普段周りから沈着冷静、頭脳明晰、無表情、辛気臭いなどと言われている、およそ人間でない ように思われている手塚国光二十一歳だが、この手塚氏が人の子だと実感できる時がある。少し、 いや、かなり変なのだろうが、それは・・・。
ルシファー 真田弦一郎二十二歳は、粋な町屋レストランで腕を組んでいた。その姿は堂々としているのだ が、内心はへとへとと言ったところ。この普段リードしても黙って従うような、まるで戦前の妻の鏡の ような大人気ある目の前の男が、今、彼に対して大人気なく逆らっているのである。 「折角来たのだ、何か注文しろ」 「答えてくれるまで頼まない」 「手塚」 「答えろ」 「・・・・」 大の大人二人が、しかもどちらも女性にモテそうなくらいに男らしい男が、ずっとレストランの中 え睨み合っている光景は、滑稽だった。溜め息をひとつついて、真田がオーダーする。適当に 手塚の分も頼んだ。ただし、それと知れないように。長い付き合いなので手塚の生態をよく知って いる真田は、そこの辺り抜かりはない。 「で、何がききたかった・・・」 「昨日の夜九時四十八分に俺のマンションから約八百メートル離れた所にあるコンビニから、 約二十秒もかけて一緒に出てきた、おそらく年齢二十歳ぐらいと思われる白のパーカーの・・・」 「わかった。もう、そこまで詳しく言わんでいいっ」 恐ろしいまでに記憶している手塚から、真田を燃やさんばかりの気があがっている。幼い頃・・・ と言っても中学生だが・・・その頃からもう身につけていた雰囲気に、どれほどの人が彼の前に膝まづいたことか。 「誰だ」 言ってもわからんだろうに、と思いつつ答えてやる真田の方が今は大人だ。 「彼女は俺の会社に勤めている、俺の親父の友人のお嬢さんで―」 真田はつらつらとその素性・・・自分の知っている全てを手塚に話して聞かせた。全て言わなけ ればこの目の前にいる男が引き下がらないことを、真田は知っていた。 (ルシファーだな、こいつ) 堕天使の筆頭の名を出しながら、真田は手塚に言い聞かせる。 キリスト教神学にある七つの大罪は、多くデーモン(悪魔)の形で表されると言う。七つの大罪 とは、傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、貪欲、憤怒の七つである。これを1589年、デーモン学者 ペーター・ビンスフェルトは、七人の該当すると思われる悪魔のリストを作り出した。 ルシファーは、この七つの大罪がひとつ、傲慢に当たる。が、一部では堕天の理由とも言われ ている人間への嫉妬も当てはまるとしても良いだろう。 ルシファーは堕天前、『明けの明星』として天使の中で一番美しく、また神の玉座の右側を許さ れた唯一の最高位の天使だった。最も神に愛されていた。 (ほら、ぴったりだ) 手塚を見た真田は内心そう呟く。 「どうだ、これで気が済んだか」 「・・・・」 何も言わずにこちらを見る手塚の前に店員が料理を並べた。食欲を感じさせる匂いが漂う。この 嫉妬と傲慢にまみれた真田の恋人は、珍しく口元に笑みを浮かべた。内心真田は「きたな・・・」と 思っている。 ゾッとするほど官能的な表情を作った手塚は、手にフォークを持ちながら言った。 「 」 低い官能的な声は隣の席の人でも聞き取れなかっただろう。だが、この耳に入ってこなくとも、 真田には何を言っているのかわかった。 「・・・・」 沈黙で肯定する。その真田の前で、機嫌の直った手塚はまた無表情になって食べ始めた。 ふと、真田の手が止まる。 「手塚、帰りにコンビニ寄っていいか?」 「却下だ。別にいらない」 「・・・・」 怒ったように困る恋人の前で、手塚は機嫌よく食べて楽しんでいた。 〜Fin〜
|
もくまおう
の美濃さんより二周年のお祝いに頂戴しましたv 手塚がすんごいヤキモチ 妬いてますね〜。ストレートですね〜。それを受けた真田の反応も男らしい! ストレートだぁ〜 直裁で眩暈がしました。クラクラですv 美濃さんほんとにありがとうございましたv |