Paradis Avalon / Electric Acoustic Guitar '91 made

パラディス・アヴァロンは、90年代初頭から96年頃までスイスで製造された、ガット弦タイプのエレクトリック・アコースティックギター。製造数は200台あまりとレアな製品で、高めの価格設定と、あまりに特徴的な設計のおかげで、一部プロミュージシャンに支持はされたものの、商業的には成功しなかったようだ。嬉しいことに2005年から工房が復活しているので、今後の活動が楽しみである。

ボディーはセンタープライのキルティド・メイプルで、24フレットのネックには1ピースのローズウッドが使われている。ネックは6弦のゼロフレットから先がストレッチされた特徴的なデザインで、ゼロフレット付近に仕込まれているプッシュ・スイッチを操作することで、6弦のチューニングを E から D にダウンすることが可能だ。ネックはセンタープライされていて、内部には剛性確保のために楕円形の真鍮製のシャフトが貫通している。チューニングユニットは、ボディーの裏側に組込まれている。これは合板で製作された円形のユニットで、クラシック・ギタータイプのペグがアッセンブリー化されている。ペグ周辺の木部が華奢な構造なので、不用意にチューニングを行うと簡単に木が剥がれてしまう点に注意。ピックアップ・ユニットはブリッジ一体型のクリスタル・ピエゾ製でナイロン製のエスカッションを介して各弦別体となっているブリッジに個別にマウントされている。ピエゾ(圧電素子)は小さな長方形で、電極として下面に信号線が接続されている。これが弦とブリッジの接点であるステンレス製のコマの真下に配置してあって、上面側の極がコマに接触して導通する構造となっている。コマは両端を導電性接着剤によって真鍮製のブリッジ本体に接続される。一方の信号線はブリッジ底部を貫通してボディー内部に導かれている。ブリッジはスクリューによってプリアンプ基板のグランドに接続されている。ブリッジは黒檀製のガイドの上にセットされている。

ギターには専用の外部プリアンプ/電源供給ユニットが必要となっている。ギターから1Uのラック・ユニットへの接続は、8Pのノイトリック製コネクター「Neutrikon」を介して行う。低音部の3弦にはオクターヴァーが接続されていて、これによってベースサウンドをジェネレートしていて、これはポリフォニックとモノフォニック/低音優先の二つのモードが用意されている。各弦の信号分離は素晴らしく、ギターシンセ・コントローラーへの応用が可能だ。ピエゾの音質は設計が古いので、いわゆる「ピエゾ臭い」系統の音色なので、現在のレベルではイコライジングによる修正が必要かもしれないが、音の素性はよいと思う。内蔵されている電気回路に音質の評判があまり良くないデバイス(TL074)が使われていて、これは要交換だ。

リペア及びカスタマイズは、ギター内部の回路を基盤から差し換えることから開始した。回路はオリジナル同様SMDで設計を行い、×1〜10倍の範囲で、増幅度の調整を可能としている。オペアンプには BurrBrown の OPA4227 を採用している。当初組み込んだバッファーユニットには AnalogDevices の OP470 を使用していたが、AnalogDevices 全般の OpAmpIC の印象と同じく、BB と比較すると音質が多少硬い感じがするようだ。コネクターはオリジナルの Neutrikon/8p から、Minikon/12p に拡張している。これは、ボディーの振動をセンシングするセンサー(PTW製)の出力や負電源のラインを確保するためだ。ボディー内部には既に導電性塗料によるシールドが行われているが、加えてコネクターまでの信号ラインに銅箔によるシールドを追加している。作業中に3弦用のピエゾが割壊したため、(ピックアップ周辺の構造は意外と華奢なので、保守には注意が必要である)スイスにパーツの確保を依頼したが、メイルでの応対はスムーズで好感が持てた。音声信号にハム・ノイズが乗っている場合、圧電素子を接合している導電接着剤の劣化が考えられるので、導電性接着剤周りのレストアは必須だろう。ただし、接着の作業にはそれなりのコツが要るので、工作に自信がない人は、本国にピックアップを発注した方がよいだろう。実際、2回ほどピックアップを発注しているが、故障時のサービスを考慮して、予備のピックアップを2個確保してある。ピックアップの単価は50スイスフラン。支払いは郵便為替による送金となる。ピックアップの配線に用いられている接着剤は銀コロイド入りの特殊なエポキシ系なので、これもリペア用に別途入手しておくこと。チューニングユニットは音質には直接関係のない部分なので、強度を優先させるためアロン樹脂を合浸させて強度の向上を図っている。また、このギターは弦高が高めだったので、ブリッジ下の黒檀製ガイドを若干削ることで、修正を行った。


2004年2月から、電源供給は T.C.Electronics の G-Force を改造したプラットフォームから行っているが、何故かオリジナルのプリアンプよりもこちらの方が音の相性が良いようだ。