「ドリレンジャースーツは、とある遺跡から私が発掘したものだ。ある組織から、この町を守るために」
沈黙を破ったヒラオの顔は、すでにもとの表情を取り戻していた。
「ある組織?あのア・サヌゥとかいうマヌケ面どものことですか?」
「そう・・・邪悪な神を信仰し、この町を我が物にせんと企む悪の組織『サヌゥ』だ。私は、とある事件をきっかけにサヌゥの野望を知り、それを阻止するためにドリレンジャースーツを発掘し、秘密結社DVを創設したのだ。
発掘したスーツは5つ。私は、スーツを使いこなせる人材として彼ら4人をスカウトし・・・そして今日、君が来てくれた。
ドリレンジャーは、5人揃ってこそ真の力を発揮する。頼む、力を貸してくれ!」
言いながら、ヒラオはNモトの両肩をガッシとつかんだ。
「・・・・・・」
Nモトは答えられなかった。その瞳に浮かぶのは、戸惑いと迷い。
そう、Nモトは迷っていた。というのもNモトは、ドリブルーに変身しての戦いで、今まで感じたことのない充実感を感じていたのだ。
しかし、得体の知れない組織と戦う事には、やはり抵抗があった。理性が、安易に頷くことを許さないのだ。
「悩むことなんて無いだろ?」
葛藤するNモトを現実に引き戻したのは、黄色いジャージの男の声だった。確か、上 高之助という名だったか。
「いや、悩む余地なんて無い、と言った方がいいか・・・。Nモト君よ、おまえさんはもうドリブルーから逃げられないんだぜ?」
「え?」
高之助のからかうような言葉は、Nモトには理解できなかった。
「そうですよ。だって、そのジャージもう脱げないんですから・・・」
続くオカ=モッチの言葉は、理解できた。しかし、Nモトの脳は、しばらくの間その言葉を受け入れようとはしなかった。
しばしの空白、そして・・・
「えぇーーーーーーー!!」
部屋中に、Nモトの絶叫が響きわたった。
薄暗い部屋に、激しい音楽が鳴り響いている。
部屋にいるのは、ドラムセットに座った男ただ一人。しかし、部屋に響くのはドラムの音だけではない。叫ぶようなメロディーとうなるようなベースラインも確かに聞こえている。
なぜか?答えはごく簡単だった。その男が、一人で演奏しているのだ。3つの楽器を6本の腕で。
人ならざる姿をしたその男は、6本の腕の内、上の2本でスティックを握り、真ん中の2本でクラリネットを奏で、下の2本でエレキベースを操っていた。
と、突然音が止まった。
「入れ」
演奏をやめた6本腕の男が、扉に向かって声をかける。大音量の演奏の中で、扉の向こうの気配を鋭敏に感じ取ったというのか。
重々しいと共に扉が開き、一人の男が入ってきた。ガスマスクをかぶり、背に何かのタンクのようなモノを背負っている。
「商店街混乱作戦を遂行していた3体がやられた・・・」
「また、ヤツらか・・・?」
ガスマスクの言葉に、6本腕は忌々しげに問いを返した。
「そうだ、しかも・・・5人目が現れたらしい」
「そろったか、厄介だな・・・。ゲル・サヌゥはまだ使えんのか?」
「もう少しだ。次の作戦には使えるだろう」
「そうか・・・」
その時、
ブッッ
不審な音が鳴り響いた。同時に広がるまろやかな悪臭。
「自分、サイアクやわー!」
6本腕は、瞬時にガスマスクから飛び離れて叫んだ。
「ちゃうって、俺ちゃうって!!」
「アホか。この部屋にいんの俺と自分だけやろ!」
「ちゃうねんって!あれは屁じゃない・・・・・・うわっ、クッサー!!」
「自分でクサイとか言うなよ!ホンマ最悪やで!?」
犯罪結社サヌゥ本部の一室で、実質上のトップといえる大神官の二人はいつまでも言い争っていた。
続く
あとがき
なんと、突然の前後編です。
よって今回は、イエローが死ぬどころか戦闘シーンすらありません。なんか、前回の事後処理に妙に時間がかかってしまってねぇ・・・。と、いうわけで後編をお楽しみに。今度こそ、戦隊モノ的展開になります。
出来る限り早く書き上げるように善処する所存ですので、次回も読んでおくれ。