月1回行っています(感覚統合療法の会)での取り組み・様子および生活・学習面の特徴をご報告させていただきます。
@ 姿勢・運動について
りょうくんは筋肉の張り具合(「筋緊張」と言います)が低いために、筋肉の収縮を持続的に保つことが苦手です。そのため、長時間,姿勢を一定に保つことが困難です。学校の授業時間中も椅子にもたれる,机につっぷす等,姿勢が良いとはいえない状況です。周りからは行儀が悪い,やる気がないように見えてしまいますが,決してそうではなく,筋肉が上手く働かない状態なのです。姿勢が悪いことを注意することは効果がありません。姿勢を保つことは通常は意識せずに行っていることなのです。このことを注意し,崚くんが姿勢を保つことに意識が向いてしまうと,本来,脳でしなければならない学習に意識が向かなくなってしまいます。私たちの脳は一つのことしか意識(考えること)できないのです。自動車の運転を最初に行ったとき,一つのことを考えると他のことができなくなることは経験されると思います。意識しなければ自動車の運転ができない時に,他のこと(今日の夕食のメニュー等)を考えることはできません。りょうくんの場合,姿勢について注意するよりも,より楽な姿勢で学習させることが重要です。
また,筋緊張が低いことは筋肉からの情報(固有感覚と言います―どのように筋肉が引き伸ばされたのか、関節がどのように曲がったり伸びたりしているのか、どのくらい力が入っているのか、など)が分かりにくく、自分の身体の位置や運動が感覚としてわかりにくい状態です。
A 自分で読むと文章問題が分かりにくい
文章問題を自分で読むと、内容が理解できにくい場合があります。しかし、読み上げることで「あ、そうか」とすぐに内容を理解し、答えることができます。文章を読む、ということは1つの小さなものに焦点を絞り見続けたり、目を文字に沿って動かしたり(追視)、と目のコントロールが要求されます。
文字を覚えたての子どもが一文字一文字読むことはできるようになっても,意味は理解できないことがよくあります。文章を読んで理解するためには,スムースに文章を目で追うことが重要です。このことが難しいと読めるが意味は理解できない状況になります。また,私たちは読んでいる文字の先の文字も視野に入れ,意味を捉えながら読んでいます。例えばパソコンの画面に文章が一文字一文字出てくると,文章を理解することが非常に難しくなります。崚くんは目で追うことも先の文字を視野に入れることも難しい状況です。文章問題を読ますことも重要な課題ではありますが,読み上げられた文章を聞いて答える、すなわち目の動きが要求されない状況で学習を進めることも重要です。検査でも聴覚記銘は高い能力をもっています。
また読ますときも,文字の大きさを配慮することや,単語単語の区切りを明確にしておくことで楽に読むことができ,そのことが理解を促進すると考えます。
B 漢字が苦手
漢字は読むことよりも,書くことが苦手です。特に新しい複雑な漢字を覚えるのに時間を要したり、一度間違えて覚えてしまうと修正されにくい(字体・読み方など)特徴があります。しかし、言葉で、「土を書いてハを書いてその下に口」という説明をすると分かることはできます。また、漢字を再生することが難しい場合でも、一度見るとすぐに書くこともできます。
漢字を書くためには、漢字を構成している線を分解し,それを位置,方向を考慮しながら再構成することが必要となります。さらに,漢字を記憶するためには見て覚えるのではなく,書くことすなわち,運動で覚えることが重要となります。構成課題は検査結果をみても苦手な課題の一つです。そのため,通常の学習の仕方では非常に効率が悪い状態です。前述したように「土を書いてハを書いてその下に口」は彼の得意な聴覚記憶を用い,かつ,苦手な構成をカバーするやり方です。彼が構成できる簡単な形を組み合わせ学習させることで効率よく学習できると考えます。
また、漢字を運動で覚えることの難しさは前述した,自分の身体の位置や運動が感覚としてわかりにくい状態に起因していると考えられます。大きく文字を書かす,抵抗の強い筆記具(クレパス等)を用いることで,運動の感覚がわかりやすくなり学習しやすくなると思います。
C 定規・コンパスを使用しての図形の作成
身体の不器用さから、手先も不器用で、道具を使いこなすことが苦手です。定規を固定しておく側の手と線を引く側の手との協調性が問われます。またコンパスの使用では、使用する側の手の中で、針を固定しながら動かすといった固定と操作が同時に要求されます。こういった細かな動きに対して、身体で固定・操作の感覚をつかみにくいため、苦手となる1要因になっていると思われます。
定規であるならば持ち手をつけて押さえやすくする,コンパスならば下にカッティングマット等を置きしっかりと針を差してから行う等の環境設定が重要です。本来の学習とはあまり関係のないところで努力,時間を使うのではなく,教えたい内容をしっかりと絞り込むことが大事です。
D 整理整頓が苦手
机など整理することが苦手で、物が机から落ちたことに気付かないことがあります。これも、空間の把握・図地判別との関連が大きいと考えられます。空間がどうなっているのか、視覚的にしっかりと把握してから、何をどうしていけばいいのか、手順を立てていく必要があります。順序立てられるということは身体をどう使えばいいのか、物をどのように扱えばいいのかについて考え、計画を立てていかなければいけません。りょうくんにとっては、その両方が難しいため、整理整頓が苦手となってしまっているのと考えられます。
現在、(感覚統合療法の会)では、月に1回、個別セラピーと集団セラピーを行っています。個別セラピーでは、姿勢・運動面を中心に取り組んでいます。全体的に筋緊張を高め、身体を遊具に合わせて、タイミングや全身の協調性を要求される活動を取り入れています。その中で、自分自身の身体をしっかりと知り、空間をしっかりと捉えるということを目指しています。
2005年1月7日
月に一度通っている感覚統合療法の担当の先生から、長男の様子を文書にしていただきました。
「りょうちゃんの役に立つなら・・」と快く公開することを許可してくださいました。