<暗闇>
朝起きて。目を開けてみると真っ暗で。
閉じても開けても変わらぬ暗闇。自分が潜り込んでいる布団だけが暖かい。
右を見れば小さな赤。左を見れば空虚な黒。
明かりを点けるはずのスイッチは、暗くてどこにあるのか分からない。
立ち上がってスイッチを探す。布団を越えたそこは一切の位置も感覚もない死後の世界だった。
手を伸ばせばそこにあるはずの壁が、ない。戻ろうとしても布団の感触が見当たらない。その内自分が立っているのかどうかもあやふやになり、遂には自分が目を開けているのかどうかも判断できなくなる。
怖くても眠れはせず、感覚は麻痺していく。
360度の暗闇に包まれて、人はいずれ光が差すことを期待する。逃げることもできずに、ただ体を小さく丸めて。
黒くドロドロに溶けた自我に再び光が差し込む時、人は新しい朝を開始させるのだ。
END