THE 留学
涙のお別れ・・君は強いから 〜第六章〜
    出発の日は朝が早く、ホームスティ先の夫婦には、     別れがつらいから、眠っている間に、     出ていったほうがいいと言われていたが、     彼は、早くに目を覚まし、     日本へ帰るわたしを、家から泣きながら見送った。     今でもそのときの息子の顔を、私は決して忘れないだろう。     目を真っ赤に腫らした、12才の幼い息子の顔を。     「着いたら、すぐ電話するから」     「たくさん食べて、病気しないように」     「手紙を書くように。」     「また来るから、すぐに来るから!」     「今度は、パパが様子見に来るから!!!」     そういって、わたしはタクシーに乗り込む。     タクシーの中で、わたしは声を上げて泣いた。     哀しくて、つらくて胸が張り裂けそうだった     こうして書いていても、胸がしめつけられて涙がこぼれる。     12歳の息子を、     こんな遠い国においていかなくてはならないなんて!     息子もいっしょに、このまま連れて日本に帰りたい。     飛行機の中でも、わたしはずっと泣いていた。     飛行機が離陸して、日本に着陸する間ずっと泣いていた。     息子が留学して、何年かたって夫に聞いてみたことある。     「あなた、泣いたことある?」     夫は息子の留学で、一度も家族の前で涙を見せたことがない。     夫はこう答えた。     「空港で、見送られることほど辛いものはないね。     俺は飛行機の中でビールを飲みながら、ずっと泣いていたよ」          イヤホンから流れてくる、     岡本真夜の「ALONE」の曲が、私は今でも忘れられない。     息子はその後、私以外の前では     涙を見せる事がほとんどなかったらしい。     ホストファミリーの前でも泣かなかったのだと。     特に夫の前では、「弱音」を見せなかった。     父親の期待に応えたいという、彼なりの思いが     わたしには逆につらかった。     離れた母子の関係は、     どこか、切ない遠距離恋愛にも似ているのかもしれない。     「君は強いから大丈夫だよ」なんて     そんなこと言われたら、弱さみせられない       「ALONE」の、こんな一説が       今の息子の気持ちを詠っているようだった。