mbiraski intelligent thumb piano
Mbiraskiができるまで
最初にカリンバ(親指ピアノ)に出会ったのは20代の中頃だったでしょうか。左右の親指で交互にブレードを弾くその独特の操作感が面白く、即決で購入した覚えがあります。後日、購入した楽器は「西洋化」された品種で、アフリカ産の本来種はもっと土臭い音がすることを学びました。ただ、楽器としてのクオリティーが安定しているところが魅力なので今でもこれを好んで使っています。

カリンバ(Kalimba)という名前はTanzania地方に伝わる楽器の呼称です。西洋では、親指で演奏することから「親指ピアノ」とも呼ばれています。楽器には地方によって様々な呼び名があるそうで、Zimbabweでは「ムビラ (mbira) 」と呼称されています。ただし、Webサイトに紹介されているカリンバとムビラを見比べると、構造が少しずつ違うようで、一見してムビラの方がブレードの巾が広くゴツイ感じがします。音質はムビラの方がブレードのマスが大きいだけにパワー感がありますが、ボディーが単板のために音はそれほど大きくありません。

Mbiraskiを作る前に行っていたのは、既存の楽器を改造・改良してライヴで使用するためのピックアップシステムを搭載することでした。写真に紹介しているタンザニア産のカリンバには、専用のピックアップが搭載されていて、ハウリングの影響無しに音を拾うことができます。ただ、改造には限度があり、いつしか自作の「親指ピアノ」を作ろうと思いついたのです。
僕は自転車を組み立てるのが趣味で、部屋にはハブやスポーク等の部品が一杯転がっています。この手の趣味をやっていると、とかく無駄な部品を抱え込んでしまうのです。趣味熱が下火になって、これら、如何にも勿体ない「遊んでいる部品達」の再利用を考えて思いついたのが、自転車のスポークを大好きな民族楽器「親指ピアノ」のブレードに転用することでした。


カリンバ製作のキモは、ブレードを固定するためのブリッジです。ブレードの次にブリッジの構造と材質が音質を決めるファクターだと言っても過言ではないでしょう。そこで、まず最初に考えたのは写真のような構造です。真鍮製のスタッドを利用した小さなブリッジとそれを固定するためのベースプレートを使う方法でした。スタッドには横穴を空けて、そこにスポークを挿入します。スタッド上面のネジ穴から、M3ネジを使ってスポークをカシメることで、チューニングを固定する構造です。裏面から皿ネジでベースプレートに固定します。スタッド1個1個が、ブレード毎に独立した小さなブリッジとなる訳です。

さて、この方式を試した結果、、、

1)基礎部分に銅板のプレートを使用するため、従来の楽器に比べて木材部分に不要なテンションが掛からない。よって、木材の材質や薄さに影響されることが無く、構造材選びの選択肢が広がる

2)チューニングの固定をM3スクリュー1本で行えるので、演奏の合間にカリンバの転調が可能

3)ベースプレート(銅板)下に直接音をセンシングするピックアップを仕込めるので、音響的なロスが少ない

4)ブレードの配置を二層レイヤー化することで、取り付けるブレードの数を増やせる

という利点が予想され、計画当初は大きな期待を持って臨みました。


ところが、実際に作業を行ってみたところ、要求される工作精度が高すぎて、この方式での製作は断念せざるを得ませんでした。コンセプトの方向性は正しかったものの技術が付いていかなかったのです。一方で、チューニングの容易さや、サドル・ブロック製作の合理性を、この試作機で実証出来たので、その経験を生かしつつブリッジのデザインを根本的に考え直すことにしました。


精度を追求した場合、やはりモチは餅屋ということで、実際の工作は外注に出す事にしました。発注前に、試作機の実験からブレードの間隔やレイヤーの深さを決定し、その数値を元にモデルを組み立てていきます。実験では、ブリッジの背面に当たる「カウンター」に部分から意図しない倍音が発生していたので、この面白い現象を生かす方向で、デザインを考えます。


最終的には、演奏上のフレキシビリティーを考えて、ブレードの配置を二層化することになりました。この字型の断面を持つブリッジのブレード支持部には、上部に固定用のM3ネジ穴を持たせてあります。前段に設置されるブレードのために、ブリッジ後部には余り部分の貫通用に、ブレードの直径より少し大きめのスルーホールを儲けます。ブリッジ本体はM3ネジ4本で楽器ボディー(単板もしくは箱)に取り付けます。この取り付けネジの間隔は、実装されるピックアップの寸法を考慮して配置します。問題はスポークブレード貫通用穴の径で、この決定には現物による試行錯誤の必要がありました。


結果出来上がったブリッジは、二度のリファインを経て満足出来る性能に纏めることができました。Hexの芋ネジで、ブレードをガッチリ固定するために、少々荒っぽいことを行ってもチューニングは殆ど変わらず、非常に安定しています。

ところで、この楽器の名前、Mbiraski(ムビラスキイ)の由来ですが、自分のハンドルネームと、カリンバの親戚の親指ピアノ「ムビラ」の合成語なのでした。もともと、僕が造ろうとしていた楽器は廃物利用というオリジナルのカリンバが持つ性格に近いものでしたが、いつの間にか製作過程でより工業製品的な側面が大きくなってきて、オリジナルの楽器と区別するための独自の名前が必要だと感じることとなったためです。なにはともあれ、開発してようやく1年半という若い楽器です。これからの成長を見守って下さい。