王者の憂鬱








 めずらしくヤツの元気がない。
 ま、知ったことじゃないけどな。


 そう思っていたのに、今日は随分と長い。
 自分の中で決着をつけるのは早い方だと思ってたが…。


 ……………。


 図体がでかいだけにぼんやりしていられると鬱陶しいな。
 男の二人暮しは、それなりに広い部屋にしろと跡部が言っていた意味が分った。
 もちろん、家のことに関しては無頓着なふたりだったから、  親切な(?)友人の言葉は素直に聞くことにした。


 ようやく納得…。


 ふぅと自分も溜息をついたのに気がついて、俺も鬱陶しいなと思う。
 あいつが元気がないからって、俺もそうなる必要はないのに。
 やっぱり、目に付くところにいるのはやめよう。


 机の上に散らばった、本や筆記用具を手早くまとめる。
 何故か急いでる俺はばらばらと消しゴムやら、しおりやらを落としながら  隣の寝室に移動した。


 普段なら、寝室で論文を書くなんて考えられない。
 多分、今だって書けるはずがないんだ。
 でも、あそこにはいたくなかった。


 会話のないのはいつものことだが、今日は空気が悪い。
 バフッとベットにうつ伏せになって寝転ぶ。
 頭に入らないとはわかっていながら、本に視線を落とした。


 ………何かあったんだろうか…。


 物音ひとつしない隣の部屋が気になる。
 本当は最初から気になってたんだ…。


 やっと素直になった自分を認めて、ベットから起き上がった。
 だけど、このまま隣に行くのは………。
 あの場から逃げるように来てしまったからバツが悪い。
 考え込んでいたら、ポケットの中がブルブルと動いた。


 電話か…。


 折りたたみのそれをパコッと開けて、ディスプレイを見ると、「真田」の文字。


 ………アホか。…お互い様、だな。


「なんだ?」
「どうして逃げた?」
「空気が悪かったからだ」
「そうか…」
「………聞いて欲しかったら言うんだな」


 我ながら、ひどい聞き方だと思った。気になるくせに。
 さすがの、真田も無言を決め込んでいる。
「なぁ、電話代勿体ないと思わんか」
「かけてきたのはお前だろうが、話があるなら来ればいいだろ」
「いや、特にない」
「………そうか」
 ふぅと溜息をひとつ漏らして、仕方ないなと電話口に言った。
「お前、昼何食べたい?」
「………手塚。お前突然なにを」
「いいから、何か食べたいものあるのか?」
「いや、特にない」
 さっきと同じ言葉だが、こっちの方が随分軽い。
「俺は、ハムとチーズのサンドイッチが食べたい」
「………それで?」
「作れ」
「たるんどるな、手塚。お前は自分の食べたいものを人に作らせる気か?」
「ああ、お前の作ったのが食べたいからな」
 そう言って、ベットから降りて、ドアを開けた。
 案の定、真田はドアの前にいて、俺が急に開けたから頭をぶつけた。
 そんなことは気にせず、電話を切って、きちんと目を見た。
 真田はぶつけた額をさすりながら、俺を見た。
 ふぅ…。今度は真田の溜息だった。
 くるりと後ろを振り返るとそのままキッチンへ向かった。
 その後について、さっきまでの重い空気が消えた部屋に入った。


 ………もう終わったのか。


 そうとなれば、予定は変わる。
「真田、外へ食いに行こう」
「はっ?!手塚!いい加減にしろ、さっきからなんなんだ」
「煩い、行くのか行かないのか、どっちだ?」
「行く前に、その散らばったものをかたせ」
 いわれた言葉に振り返ると、さっき落とした消しゴムが目に入った。
 口調はきついものの、表情はいつもの真田だった。
 ふーーーん、完璧に再生したわけだ。
 そう納得したら、素直に真田の言葉に従って、落ちているものたちを拾って、机の上に戻した。


「じゃあ、行くぞ」
 真田を振り返ることもせず、さっさとジャケットを手にとって家を出る。
 近くにはお気に入りのカフェがある。
 言わなくてもわかるほど、土曜の午前中にはそこへ行くのが決まりごとのようだった。


 店に入ると、いつもの席に座ってサンドイッチをたのんだ。
 真田は遅れること5分。少し怒った表情で、目の前に座った。


「遅かったな」
「……いいか手塚、良く聞け。  お前な、窓は開けっ放し、本はベットに放り出したまま、  それで出かけるとはどういうことだ?」
「窓はまずいが、本は帰ってからでもいいだろう?」
「ああ、もちろんそのままだ。それに、行き先も告げずに行くのもどうかと思うが…」
「お前は分ったじゃないか」
「……たるんどる」
 お店の人が来て、真田は、エスプレッソと俺と同じハムとチーズのサンドイッチをたのんだ。
「なぁ、手塚、お前は怒ってないのか」
 いきなり、おかしなことを聞くと思った。
 真田を怒らせるようなことをさっきからしてるのは俺の方なのに。
「何が?」
「俺が何も言わないことにだ」
「ああ、そんなことか」
「そんなこととは…」
「なんだ、か?  俺はお前の親友でも、悩み相談係でもないしな。  お前が自分で言わない限り俺はお前から無理に聞こうとは思わないぞ」
「………確かに、そうだが。お前は部屋からいなくなったではないか」
「お前な、あんなに重い空気の中で、俺の好きなカントが読めるか」
「……………」
 半分本当で、半分嘘だ。気になってしかたがないから部屋を出た。
 好きな本が頭に入ってこないくらい気になるから。
「ま、解決したんだろ?」
「ああ、お前のおかげだな」
「………何を言ってるんだ」
「お前が何も聞かずに普通にしていてくれたからだといってるんだ。  かんし…!!!!ッ痛。手塚!!!!」
 机の下で思いっきり真田の足を蹴った。
 真田にお礼なんて似合わない。ましてや俺に言うなんて、それもこんなことで。
「それ以上、血迷ったこと口にしたら、今度は立ち上がれないように蹴るぞ」
「お前はホントに足癖が悪い!なんとかならんのか」
「よし、それでこそ、真田だ」
 ニッと笑って真田を見る。
 真田は、今日何回目か分らない溜息を大きくついた。
 それから、ふたりでゆっくり食事をとった。
 どうして同じものをたのむんだとか喧嘩しながら。


「さ、どうする?これから」
「手塚、部屋を片付けるのではないのか?」
「別にいいじゃないか、帰ってからで」
「まぁ、そうだな。とりあえず出るか」
「ああ」


 今度はふたりで並んで店を出た。
 あてもなくフラフラと街路樹を眺めながら歩く。
「手塚、今日はお前の好きなところへ付き合うぞ」
 少し後ろから聞こえた真田の声。
「なら、海でも見に行くか?」
「悪くないな」
 そういった真田は、いつもの王者の風格だった。


END







happy birthday!!木島さま!!
こんな不思議手塚と真田さんですが、プレゼントですーーー。
返品期間は永遠で(笑)
お口に合えば何よりなのですけど…。
ハムとチーズサンドは最近見たTVの映画の影響です…。
遅れてしまってごめんなさい!
おめでとうございますvv
2003.5.16


の攣さまよりお誕生日の お祝いにと頂戴しました!
攣さまのわが道をゆく手塚が大好き! 真田を足蹴りしてるし、 ご飯つくれって命令してるし、言うこと聞かないし。もう、ほお擦りしたくなるくらい、可愛いの(●^o^●)
攣さま、ホントウにありがとう! 家宝にしますぅ!