<7秒間の花見>
季節は既に春と言われてはいるが、三寒四温という言葉もある通り、空気はまだまだ肌寒い。
それが夜、ましてや原付で走っていれば尚更で、私は寒さにほんの少しだけ体を震わせながら、それでもどこか心地良いこの寒さを愉しみながら、のんびりと自宅を目指していた。
家までの行程を半分越えた所に母校の小学校が建っている。校庭から道路に向かって桜の枝が飛び出し、散った花弁が薄暗いコンクリートに白桃色の化粧を施していた。
そんな風情を感じさせる場所を通り過ぎる際、私は少しだけ顔を上げた。
視界の左端は白い桜で埋まり、残りには澄んだ夜空が広がっている。
今夜は特に空気が澄んでいるように感じる。
今日の夜桜は、さぞや美しく映ることだろう。
そして思い出す。
明日は雨が降るということを。
つまり、今夜は地元で満開の桜を観る最後のチャンスということになる。
そんなことを思いながら、私はバックミラー越しに今年最後の花見を愉しんでいた。