<僕はこうなると思うんだ>
真っ暗闇を抜け、あなたがたどり着くのは狭く薄暗い部屋。
そこにはソファー以外に何もなく、長旅で疲れたあなたはそのソファーに沈むように座り込む。
座りながら部屋を見回したあなたは、そのあまりの空虚さに驚くだろう。そして、壁を、天井を、一通り見回した後、床がないことに気付き、改めて驚くのだ。
脚をぶらぶら揺らしながら、どうしたものかと一考するが、どうしようもないに決まっている。
そうして途方に暮れた時、あなたの目の前に大きなテレビが現れるのだ。
薄闇の中、突然現れたテレビにあなたは驚き、その真っ黒な画面を凝視するだろう。テレビは、あなたが顔を近づけようとしたその瞬間に、勝手に電源が入って映像を流しだす。
テレビが映すのは懐かしい場所、懐かしい人、そして風景。かつて自分が住んでいた場所。
テレビは調子が悪いようで、映像はゆらゆらと揺らめいているが、それでもあなたの注意を惹き、感動させるには十分だった。
あなたは歓喜し、テレビの映像を食い入るように見つめるが、暫くするとテレビの電源は切れ、再び部屋は暗闇に包まれる。
そして、あなたは待つようになる。再びテレビに懐かしい風景が流れることを。
テレビは半日起きに映像を流した。テレビが消えている間は何もすることはないが、あなたはそれでも構わず、テレビが映るを待ち続けた。
半日ごとにつくテレビ。流れる映像も長くて半時間だろうか。それだけのために、ずっと、ずっと。
しかし、
それならまだよかった。半日ごとに半時間。だが、時間が経つにつれ、テレビが映る感覚は長引いていったのだ。
半日が一日に、
一日が二日に、
二日が一週間に、
一週間が一ヶ月に、
一ヶ月が三ヶ月に、
三ヶ月が半年に、
半年が一年に、
そして、とうとうテレビが映像を映すことはなくなった。
あなたは落胆した。ここで待っていればいつかテレビは映るのかもしれない。しかし、いつ映るのか判らないテレビの為にいつまでも待っているつもりはない。
だから、あなたは部屋を去ることにする。いつの間にか床は元に戻っていた。あなたはずっと下ろしていた腰を上げ、明るく照明の点いた部屋を出て行くのだった。