<告白>

 

 

 

 

 

 学校の帰り、靴箱に手紙が入っていた。

 差出人は同じクラスの相津里奈という女子だった。

 相津は内気な女で、オシャレらしいオシャレもせず、友達も数人だけ、本を読むことを人生最大の娯楽にしているような奴だった。

 それでも中々の美人で、実は密かなファンが多いという噂もあった。だから、俺としてはそんな相津から手紙が来ただけで、頭が沸騰しそうなほどの期待を抱いてしまっていた。正直――いや、正直でなくても好みなのだ。

 だけど、俺はそんなに顔が良い訳でもないし、運動や勉強が出来る訳でもない。正直、相津が俺のことを好きになるなんて――まだ、手紙を開けてもいないのに――考えすぎだろう。

 

と、自分でも思っていた。

 震える手で手紙の封を切ると、そんな俺を裏切る内容の文章が俺の目に飛び込んできた。

『――お話したいことがあるので、放課後、誰もいなくなった時間に教室で待っています』

 俺は思わず飛び跳ねてしまった。あの相津が! 俺に! 告白をする!

 こんなことがあってもいいのか。もしかしたら、夢でも見ているんじゃないのか。

それを確認するために、靴箱の角に頭突きをしたら、血が出そうな程痛くて、また頭をぶつけた。

 

 

三年ほど待った一時間後。校舎に人気はすっかりとなくなり、俺は教室へと向かった。

待っている間、俺はすっかり冷静になって落ち込んでいた。

やっぱり、相津が俺に告白するなんて有り得ない。相津の性格を考えればそれは明らかだし、きっと、これは俺を馬鹿にするための悪戯に違いない。

それでも今、教室に向かっているのは、俺を馬鹿にしようとした奴の顔を拝むという建前で、ほんの僅かな可能性に希望を託しているからに他ならない。

教室の前までやって来た。緊張を隠せないまま、こっそりと教室の中を覗いた。

――いた。

悪戯じゃなかった! 夢じゃなかった!

相津が、誰もいない教室の中、自分の席に座っていた。

俺は、

「やあ、相津さん。用って何?」

 とカチカチな声を出して教室に入っていった。

「あ……吉崎くん……」

 相津が立ち上がって、俺の方へと歩いてきた。

 教卓の前で、俺と相津が立ち並んだ。互いに目を合わせて見つめ合う。

 震える瞳、握り締められた手、今にも開きそうな唇――今が夕方じゃなかったら、相津の頬が染まっているのが見えたかもしれない。

 俺は、体の震えを止めるので精一杯だった。

「あ、あの……」

 相津がついに切り出した。心臓がイカレたように激しく脈打ち、音が聞こえるどころか、今にも血管が破れて血が吹き出てしまいそうだ。

目を閉じて、一瞬の間が置かれた。

「あ、あたし――」

――来る!

「吉崎君のことが――」

 今、最高の青春の一ページが開かれ――

「――――だいっ嫌いです! ごめんなさいっ!」

 相津は深く頭を下げて、俺の顔を見ずに走り去ってしまった。

 俺は動けなかった。遠くから、運動部の掛け声が聞こえてきた。

「……なんでやねん」

 なんとも心地の悪い、夢だった。

 

 

END

 

 

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