<箱>
私には父がおらず、母がおらず、兄弟もいない。
気付いた時には小さな箱部屋に一人ぼっち。
脱出する知恵も無く、術も無く、勇気も無かった私は、不平不満を口から吐き出すことしかできなかった。
そんな私を見て、
小さな人間たちは私を暖かい寝床へ連れていこうとしてくれた。
しかし、彼らには実行する力が足りなかった。
そんな私を見て、
大きな人間たちは私に粗末な食事を与えてくれた。
しかし、彼らには厳しい心が足りなかった。
そんな私を見て、
皺くちゃの人間たちは何事も無いように素通りしていった。
しかし、私は正しい彼らを恨むことなどできなかった。
思わせぶりな事柄は数あれど、結局、私の境遇は変わらない。
私は雨に打たれ、風に弄られ、日に日に命を削られていった。
だがある日。そんな私の目の前に二人の人間が現れた。
彼らは私の姿を見つけると迷いなく私の下まで来て、私の体を抱き上げた。
生まれて初めての暖かさに包まれる。私は至高の幸せを感じ、ないてしまった。
彼らは私を抱いたまま、どこかへ歩いていく。
どこへ着くのかは、まだ私は知らない。