最初にこの楽器に出会ったのは20代の中頃で、場所は心斎橋の楽器屋さんだった。値段はかなりのボッタクリだったけど、音が気に入って買ってしまった。その後、個人輸入のためにカタログを本国に請求したら半額以下で手に入る事が判ってゲンナリした思い出がある。当然それ以来カリンバはアメリカ本国の代理店、というか小さな会社をやっている「本人」から、日本で仲間を集めて10個ほどドカンと発注していた。

カリンバという名前はTanzania方面に伝わる楽器の呼称らしいが、Tracy家が商標登録してしまったために一般的な呼称とは言い難くなってしまった。そもそも、アフリカでは地方によっていろんな呼び名があるそうで、Zimbabweではこの手の楽器のことを「ムビラ (mbira) 」というのだそうだ。が、いろんなサイトに紹介されているカリンバとムビラを見比べるとやっぱり構造が違う。一見してムビラの方がブレードが広くマッチョである。音質の差は現物を見たことがないので判らないが、ムビラの方がブレードのマスが大きいだけにパワー感があるという。

僕が今回造ろうとしているのは、アフリカ人が造ったオリジナルから逸脱しまくったスタイルと、製作方法を採っていることから、"KALIMBA"と名付けた方が良さそうだが、これは商標なので、ちとマズイ。その後、友人からの提案もあってMbiraski(ムビラスキー)という名前に決定した。(汗)かなりいい加減だが。
とにかく「カリンバ」が好きなので、家には5個ほどタイプの違うものが転がっている。そのうち1つを除いて、どれもKALIMBAという名前を商標登録をしているAfricanMusicalInstrumentという会社のモデルだ。ここのカリンバは細工が丁寧で音も綺麗なのでライブや録音で好んで使っている。ブレードはシェフィールドスティールのシートを打ち抜いて造った高品質なもので、倍音の豊かな良い音がでる。が、贅沢を言ってしまうと、これが「アフリカ由来の楽器」にしては土臭さがないというか、音が綺麗すぎるのだ。その後しばらく経った2年ほど前のある日、大阪の民族学博物館のお土産コーナーで偶然タンザニア製のホンマモンを見掛けてしまった。これがお土産元とは思えない位に物凄くデカイ音がして、オマケに土臭いフィールがあって、2万円というボッタクリ価格だったにも関わらず即決で購入してしまった。音を聞けば判るが、もうこれは完全に「KALIMBA」とは違う楽器である。黄色い部分は空き缶を丸めて造ったBuzzを発生する部品。小さな字でアラビア文字が書いてある。(汗)
でまあ、去年からコレにくっつけるピックアップ/プリアンプ・システムの開発に血道を上げていて、ある程度の成果も得ているのだが、如何せんこの手の楽器はマイナーなので、高性能なデバイスを造ってもマーケットの大きさはたかが知れているのだった。相変わらず商才がない人間だなあ、と自己批判しつつ、とはいっても自分のコンサートのため、プライヴェートなシステムを開発するという大義名分があるので、まったく堪えず作業を続けるところが救いようがない、、、。で、そのピックアップシステム開発の勢いで行ったのが、自在にチューンを改変出来る新型「Kalimba」なのであった。

日頃からネジ屋で買い物をするのが趣味なので、実際にカリンバを作り込む際に必要な部品はすでにイメージ出来ている。パーツはネジ等の汎用品で、それらを工夫してブリッジを製作する計画だ。色々と考えた末、写真右のようなデザインになる予定であったが、開けなければならない穴の数を考えると、何となく暗雲が立ちこめてきた、、、。
そして、具象化されたデザインが左の写真である。よく見ると酷い工作精度で、オリジナルのアフリカ製カリンバよりも遙かにダイナミックな造作である。 (汗)ここで、部品の紹介を。

僕は自転車フリークなので、家にはパイプやスポークが一杯転がっていて、ジャンクの量は電子部品と良い勝負だ。そこで、単価が高かったそれらの部品をナントカ再利用出来ないモノか?と考えた末に思いついたのが、スポークをカリンバのブレードに転用する計画だ。ブリッジの構造は基本的には単純で、ベースプレートになる銅板に穴を空け、裏側から木工用のスタッド・ブロックをスクリューで固定している。スタッドには横穴が空けられていて、そこに自転車のスポークを通される。スタッドはブレード毎に独立したブリッジとなる訳だ。スタッド上面のネジ穴から、M3ネジを使ってスポークをカシメることで、チューニングを固定する構造となっている。  この方式の利点は、、、

1)ベースプレートを使用するので、従来の楽器に比べて木材部分に不要なテンションが掛からない。よって、木材の材質や薄さの選択肢が広がる

2)チューニングの固定をM3スクリュー1本で行えるので、ギグの最中でもカリンバの転調が可能となった

3)ベースプレート(サドル・ブロック)下にピックアップを仕込めるので、音量のロスが少ない

4)ブレードの配置を二層レイヤー化することで、実装出来るブレードの数を増やせる

とまあ、こんな感じでなかなか期待が持てそうな内容だ。 

だが、実際のところは要求される工作精度が高すぎてこの方式での製作は敢えなく撃沈。ただ、幸いにもチューニングの容易さや、サドル・ブロック製作の合理性を、この試作機で実証出来たので、その経験を生かしつつブリッジのデザインを根本的に考え直すことにした。



 


二層化された支持部はブリッッジ上部にそれぞれ固定用のM3ネジ穴を持つ。前段に設置されるブレードのために、ブリッジ後部にはカウンター貫通用にブレードの直径より少し大きめのスルーホールを儲けてある。ブリッジ本体はM3ネジ4本で楽器ボディー(単板もしくは箱)に取り付けられる。この取り付けネジの間隔は、実装されるピックアップの寸法を考慮して配置した。横穴の径をタイトにしすぎたので、穴開けをやり直さなければならないが、スポークを使用する場合は1.9o前後が適当な寸法だろう。

相変わらずのやりすぎデザインだが、芸風が固定されてい来ているので、これはこれで良いのだろうか。 ピックアップの実装をブリッジ直下に行えるので、振動の取りこぼしは従来のカリンバ系ピックアップより少なくなるはずだ。また、このデザインはノイズのシールド効果やライブで使用する場合の耐久・安定性という面でもアドヴァンテージがあるので、今から電装系の実装が楽しみである。下はブレードを実装したイメージ図。画像は右クリックで拡大する。
で、思いついたのがCADの使用である。精度とコンパクトさを両立し、マンパワーを圧縮するにはこの方法しかない。切削は外注に出すのでそれなりにコストが掛かってしまうが、家で危険な作業(穴開けを27×2+14+4個)することを思えば、楽が出来る方が良い。以前から気に入っている「1ヶ月だけフリーのCAD試用版」をMeが走っている退役したLaptopにインストール、短期決戦で設計を行うことにする。

まずは、試作機の実験からブレードの間隔やレイヤーの深さを決定し、その数値を元にモデルを組み立てていく。写真を見て貰えば解ると思うが、ブレードの弾く方とは逆の「カウンター」に当たる部分から意図しない倍音が発生していた。この面白い現象も設計に採り入れてみる。↓


問題は、ブレードの加工となりそうだ。なんせ、混ぜモノたっぷりのチタンは硬い。金鋸も殆ど歯が立たない代物なので、思ったよりも工作が大変だ。自転車のサービス用にスポークカッターなる代物があるので、これを購入しても良いだろう。

また、使用する木材の選定も難しそうなので、この点は悩みどころでもある。現在の候補はブラックウッドというマメ科の植物で、音の感じは少々硬くなってしまうが工作がしやすく耐久性に優れた材料である。手持ちのキューバ葉巻の箱はマホガニー製で、しかも材が薄くてイマイチだと思っていたが、裏張りに黒檀の単板を補強材に入れることで音質が改善されることを発見した。コンパクトさが魅力なので、この箱を利用することに再度トライしてみたいと思う。

2005年7月23日現在、木工製作所に見積もりを出しているところだが、構造をソリッドにするか、ボックスにするかも迷っている。音質は思ったよりも良好なので、ボディー材の選択と、構造に成功のカギが委ねられたと言えるだろう。

つづく