<手首を切る貴女へ>
もう貴女にはこりごりだ。
貴女は悩み苦しむと、すぐに自身を痛めつける。
ある時は私の目の前で手首を切り、
またある時は薬を飲んだと電話を掛け、
今まで私に色々な自傷を見せ付けてくれた。
私は貴女に期待をしていた。
傍らに置く異性なら、欲塗れの猿だか人だか判らないようなものよりは、何かしらの特殊性を持ったものの方が好ましいと思っていたのだ。
だからこそ、私は期待していた。
貴女の悩みに、葛藤に、その先に彩られる心の色模様に。
私が何に落胆しているか。
恐らく貴女は解ってはくれないだろう。
手首を切ることに落胆するのか、
薬を飲むことに失望するのか。
そうではない。
自傷をすることは何の問題でもない。
何かに迷い悩んだ末に、その結果に行き着くことには何の不満もないのだ。
では何が不満か。
貴女がいつも自傷に行き着く、その原因が不満なのだ。
この世は暗闇に包まれている?
私を本当に愛してくれる人などどこにもいない?
病んでいるのは、己ではなく世界?
そんな、下らないことで。
精神を病んでいるわけでも、おぞましい過去を持っている訳でもない、ただ立ち止まって生きてきた凡人風情が。
無知無能なりに己を特別せしめようとする、その滑稽さが気に食わないのだ。
負の領域に特殊性を見出し、憧れ、その癖に愛だの生だの死だのと平凡なものしか求められない貴女に愛想が尽きたのだ。
だから、私は君と別れようと思う。
さようなら。正常なる君よ。
君は実に、平凡だった。