<殉恋>
私には心に決めた人がいる。
出会いは八年前。友人達と出かけたキャンプでのことだ。キャンプ場近くの川辺に彼女の姿を見つけた。
不思議な少女だった。キャンプ場だというのに連れは一人もおらず、何をするでもなく川の流れを見つめていた。
気になった私は彼女に声をかけた。彼女は振り向き、とても魅力的な笑顔を私に返してきた。
一目惚れだった。
美しさと可愛さ――艶やかさとあどけなさを兼ね備えた小さな顔、絹糸のように滑らかな髪、服の上からでも判る人形のような華奢な体。
ここまで美しい造りの人間がこの世に存在することを、私は初めて知ったのだ。女性を見て感動したのもこれが初めてだった。
その後、私は彼女との会話を楽しんだのだが、その時のことはよく覚えていない。多分、彼女の鈴のような声に聴き入り、癒される一方緊張しながら、終始上の空だったのだろう。気付いた時には私は仲間の下へと戻っていたのだが、ただ一つ、彼女と次に会う約束をしたことだけは覚えていた。
そうして。一年に一度の、真夏の夜の逢瀬が始まった。
私は毎年その川に足を運び、彼女と出会いを果たして語り合う。何を話したのかはいつも忘れてしまう。だが、会話をしている間はとても幸福だったということははっきりと覚えていた。それだけで満足だった。
何かを話した後、私と彼女は来年の同じ日に出会う約束を交わす。そして、次の年も全く同じことを繰り返すのだ。
そんなやり取りが、八年前から続いている。
何も不満はない。たとえ一年に一度だけだったとしても、彼女に会えるならそれだけで幸せなのだから。
ただ、一つだけ気になることがある。
彼女はこの八年、全く姿を変えていないのだ。
私もそろそろ気付き始めていた。
しかし、私には止めることができない。
今年もまた、彼女と会う日がやってきた。
私には心に決めた人がいる。
彼女の名前は知らない。