第十二話
命知らずの妊婦
バイクの事故で 妊婦だったわたしが入院した私だが、 ここ産婦人科での入院は、実につらいものだった。 個室から大部屋に移ると そこには、切迫流産の妊婦達がほとんどで、 事故で入院した患者はわたし一人で、(あたり前か) 暇を持て余している患者の暇つぶしには、 格好の「かも」になってしまったのはあいうまでもない。 子宮が、かんかんに張ってしまっているため 至急弛緩剤の薬がはいった点滴を 朝、夕一本ずつやるのが、わたしへの処置だった。 この薬の作用で、脈拍が多くなり動悸がしてくるので、 当然、点滴の液を落とすスピードは、イライラするほど遅く 2〜3時間かかってしまう。 この遅さにも関わらず、点滴中の動悸は普通ではなかった。 心臓が飛び出すほどの勢いでバクバク、鼓動するのだ。 この苦しみが、延々3時間ほど続く。それも日に2回 涙がでるほどつらい処置だ。 「く・・・苦しい・・・・・」 あまりの苦しさに耐え切れず ナースコールを鳴らす。 看護婦:「どうされました〜?」 私:「動悸が・・・し・・て、耐えられ・・ないの・・ですが」 看護婦は、すぐに部屋にやってきた。 ナース:「じゃあ、もう少しゆっくり落としますね」 私:「・・・・・もっ!?・・もっと、時間がかかるということですね、、」 看護婦:「苦しいのだから仕方ないでしょう」 仕方なくわたしは又、しばらく耐える。           それでも、激しい動悸に耐えられなくなり、 またナースコールに手が行くのだった。 「く・・・苦しい・・」 忙しいナースは、怒った口調でこういった。 「これ以上ゆっくり落とすと、針に血液が凝固して 点滴おちなくなっちゃいますからね」 「お腹のあかちゃんのために、我慢しないとねっ」   我慢できないからコール押してるのに。 (あの看護婦、今度おんなじ点滴してやる) この苦しみを1日2回味わうわたしは、朝の回診の際ドクターに 「なんとかしてくれ」と涙声で訴えた。 一向に柔らかくならないお腹のために、 「早く、退院させてください====(涙」 の願いもかなえてもらえるはずもなく、 わたしは悶々と、入院生活を耐えていた。 病院の生活は実に退屈だ。 実家に預けている長男のことが気になる。 ほったらかしの家は心配だが、どうする事もできない。 観念して、せっかくだからと大好きな本を読む毎日だった。 読んだ本の中に、実は 読んではならなかった「禁断」の本がある。 わたしは、うっかりその本に手を出してしまった。 菊池秀行の、書き下ろし長編怪奇バイオレンス、「妖人狩り」である   “妖魔に凌辱される人妻!   豊満な肉体を妖怪共に犯されたあげく   悪魔を生む女体に改造されようとする人妻   彼女を救う超人の壮絶な激闘” いいのかこんな本を読んで。貞淑な妻が。 子宮弛緩剤を使って、張ってしまっている子宮を 元に戻そうとしているのに、わたしはこの本を読んだ。 それ、みたことか。 読みながら子宮が硬くなるのがわかる。 しかし読み出した本を止める事は難しい。 体に悪いのは解っていたが、全部読んでしまった。 わたしの入院生活は2週間に及んだ。 完全に治らなかったが、 長居はできない(我が侭な患者だ)と ドクターを泣き落とし、強引に退院した。 退院した後、しばらく通院したが、 強引に退院したのがいけなかったのだろうか、 妊娠8ヶ月で子宮が開いてしまった。 子宮の口を縫合する手術が必要だといわれたが、 夫の母の(彼女は、子どもを10人産んだ偉大な母)) 「そんなことせんでもええ!」の言葉を信じて 手術をしなかった。 しっかり臨月までお腹は持ち、大阪のとある助産院で、無事出産した。 安産だったわたしは、「見事なお産」だと誉められた。 恐るべし妊婦・・・。 この雑文を書いている最中に妹から電話が入った。 末の妹が、無事女の子を出産した。 陣痛が起きてから30分後、 わずか6分で、出産したらしい。 さ、さすが、わたしの妹よ。