最終更新日:2003.2.16 JST
2002年ニック・カサヴェテス監督作品(PG13) ニューラインシネマ配給 1時間56分
主演: デンゼル・ワシントン
その時、彼は病院を占拠した。要求はただ一つ、「心臓病の最愛の息子の命を救うこと」。「ジョンQ -最後の決断-」
オープニングは、森林の間のフリーウェーを疾走する1台の白いBMW。ドライバーは若い女性。何を急ぐのか彼女は無理な追い越しを続けるが、カーブで大きなトラックに追い越を掛けた時、前方からも大きなトラックが。正面衝突こそ免れたものの、スピンした車は追い越したトラックの前で横向きに止まってしまう。避けようもなく突っ込むトラック。衝突直前のドライバーの女性の無力の表情。そして、衝突・・・
舞台は一転。イリノイ州シカゴ。ジョン・クインシー・アーチボルド(デンゼル・ワシントン)=通称ジョンQは、妻デニース(キンバリー・エリス)と一人息子マイク(ダニエル・E・スミス)と平和に暮していたが、このところ、仕事場の鉄鋼工場の仕事も減り、金回りに苦労している。
そんなある日、少年野球大会の最中にマイクが突然倒れる。ERに運び込まれたマイクだが、院長のレベッカ・ペイン(アン・ヘッシュ)と心臓外科医のレイモンド・ターナー(ジェームズ・ウッズ)は云う。彼の心臓には大きな欠陥があり、心臓移植しか救う方法はない。残された時間は、数日かもしれないと。
ジョンQは心臓移植を望むが、心臓移植手術には25万ドル(約3千万円)かかるし、移殖待ちリストに載せるだけでも30%の7万5千ドルを前払いしなければならない。ジョンの医療保険はいつのまにかパートタイム扱いに変更されており、補償額は上限2万ドルになっていた。さらに、マイクの心臓欠陥の手術は保険ではカバーされないと。ジョンQは、同僚のジミー・パランボ(デヴィッド・ソーントン)夫妻の助けも受け、金集めに奔走するが、必要な額には程遠い。
そうしている間にマイクの血圧は低下を続け、意識も朦朧となっていく。そして、病院からは2万2千ドルを払ったにも関わらず、退院して自宅に連れ帰るようにと云う通告が。マイクの所に詰めていたデニースは電話でジョンに云う。「なんとかして! do it!」と。
ジョンQは病院に赴き、息子を移殖待ちリストに載せるようにターナーに詰め寄るが、埒があかない。我慢の限界に達したジョンQは ついにターナーを拳銃で脅し、ERに12名の人質と共に立て篭もる。
人質はターナ-医師を始め、看護婦、今日が初日だった研修医、赤ん坊連れのヒスパニック系の母親、お腹をおさえる妊婦の夫妻、腕を骨折している女性とその恋人らしき男などなど。彼らのジョンQを恐れる気持は、救急車で運び込まれて来た銃で撃たれた男の緊急手術を、心臓外科という畑違いのターナーに無理やりさせて、見事成功させたところから徐々に変わってくる。
ジョンQの交渉の相手は、シカゴ市警警部補のフランク・グライムズ(ロバート・デュヴァル)。彼はこの手の犯罪の交渉人をしているベテランの穏やかで人間味のある初老の男。ジョンQは、彼に院長のペインを呼び、息子の名前を移殖待ちリストに載せさせるように要求する。そして、破水が迫った妊婦の夫婦と、赤ん坊連れの母親を解放する。解放された彼らは云う。ジョンQはとてもいい人だと。
しかし、いっこうに犯人逮捕に進展しない事に痺れをきらしたのが、そこに現れた警察本部長モンロー(レイ・リオッタ)。パフォーマンス好きの彼は、穏やかな解決を志向するフランクを現場の責任者から解き、SWAT(狙撃隊)投入という強攻策に出る。そして、ERへのエアダクトに狙撃手を送り込む。
そして、ジョンQを狙撃しやすい位置に誘き出すために、デニーズに罠を掛ける。院長のペインが彼女に云う。マイクを移殖待ちリストに載せると。喜んだデニーズは、ジョンQに電話を入れる。しかし、その電話は、ERのある特定の電話機に繋がった。そう、狙撃手が狙いやすい位置にある電話機に。狙撃手がジョンQを狙うポジションに着いた。あとは、ジョンQが照準に入るタイミングを見定めるだけ・・・
その時、特ダネを狙うあるTV局が、ジョンとデニーズの電話の盗聴に成功した。2人の泣き笑いの電話のやり取りがUS全土に流れる。「移殖待ちリストには載せてもらった、でも、マイクはもう死にそうなの…」。さらに、TV局は病院のモニタの盗聴にも成功する。声だけでなく、ジョンQの姿もTVに流れる。人質の1人がジョンに云う。「お前がTVに映ってる」。その瞬間、モンロー本部長の指示でSWATの狙撃が行われた。US全土に流れる映像の中、ジョンQが倒れる・・・
しかし、人質の通報で動いたジョンQは左腕を撃たれただけだった。ジョンQは狙撃手を逆に捕まえ、彼を盾に取り囲む警察の前に現れ云う。息子をここに連れてこい。そうすれば、この狙撃手は解放すると。
ジョンQはある決断をしていた。彼はターナーに云う。「俺の心臓を息子へ移植してくれ、息子を救うには誰かが死ぬことが必要だ。俺は父親だ。息子を救うのは俺の役目だ」。移植には適合性が必要だと云うターナーに、ジョンQは云う。そんなことは分かっている。既に適合性の検査は済んでいる。俺達は完全に適合すると。ターナーも決断する。分かった。やってやろうじゃないか。俺は医者だ。適合する心臓があるのなら、それを生かすのが俺の仕事だと。
マイクと別れの会話を交わしたジョンQは、ベッドに横たわり、ピストルに弾を込め始める。「お前は、実弾の入ってない銃で、俺達を閉じ込めていたのか?」驚く、人質の1人。ジョンQは云う。「俺は誰も傷付けたくないって云っただろう」。そして、引金が引かれる・・・
ここで、冒頭の交通事故がようやく繋がってくる。ドナーは26歳の白人女性。肝臓・腎臓・肺臓・心臓の摘出OK。血液型はB+。適合する移植待ち患者は、全米でただ1人。その名は、マイク・アーチボルド・・・。そう、ペイン院長は、本当に移植待ちリストにマイクを載せていたのだった。しかし、間に合うのか・・・
ジョンQが立てこもる最中に、ペイン院長はフランクに云う。「全米で5000万人が、医療保険を解約されています。もし、ジョンQの要求が通れば、全国の病院に銃を持った人が詰め掛けることになる」と。いやあ、難しい問題ですねえ。私も子を持つ親ですが、こう云う状況になったら、そうするしかないかなあ・・・・現代の医療制度、保険制度の問題点をするどくえぐった社会的作品であり、かつ上質のエンターテイメントです。
主演は「トレーニング・デイ」で第74回(2001年対象)アカデミー賞最優秀主演男優賞を、第36回(1963年対象)「野のユリ」のシドニー・ポワチエについで、アフリカ系アメリカ人の男優として2人目、38年ぶりに受賞したデンゼル・ワシントン。
この作品の主演にはダスティン・ホフマンが立候補していたが、彼はマスコミとの交渉を自らするという内容に脚本の変更を望んだため、そんなことはいわゆるブルーカラーの労働者には不自然すぎると考えた製作側と合わず、数年間は映画化が宙に浮いていたそうである。
ロバート・デュバルは云う。「私が当初やりたかったのは、ターナー医師だ」と。「ターナーは、このドラマの一番のキーポイントになる。ジョンQの衝動的な行動を、結局、一番理解し、受け容れてあげるのは、ターナーなんだ」と。
はい。とても感動的な映画です。でも、本当にすごく大変な社会問題だよね。映画の中でもフランクが云うけど、こう云う父親としては正しいかもしれないけど、社会的には違法であることって、どうしたらいい??それに、保険制度の問題も・・・
日本公開は02/11/23。