れば魔界之の手にはどこから取りだしたか赤い紐が握られており、それは文次郎自身の根元をきつく縛っていた。
出したいのに。もう出るのに。これでは出せないではないか。
「んぅ…っ」
文次郎がうめく。魔界之は申し訳ない顔をした。
「いやぁ、君は若いからいいけど、僕はそこそこに年だから。ちょっと待っててほしいんだ」
魔界之が自分の下をくつろげ取り出した一物は、言うとおりまだほとんど反応を示していない。
文次郎は頭をつかまれ、強い力で持ち上げられた。
目の前に魔界之の男根がくる。
「舐めてくれるかな」
甘くねだるも、どこか強制する声色。
「……ぁ」
文次郎は口をあんぐり開けた。
萎えた状態でも質量のあるそれが、文次郎の無防備な中に押し入る。
「んうっ」
「ほら、舌を使って。もっと…そうそう上手」
口内を蹂躙する魔界之の性器が徐々に成長してくる。
あごが外れそうになって、引き抜こうとしたら頭を強く押さえられ阻止された。
「ふっ…んむ、う…ぁ…」
頭に酸素が回らなくて、苦しくて、よくわからない。
それをくわえて舐めるだけでどんどん昂ぶってくる自分の体。
この大きいのがこれからどうなるか、想像すると下半身がくっと熱くなった。
縛られて不自由な文次郎のものは痛みを訴えるが、行為を止めるまでには至らない。
入りきらない根元に手を添えて、すえている先端部分をじゅっと吸う。
強い精の匂いが鼻につく。
鼻頭がつんとして、じわりと涙目になる。
「んん、ぅ…」
文次郎は朦朧としながら、必死で舌を動かしてそれを愛撫した。
ちゅ ぢゅ ぬる くちゅくちゅ
半ば自分から進んでしゃぶってるような様子なことに、文次郎は気付かない。
「ん…うん、もういいよ。ありがとう」
魔界之がくすぐるように文次郎の頬をひとなでして、
口から引き抜いたのは立派に隆起した男根。
赤黒く脈打つ血管の浮いたそれににつかない笑顔で、魔界之は荒い呼吸が整わない文次郎を優しく見下ろす。
「さぁ、おいで」
文次郎の体をぐいっと引き寄せて、上半身を浮かせると対面座位の格好にした。
魔界之の生殖器が文次郎のアナルにあたる。
そこは先刻注入された薬でほどよく濡れて、作用でほぐされ柔らかくなっている。
「あっ」
皮膚の薄い部分にそっと触れられただけで、文次郎はビクリと体を震わす。
ぐっと、腰に添えられた魔界之の手が下へ力を込めた。
「!? ひっ…」
ずずズッ
薬が潤滑油代わりになって挿入を促す。
性器からの分泌液と文次郎の唾液もそれを助けた。
奥へと導く。
「あっあっぁ…!!」
かゆいくらいにうずく中が、太い肉棒でぴっちりと埋まっていく。
文次郎は気持ちよい顔をしてそれを受け入れた。
ぐりぐりと前立腺を狙って責めれば、文次郎は泣き声で懇願する。
「…ひもっ…」
「ん?」
「ひも、とけよぉ…っ」
「…ああ、そうだったね」
文次郎の前は赤い紐で巻かれ、膨張した陰茎の根元を固く縛っている。自分ではほどけない。
排泄する部位から与えられる快感。しかし同時に起こる激痛に、文次郎が苦しそうに眉を寄せ、歯を食いしばる。
「んー、どうしようかな。解いてもいいけど」
言いながら、いじわるく笑って、魔界之がさらに深く腰を進めた。
どくどくと脈打つ熱い内部がきゅうっと締まって圧迫される、たまらない感覚を魔界之も味わっていた。
「私のが先にイってからね」
腰を揺らせて、挿入したものを激しく抽出し始める。
文次郎の体が律動に合わせて揺れ、時には抵抗するようにびくびくとしなった。
「あっあ、う…ッ…ああっ」
実際、よがり狂う一歩手前な文次郎の痴態はそそるものがあった。
落ちそうで落ちない果実や、揺らめく陽炎を思わす。頼りない危うさというか、庇護欲をそそられると同時に、加虐心がくすぶる。
「大丈夫、夜はまだ長いから」
散々いじめた後で我を忘れるほど甘くよがらせたい。
「あ、あっ!や…イッ、ぁあ!!」
挿入物の激しい出し入れ。時折思い出したように深く奥へ突き込む。
挿れる時に肉を打つ音で、抜き出す時にねちっこい水音が生じる。
魔界之のやり方は文次郎を巧みに追いたてた。
逃げ道を赤い紐でふさがれた文次郎は苦しげに喘ぐ。
痛いのか苦しいのか、それさえも気持ちいいのか。
イけない状態でイかそうとしてくる、残酷な優しさに翻弄される。
ぐぢ、と。
「だ…!それ以上っ、あっ…!?」
奥を突いてもまで押してくる侵入者に恐怖して、文次郎が混乱を起こす。
「ん?」
「や、死ぬっ!まっ…!!」
「大丈夫だいじょーぶ」
何が大丈夫なものか。
今ですら内蔵をえぐられるような大きな圧迫感があるのに、これ以上奥の奥まで入れられたら死んでしまう。体が壊れる。
なだめる魔界之の手にガリと歯を立てて、文次郎は必死に拒絶した。
ぶるぶる、全身に力を入れたせいで下で勃ち上がっているものもますます張りつめる。
先端からだらだらと透明な先走りがこぼれる。
「死ぬほどイイって顔してるよ?」
「やっ…んんー!」
ぐっぐっぐ
「ほら」
「あ、うあっ」
「どんどん据えこんで」
「あっ、い、やだぁっ」
「君の中、気持ちいいね」
「うっ、う…くっ…」
「潮江文次郎くん」
優しい声とすました顔をして、
魔界之の男根が文次郎を一差しにうがつ。
最奥でこみ上げてくる射精感を解放して、文次郎の中に自分の精液を勢いよく放つ。
「――イ…ッ、ぁあああ!!」
文次郎が泣きながら悲鳴をあげた。
放出せずに達した下半身。異常な快楽が全身を駆けめぐって、文次郎のこわばった体が激しく痙攣する。
ビクリビクリと、魔界之を据えこんでいる部分もきつく締まる。
「ふぁぁ……っあ…」
変なイき方をして放心状態の文次郎に、魔界之が優しく唇を合わせた。
文次郎にはもう抵抗する気配もなく、大人しく接吻を受け入れる。
フッと、急に局部の圧迫が消えた。
魔界之が手に持ったクナイで器用に紐を切ったのだとわかったのは、顔が離れてその目で確認してからだった。
自分の腕の中、くたりと力ない文次郎を見て魔界之が満足げに笑う。
「……別に、巻物の中身なんてどうでもよかったんだ」
魔界之がボソリとつぶやいた。
文次郎にはおそらく聞こえていない。
「君を追いかける口実になるなら、何だって」
右から左へと通り抜けていく魔界之の声。
文次郎が盗んだ巻物は、確かに城の重要機密が載っていたが、内容はデタラメの偽物だった。
別に文次郎が力不足だったわけじゃない。何となく悪い予感がした魔界之が寸前で本物を偽物とすり替えていただけ。
音もない侵入者に気付いて自分の予感が当たったことに文字通り人知れず喜んだ。
事の顛末を城主や首領に報告すれば高く評価してもらえるだろうに、なぜか不毛にも追いかけたのは、
明るい月夜にも臆せず単身で乗り込んできた、忍術学園の忍装束を着た少年に、見覚えがあったから。
落乱40巻、臨海学校前夜に忍術学園にお邪魔した時のこと。
『なんだよ あのムダに熱い人は』 孫子の兵法を熱弁する上級生に圧され、しぶ鬼が引き気味につぶやく。
乱太郎の説明口調が答えた。
『忍術学園一ギンギンに忍者してると言われている会計委員会委員長、6年生の潮江文次郎先輩』
ドクたまが授業内容をまるで覚えていないことにショックを受けていたが、その台詞を頭の中で反復する。
彼のような人物がドクタケ忍術教室にいればいいのにと思った。
ドクたまはしぶ鬼たちが一期生のできたて校だ。
少人数なのは全体を把握でき小回りもきくので講師としては程良いが、もし上級生がいたなら、目標が目に見えてドクたまたちの向上心も上がるだろう。
言っちゃ悪いが、ドクタケ忍者隊はあまり良い見本とは言えない。
ふと、その潮江文次郎とやらと目があった。
こちらは優しく微笑んでみたのだが、彼の警戒心は一向に解かれない。ギッと鋭い目でにらまれ、魔界之は少しきょとんとする。
1年は組の面々はドクたまともうほとんど友達感覚でいるが、上級生は依然こちらを敵と見ているんだなぁと、当たり前だが再確認する。
特にこの子は、さすが忍術学園一ギンギンに忍者している最上級生。一筋縄じゃいかない雰囲気がある。
……おもしろそうな子だ。
魔界之の心に悪戯心というか、少しからかってみたい気持ちが芽生える。
2人きりで接触する機会ができたら、ぜひとも。
『さて、夜も遅い…』 魔界之は立ち上がり、ドクたまと並んでその場を去った。
山賊をけしかけて侵入者の少年を捕らえた。
闇夜に月明かりだけで目をこらせば、少年の着物は深緑。忍術学園の最高学年の証。短いマゲ。目の下の深いクマ。
やっぱり彼だ。
『やぁ、起きたかい?潮江文次郎くん』
「…ぅ……」
視界が奇妙にゆがんで、じわじわとシミが広がっていきながら、目の前が真っ暗になっていく。
気を失う一歩手前。文次郎の頬にあたたかい手が添われ、反対側の耳元に柔らかい唇が触れる。
「ごめんね…? 多分これは、恋愛感情じゃないだろうけど、」
淡く湿った息がかかる。文次郎が体を震わせた。
「私なりに、君をいとおしいと思ってるよ」
魔界之の声は水面に落ちた滴のよう、波紋を広げて文次郎の中にしみこんだ。
竹林。竹の背丈は高く暗い空をさらに暗く塗りつぶしている。
生ぬるい風に煽られ、さわさわと笹の葉が擦れ合う音が続く。
ゆっくり、世界が事切れていく。
(魔文/終)