<盲目の猿>
半年ぶりの帰郷だった。
私は地元の駅で電車を降り、実家へと徒歩で向かっていた。
駅周辺は発展が著しく、帰ってくるたびに風景に新しいオブジェが追加されていくが、少し離れてしまえば見覚えのある、何ら変わらない場所が広がっている。
実家に着くまでは徒歩で二十分ほどかかる。一時間に一度しか閉まらない踏切が、ちょうど中間地点となる。
その踏切を通ってすぐのことだった。
後方から小さい、粗野な話し声が聞こえた。
それは徐々に大きさを増し、こちらに近づいてくる。
暫くして、私の横を二台の自転車が通り過ぎた。
声の主は一組の高校生の男女だった。外見的には特徴もない、今時『普通』と称されるような高校生だろうか。
ただ、着ている制服には見覚えがあった。恐らくは私の母校の生徒だろう。
目が合うこともない、知り合いでもない彼らは私と何ら接点を生み出すこともなく、私から遠ざかっていく。
会話を聞くに、どうやら男が女を委員会に誘っているらしい。しかし男の誘いに対し、女の反応はいまいち乗り気ではないようだった。
『一緒の委員会ならずっと一緒にいられる』
男がそんなことを言うと、女も勿体ぶったような声で、比較的前向きな答えを返すのだった。
そうして、口から白い煙を漏らしながら、彼らは私の前から消えていった。