<夢よ>

 

 

 

 

 

 初老の男が泣いていた。

 

 彼は山奥の田舎で、日本家屋での質素な生活を送っていた。

 書を読み、自然と触れ合いながら細々と過ごす――若き頃の彼が夢を見ていた全てがそこにあった。

 彼は全てに満足していた。

 満足するのは当たり前だった。彼はこの生活を成し遂げるために、空っぽの三十年を送り続けていたのだから。

 ただ、老後のこの生活だけを夢見て、他には何も省みず生きてきたのだから。

 不満などあるはずがない。あるはずが。

 

 彼は泣いていた。

 彼の夢は達成されたのだ。

 

 

 

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