全速力で疾走しても遅いと感じる。
小平太はとても気が急いていた。
友人が捕まったと、一年坊主が泣きすがってきたのだ。いてもたってもいられない。
夜の森、視界は限りなく0に近い。だが小平太の足に迷いはない。
突き進む直線が一寸の狂いもなく目的地に達する最短ルートだったのは、野生の勘というか、まさに彼にしかできない芸当だった。










「……誰か来るね」
魔界之が、ふと目線を横にずらし、次いで顔をそちらに向けた。
不審に思った文次郎も、いぶかしんでそちらに目をやる。
魔界之には近づく何者かの気配なり音なりを感じるようだが、文次郎にはわからなかった。
自分の心臓の音ですべてが掻き消える。

ガサガサガサッ!
木の上から飛び出し、派手に木の葉を舞い散らせてその場に現れた者は、
6年ろ組 七松小平太
文次郎がよく知るその人だった。
「もんじ!!」
小平太が文次郎を発見して、ぱあっと目を輝かす。
しかしその顔が笑顔になる直前、小平太は文次郎のかたわらに魔界之がいるのに気付いた。
魔界之はとっくに小平太に気付いている。

「こんばんは。奇遇だね〜、こんな場所で鉢合わせるなんて。散歩かい?」
「…?」
物腰柔らかな魔界之の態度に、小平太は敵視すべきか、顔に出して迷った。
だがそれも一瞬のこと。
今の状況から見て、小平太は話しに聞いた山賊と魔界之を同一視した。
「お前っ、もんじに何してんだよ!」
身に備えていた手裏剣を手にすると、魔界之に向かってシュッと投げる。
魔界之は数歩飛び退いてそれを避けた。地面に食い込む四方手裏剣の刃先。
その隙に小平太が文次郎のそばに寄って、彼の安否を確かめた。

「もんじ、大丈夫か?」
「…クソッ…」
文次郎は苦しそうな顔で腕を抱き、体をかすかに震わせている。
さほど大事ないように見えるが、いつもの彼を知っている者ならそうは思わない。
何ともない文次郎なら、小平太が来る前に魔界之と死闘を繰り広げているはずだ。怒髪天でギンギンに忍者しているはずだ。
どうしてこんなに大人しい?
「もんじ!?」

「あんまり揺さぶらない方がいいよ、薬の効き目がよくなっちゃうから」
小平太に向けた魔界之の声。
クスクスとおかしく笑う魔界之を、小平太は怒った顔でキッと睨みつける。
「もんじに何した!?…すぐ元に戻せ!」
小平太が手裏剣を手に怒鳴って脅すと、魔界之は身をすくめて困った素振りをする。
「残念だけど、元には戻せないなぁ」
「…!!」
言い終わらないうちに、小平太が手にした手裏剣を魔界之に投げつける。
シャッ シュッ ガッ ガガッ
魔界之は紙一重で手裏剣を避わしながら、本当に困ってきた。
小平太は人の話を聞かない部類だと察したのだ。
「ちょ、待ちなさい。危ないなぁ……もうっ」
問答無用の小平太に業を煮やして、魔界之が逃げを取る。
「待て!!」
小平太が呼び止めるが、魔界之はそのまま闇に姿を消した。

「…あいつ!!」
小平太がカンカンになって後を追おうとする。
それを引き留めたのは、小平太の装束を掴んだ文次郎の手だった。
「もんじ?」
少し冷静になった小平太が、文次郎に向き直る。
文次郎の表情はさっきより苦しげで、額には汗がじわりと浮かんでいた。
「深追いは、危険だ。行かせておけ」
かすれた声は信じられないほど弱々しい。
小平太は本格的に文次郎を心配した。
「だ、大丈夫か!?もんじ…どこが痛い?」
文次郎は質問に答えず、ゆるく首を横に振った。
揺さぶらない方がいい。薬の効き目がよくなる。
魔界之の言葉が気にかかって、小平太は文次郎に触るのさえはばかられた。
同時に、魔界之のいけ好かない笑顔が頭にちらつく。
小平太に、やはりふつふつと怒りがわいてきた。
大事な友人をこんな目に遭わせた輩を、逃がしておくことは許しがたい。一発殴らないと気が済まない。

すっくと立ち上がった小平太を、文次郎はやや見上げる。
「私やっぱあいつ追う。そんで、ドクタケ城から解毒剤とってくる」
小平太の決心に、文次郎が驚いて目を丸くした。
魔界之が逃げ戻るとしたらドクタケ城だろう。そこを目指せば道中彼を見つけることもできる。
コテンパンにした魔界之を人質に城を脅迫し解毒剤を奪うなりしたら、ここに戻ってくるつもりらしい。
「もんじ、ちょっと待っててね」
「ま、待て」
「うん、すぐ戻るから。待ってて」
「違…っ」
文次郎が止めるもあたわず、小平太が魔界之を追って姿を消す。
「小平太、あのあほ…!」
文次郎は苦々しげに吐き捨てた。
飲まされたのは、言いづらいが、解毒剤のある毒ではないのだ。
病んだ体に鞭打って、文次郎がふらりと立ち上がり、彼らの後を追った。




深山の中程、大木の密集した区域。
微風でも重々しい葉擦れの音がザワザワと森を騒がしている。
「なんで追ってくるのかなぁ、君は」
およそ人の立ち入る場所ではないそこに、あるはずのない人の声。刃物を交わす鋭い音。
人間が2人、木の上を飛び交いながら攻防戦を繰り広げていた。

魔界之の握る直刀が、きらり、月明かりを鈍く反射する。
「あのままあの子を学園に連れて帰れば万事解決、でしょ?」
「ごまかすな!」
あくまで温厚な態度をとる魔界之に、小平太が体当たりまがいの乱暴な攻撃を仕掛ける。
「わわっと……そんなに私が許せない?」
「ったりまえだ!もんじをっ…ヒドイ目に、あわせやがって!」
直刀を振り回すのに合わせて小平太が怒鳴る。
無鉄砲で粗野な攻めに見えて、刃先が狙うのはことごとく人体の急所。
息継ぐこともせず技を繰り出す小平太の威力もすごいが、それを難なく受け流す魔界之もかなりの手練れ。
守りの体勢を崩さない魔界之には怖じ気づいているというよりむしろ相手にするまでもないという格上の雰囲気があった。
小平太の怒りは行き場を失っているが、時が経つにつれ勢いも衰えていく。
頭の中に冷静さが戻り、一旦地面に降り立つ。魔界之もそれに続いた。
自分の荒い呼吸音が聞こえる。見る限り魔界之の方は先ほどと変わらぬ、すました顔。

「早く戻った方がいい」
魔界之が言った。
小平太が思い描いたのは、苦しげな顔をしている文次郎だ。
「さっきも言ったけど、彼が服した薬に解毒剤はないよ」
「どういう意味」
「媚薬だから」
魔界之の言葉に、小平太の顔が固まった。
「彼に飲ませたのは、いやらしい気分になっちゃうただの強壮剤だよ」
表情のない小平太に対し、魔界之はとてもおもしろそうな顔で微笑んでいる。
「さぁ、君はどうする?」




重々しい葉擦れの音がザワザワと森を騒がしている。
頭上彼方で野鳥のおどろおどろしい鳴き声が響いた。
文次郎はびっこを引きながら獣道を歩く。
泥臭い匂いを感じるとぬめった水たまりに足を取られた。
「くっ…」
こんな何の変哲もない山道、いつもなら何でもない。ほふく前進で突き進んでやるのに。
足が思うように動かない。トコトコふつーに歩けもしない。
怪我した部位はおろか、体全体が鉛のように重い。
「はぁ…はぁ…」
疲れたわけではないのに、荒い呼吸が整わない。
何たる様だ、情けない。それでも忍者か。
文次郎が屈辱で顔を伏せた時、斜め前から枯れ枝がバキバキと踏まれる乾いた音がした。
誰か来る。文次郎はハッとして顔を上げるた。

やってきたのは、先ほど文次郎を襲った山賊の1人。ヒゲ面の中年だった。
ボロボロの布を貼り合わせた粗末な着物に、そこら中にひび割れがある鎧を申し訳程度につけている。
ハゲ頭には鉢巻き。腰には帯刀。ぶらぶら揺れる手には酒瓶を持っていた。
「あ?おめぇはさっきの小僧じゃねぇか。んでこんなとこにいんだよ」
山賊は訛りの強い口調でそうまくしたてた。
文次郎は山賊をギロをにらみつける。
山賊は文次郎と目があって、驚いたように目を丸くしたが、足を怪我して、息も絶え絶えの彼は山賊にどのように映っただろう。
「ほ〜う?おめ、例の先生ぇから逃げてきたんか?」
ひょうきんな声を出して、山賊は顔に好色な笑みを浮かべた。
文次郎の体に悪寒が走る。




「もんじー!!どこだー!!」
小平太が大声を出して森を駆ける。
木の枝から枝へ飛び移り、瞬時に次の木へ身を乗り出す。
底の見えない断崖絶壁の亀裂すら易々と飛び越える。
風の裂ける音が耳をかすめた。
それ以外は何も聞こえない。
「もんじー!!返事しろバカー!!」
先ほどの場所に戻っても、文次郎の姿はなかった。
戻るって言ったのに。待っててって言ったのに。どこに行ったんだ。ばかばかばか。
小平太は顔をゆがめて、また大きく口を開けた。
「バカもんじーーー!!」


ダァンッ

「!?」
銃声。もしくは何かの爆発音。
小平太は音のした方に目を向け、顔を向け、少し止まり、深く考えなかったが、体を向けて、そっちに走った。

向かった先、林道の行き止まりには寺があった。
小さくてボロボロの、もう何年も人の出入りがなさそうな廃寺だ。
その中に人工的な明かりが灯っていた。
耳をすませば複数の低い声が聞こえる。
『先輩が僕のせいで山賊に捕まったんです』――思い出した団蔵の証言。
山賊。銃声。
小平太は悪い予感がして、廃寺の中に駆け込んだ。




森で遭遇した山賊は、錆びついた刀を文次郎の首に添えて脅し、文次郎を山寺の中に連れ込んだ。
そこは朽ち果てた廃寺だったが、山賊らの隠れ家と化していた。
黒ずみひび割れた仏像が転がる釈迦堂に、汚い身なりの野郎がだらしない体勢で酒をあおっている。
「おい、おもしれーもん見つけたぞ」
鉢巻きの男が文次郎を突きだして周りに言った。
山賊の中には表情を一変する者も数人。
「オイ!そいつぁ俺の名刀をかち割った野郎じゃねぇか!」
「先生ぇってやつが連れてったんじゃねぇの?んでここいんの?」
山賊たちはへべれけで酒臭い。相当できあがっているようだ。
「知らねぇけど、おおかた逃げてきたんだろ。なんか弱ってっし、ちょうどええ余興になる」
鉢巻きの男が手を離すと、文次郎はドタッと体を倒した。
山賊たちは少し驚いた。昼に会った時、俊敏な動きで自分たちを蹴散らしていた若者が、今は我が家で虫の息なのだ。
「煮るなり焼くなり好きにせぇ」
「へへっ、こりゃいいや」
さあどうやっていたぶり殺そうか。
首を落とせ。いいや苦しみは長引かせた方がいい。指を切ってしまえ。火にかけるか。飽きるまで殴るか。
山賊たちは口々に残酷なことを提案し、盛り上がった。
当たれば大きいがチャンスが少ない、退屈するのが常の盗賊家業だ。新鮮な出来事に目がない。
そして、女のいない生活。
「嬲ってみちゃどうだ?」
誰かが言った。
「ああ?こんな男面に勃つわけねぇ」
誰かが否定するが、横からは肯定の意見が出た。
「そりゃあええ。俺ぁ穴さえありゃ獣にだって突っこめるぜ。乗った」
「やるとしたらいっちゃん先だな」
「暴れたら四肢切っちまえ」
話題のベクトルが決まった。

1人の山賊の手が文次郎に伸びる。
「やめっ、ろ!」
もちろん大人しく山賊の言いなりになる文次郎ではない。
必死に抵抗するが功を奏すはずもなく、不用意に山賊の怒りを買う結果になる。
「暴れんな!ぶっ殺されてぇか!」
大口で怒鳴られ、つばが飛んで顔にかかった。
それでも歯を食いしばって相手を睨みつける。眼力で人が殺せるなら全員皆殺しにしてやれるのに。
「生意気なツラしやがって」
「タマぁぶっこまれたくねがったら黙れ」
横からの割り込み。
文次郎の眉間にグリッと当たったのは歯輪銃の銃口。
南蛮渡来の高価なそれをどこから盗み取ったか、歯輪銃は山賊の手中に収まっている。
「…うっ…」
銃口を突きつけられ、文次郎には無駄な抵抗をする権利もなくなった。
大人しくなった文次郎の上に先ほどの山賊が覆い被さる。
乱暴に着物を剥がれ、無骨な手が直に皮膚に触れた。
「うあ…!?」
ビクンとはねる体。山賊の手がぴたりと止まる。
「おめぇ、えっらい感度じゃねぇか」
文次郎の反応を見て、山賊が下品に揶揄する。
「ぁっ…ぁ…」
「男ってのもそう悪くねぇもんだ」
「おい俺にもよこせや」
力の入らない体が、山賊たちのいいようにされる。
火にかけられたように熱くなった体は、汚い手にすら深入りを許す。
頭では死ぬほど嫌で、気持ちが悪くて、吐き気がするのに。
文次郎は舌を噛もうとしたが、気付いた男が布を噛ませそれもかなわない。
「……!!」
涙にかすむ視界。山賊の声が遠くなり、キーンと耳鳴りがした。

(…こへいた)
自分ではどうしようもできない状況下、助けにきてくれた友人を思った。
待てと言ったのに。誤解だというのに。勝手に突っ走って、大馬鹿者だ、あいつは。
助けにきたのなら最後まで筋を通せバカタレ。
(ばかたれ!!)
文次郎が胸中で怒鳴った。

その時はるかかなたで自分を呼ぶ声がした。

文次郎が目を見開く。
そこから取った行動は素早く、一瞬の出来事だった。

ダァンッ

「てめぇ何を…!」
文次郎は山賊から歯輪銃を奪い、頭上に向かって引き金を引いた。
文次郎の奇行にしばし呆然としていた山賊は、我に返るなりまた怒りで我を忘れた。
「ふざけた真似しやがって!!」
振り下ろされた拳。顔を思いきり殴られた。
反動で床に後頭部をたたく。頭蓋骨が揺れ、視界がぶれた。
歯輪銃が床にすべり転がる音。
「おい、誰か刀ぁ貸せ!俺の刀はこいつに折られちまった」
「ほらよ」
「さっさと貸せ!!」
山賊が後ろに手を伸ばす。
その手が、腕ごと斬られた。

「なっ!?」
腕を落とされ絶叫する男を除き、周りの山賊たちがざわめいた。
腕を斬ったのは山賊の仲間じゃない。
いつの間に侵入したのか、見知らぬ男だ。
文次郎と同じ深緑の忍装束を着た、七松小平太。
しかし手には血まみれの直刀を持ち、痛みにわめく男を見下ろすその視線は驚くほど冷たい。
味方の文次郎ですら、恐怖に身をすくませるほど殺気立っていた。

「お前たち、さぁ…」
小平太がぼそりとつぶやく。
「……まぁいいや。十数えるから、残って死ぬか逃げるか選べよ」
抑揚のない小平太の声は、それでいて高圧的で有無を言わせない。
何をと言い返そうとした山賊もいた。その横には武器を構える輩も。
しかし小平太がちらとそちらを向き、据わった目で睨みつけると、山賊たちは雁の群れが飛び立つように散り散りになって逃げ出した。
腕を斬られ、失神して倒れた男も仲間に連れられたか、残ったのは床にしみこむ血溜まりのみ。
小平太の握る直刀から、ぽたりと血がしたたった。




長い間、深く口付けられていた。
口内を舌で舐め回されるぬめぬめとした感覚に、文次郎の緊張で尖った神経も徐々に溶けていく。
「んう、ふっ…」
ぞくぞく 舌に舌を絡められて思わず声を漏らした。
小平太がやっとで顔を離す。
唇が唾液で濡れていたが、自分はもっと濡れていると思う。
少し眩暈がする。
「もんじ、大丈夫?」
小平太の声。心配しているのかひどく弱々しい。
文次郎は小平太が元に戻ったことにほっと安心したが、
反面、自分の体がもう制御の聞かない状態であることを認めざるおえなかった。

小平太が文次郎の頬にできた打撲傷をさすり、とても悲しそうな顔をする。
「ごめんな、もんじ。わたし間違ってた。ばかだった」
「お前…知ってんのか…」
「魔界之が言ってた」
文次郎が愕然とするのを止めるように、小平太の腕が文次郎の背に回る。ぎゅっと抱きしめる。
「でも、もう大丈夫だからな」
敏感な皮膚が他人のぬくもりに包まれる。
浅くて広い刺激に、文次郎の体がぞわぞわと小刻みに震えた。
「小平太…」
「うん?」
名を呼べば、小平太が自分をまっすぐ見つめてくる。
文次郎も見返す。潤んだ目。まるですがるように。
「体が辛ぇんだ」
「うん」
文次郎が手を伸ばして、小平太の袖を掴んで、くいと引いた。
「お前の体、貸してくれよ…」
小平太は別段驚いた様子もなく、さっきからのと同じように「うん」と言った。


ブンブンと、床の血溜まりにハエがたかってきた。


めり、と秘部に押し当てられた熱の塊が、圧力をかけて中に入ってくる。
むずかゆく疼いていたどうしようもない場所をぐりぐりと男根が押し擦ってくる。
「ひぃ…っ!」
「あ、ヤベ、すっげイイ」
小平太が感極まった声を出す。
「もんじのなか、きもちー」
腰を強くつかまれ、がくがくと揺さぶられる。
慣らされた結合部分はくちゅくちゅと卑猥な音を出してこすれ合った。
「うああ、あっ、あ」
男根が粘膜を行き来する刺激。初めて感じるものなのに、文次郎は悦んでしまった。
誘うように腰を揺らせば、食い込んでいるブツは促されるままさらに奥へ奥へ。グッグッ
「んううっ」
気持ちいい。もっと欲しいと、無意識に足が開く。いやらしく濡れた下半身が露出し、小平太の目にさらされた。
「うわあ、もんじ。すご…」
視線を感じるだけで、文次郎の蜜まみれの性器がぶるりと震える。
「あ、こへいた…!」
「もんじ」
ぐっちゅぐっちゅ
「やあっ、ああ…ふあ、あっ」
我を失って目で泣き・口で啼く文次郎。
小平太は涙をちゅると吸い取って、そのまま唇を頬のあざに寄せた。
他よりも熱を持つそこをあやすようにペロペロと舐める。
痛みを訴える文次郎に気付いてその行為はやめるが、代わりに胸の乳首をきゅっとつねった。
小さいながらもぴんと立ち上がる淡色の突起は特別に敏感になっていて、両手でくりくりといじれば今度は悦んでいる顔をして文次郎が切れ切れに喘ぐ。
「あ、やっ…でる、でるっ!」
とうとう自らの性器先端から勢いよく白い汁を飛ばして、文次郎は素直に射精の快感に酔いしれた。
「はーっ…はー…んんう」
きゅうきゅうと締まる尻の穴。小平太のものが圧迫されて気持ちよくなる。
「くぅっ…」
額から汗がしたたる。
小平太が目を細めて文次郎を見る。
男のものを尻に突っ込んで、汁まみれの体をだらしなく弛緩させている文次郎。そこに普段のギンギンな面影はない。
男らしい顔は同じなのに、欲に染まった表情は信じられないほど艶めかしい色気があった。
ごくりと、小平太の喉仏が嚥下したつばで動く。
「……わたし、もうだめかもしれない」
小平太が、不安げな声と顔でそう言った。
「わたしもうもんじとダチに戻れないかもしれない」

「魔界之に、もんじが飲んだ薬が媚薬って言われた時、わたしどんなこと想像したと思う?もんじを探しながら、抱きたいって、そればっか考えてた。
 山賊がもんじのこと押し倒してて、殴ったりなぶりものにしようとしてるの見て、キレちゃった。すんげームカついた。皆殺しにしなかったのって奇跡だ。
 もし、仙ちゃんやちょーじやいさっくんがもんじみたいになっても、多分同じように怒るけど、あんだけ怒れるかわかんない。抱きたいなんて思うかな?
 もんじだけかもしれない。こんなの。すごい。どうしよう。ヤバイ。もっとむちゃくちゃにしたい。もんじ。もんじ。すき。すきだよ。すき…!!」

小平太の男根が文次郎の一番深いところまで届いて、
どくん びゅるっ びゅ びゅくく
と先端から勢いよくどろどろに濃い精液をほとばしらせた。
絶頂を味わう小平太の苦悶した表情。歯を食いしばるくせに、それでも文次郎にしゃべることをやめない。
「ああっ…どうしよう、ごめん。すき。すきだもんじ。すきだ」
小平太が囁いたり、口づけたりしてくるのを、文次郎は自らも求めるようにして受け入れた。
それでも、頭の片隅に追いやられた理性では、
(今、そんなこというなよ)
と思った。
首に手を回してきつく抱き合えば、互いの体の熱さは尋常じゃない。
胸の鼓動は大きくて速い。ドクンドクンと波打っている。
いきりたった体はもうどうしようもないけれど、
心まで流されたら取り返しがつかなくなる。そんな気がしてとても怖かった。





「あ〜あ、朝日のぼっちゃった」
「……てめぇが何度ももっかいもっかいって強請るからだ、バカタレ」
「だってー」
「だってじゃねぇ。ったく、オラ、さっさと学園戻るぞ」

「もんじー」
「なんだ」
「わたしさ、もんじと恋人になりた……イタッ!」
「それ以上言うな」
「なんで!?どうして!?さっきまでもんじわたしの下ですんげーあんあん言ってたじゃん!!」
「殺されてぇのか…」
「すいませんごめんなさい」
「……最初から、体貸せって言っただろ。それだけだ。俺は、お前とはダチでいたい」
「でもわたしはもう無理かもしれない。ねぇ、ちゃんとわたしの目ぇ見てしゃべってよ」
「……」
「もんじが好きだよ。だいすきだよ」
「……お前とは、ダチでいたいんだ」
「わたしのことキライ?」
「違う……多分、俺も好きだ。お前のこと」
「!!」
「でも俺は、お前と…自主トレとか、予算で大喧嘩とか、後輩自慢とか、そーゆー気楽でおもしれぇことしててぇんだよ」

「すればいいじゃん」
「あ?」
「恋人だって自主トレもケンカも後輩自慢もするよ、きっと。全然今と変わらない。だって、ただ、誰よりも好きって気付いただけだもん」
「……」
「なぁ、それでもダメか?わたしは、もんじと恋人になりたい」
「……俺の、体に惚れたとか言うんじゃねぇだろうな」
「?」
「だから、その…さっきまでのは薬飲んでたせいだから、これから…するとしても、あんなんじゃねぇぞって言ってんだよ」
「バカもんじ」
「なんだとー!?」カチン
「体だけに惚れてるわけじゃねーよ。もんじとどんぐらい一緒にいたと思ってんだ?6年間!」
「……」
「6年分のもんじがいなきゃ、わたしゼッタイもんじ抱かなかった」
「…こへ、」
にこ!
「それにわたしこれからもんじ開発する気満々だから。薬なんかなくたってすぐ、そうだなぁ、突っ込まれたら即出し(ところてん)くらいにはさせ……イダッ!?」
「やっぱお前なんか嫌いだバカタレ!!」
「なんだよー!わたしはもんじ好きだ!こら、おいてくなよー!もんじーい!」



















(こへ文/終)