<しいん>
病院にある男が入院していた。
男は不治の病でここ数年ベッドに縛り付けられ、身動き一つ取れない日々を過ごしていた。
何年経っても男の体は回復の兆しすら見せない。
それどころか、最近はますます体調が悪くなり、もうこのまま死んでしまうのではないかと男は恐怖するようになっていた。
そしてある日、男は主治医に言った。
長い間、閉ざされていた喉は、その殆どを掻き消してしまってはいたものの、
『生きたい』
と。
弱弱しいながらも、決意を秘めた瞳を主治医に向け、男は自分の気持ちを表したのだ。
主治医はそんな男の言葉を神妙な顔をして受け取った。
そして数日後、一本の注射により男は安楽死した。