入れ物二つ






もし全ての人が同じものであったなら。
同じ考えを共有し、同じ想いでいられたなら。
それは、とても楽なことだと思うんだ。







「同じもの、ですか?」



授業の合間に設けられた休憩時間。
そのとき、ふと今まで感じていたことを口に出して言ってみた。
案の定、先生は困ったように首を傾げて、
どう答えればいいのかわかりかねたように眉をひそめた。



「ええっと、それはどういう意味で・・・」

「そのままの意味ですよ」



そう言うと、彼女は益々困ったように苦笑する。
そんなにわかりにくい言い方をしただろうか。



「1つの入れ物を共有して、その中でいくつもの意識が共存する。
そういうことです」

「それはまた・・・・・ずいぶん突飛な考えですね」

「だってそうすれば、意識や考えを共有することが出来るでしょう?
言葉にしなくても、思ったことをすぐ伝えられる」

「うーん。それはそうですけど・・・・・」

「相手の気持ちだって、本当の意味で理解出来るだろうし・・・」

「それで同じもの、ですか」



確かめるように再度呟いて、それでも納得いかないように眉間にしわを寄せる。
その行動は、他人の感情の起伏に敏感で、誰の心もすぐに開かせてしまう彼女にしてみれば、
ごく当たり前のことなのだろう。
例え同じものでなくても、他人の気持ちを察知できてしまうのだから。
『同じもの』であることに意味などないのだ。でも。

僕は、そうじゃない。



「でもね、ウィル君。
例え同じものじゃなくても、人と理解しあうことは出来ると思いますよ」

「・・・・貴方は、そうでしょうね」



宥めるようにして言った彼女の言葉に、聞こえないように呟いた。




手が触れる距離を近いという。
肩が触れる距離を近いという。

でも、そんなものはただの物理的な距離でしかない。


どんなに近くにいても、どんなに寄り添っていても。
心の奥まで覗き込めるわけじゃない。
その人の気持ちを、知ることが出来るわけじゃない。


決して、同じものになれない。
共有出来ぬ、距離がある。





「同じだったら、良かったのに」



別に全ての人と考えを共有したいなんて思ったわけじゃなかった。
ただ、一つ。それだけでいいから、知りたいものがあった。


ねえ先生、貴方はどんな風に考えてるの?

ねえ先生、貴方はどんな風に僕を見てる?


例えば僕が貴方と同じものだったら、
貴方の考えていること、手に取るように知ることが出来たのだろうか。













「ねえ、ウィル君」

「・・・・はい」

「握手しましょうか」

「・・・・・・・・・・・へ?」



突然の言葉に、思わず間抜けな声を上げた。
ずいと差し出された手を呆然と眺めた後、説明を求めるようにアティを見上げる。
相変わらずにこりと微笑んだままの彼女が、包み込むようにウィルの手をとった。



「ほら、上手に出来るでしょう?」

「な、何がですか?」

「握手が、です」

「あ・・当たり前じゃないですかそんなの!」

「そうですね。でも、それは私と君が別のものだから出来ることなんですよ」

「え・・・・?」



言われて、ずっとあらぬ方向を見つめていた目線を、繋がれた手へと注いだ。
先生の大きな手。僕の小さな手。
繋いでいるのは、右手と右手。



「私に、右手は一本しかありません」

「あ・・・・・」

「右手と左手では、上手に握手できないですよね?
だから、握手は自分ではない誰かと、二人でするものなんですよ」

「・・・・・・」

「せっかく上手に握手が出来るのに。
別のものだからこそ、こうやって、鏡がなくても向き合えるのに」



もったいないって思いませんか?
そう言って、アティがまた笑んだ。




もしも全ての人が同じものだったら。
一つの入れ物の中で共存し、意識を共有出来たなら。
きっと、知ることが出来ずに辛い思いをするなんてないだろう。

でも、同じものであるからこそ、見えない部分がある。
同じものであるからこそ、出来ないこともあるのだ。


手を繋ぐことも。姿を見ることすら。
出来ないなんて、そんな。







「・・・・・・先生が僕じゃなくて。同じものじゃなくて良かったと、思います」




そう言うと、本当に嬉しそうに、彼女が笑った。
私も、ウィル君がウィル君で良かったって思います。
続けて彼女が言ったのを聞いて、僕もまた、嬉しくて笑った。

そうだ、心なんて・・・気持ちなんて。
今は見えなくても、いつか見えるときがくるかもしれない。
でも、別のものであることをやめてしまえば、彼女のこの笑顔を見ることだって出来なくなるんだ。
別のものであっても、理解しあうことは出来る。それは、目の前の彼女を見ていればすぐわかる。




手が触れる距離を近いという。
肩が触れる距離を近いという。
でも、同じものになれない距離がある。
だからこそ、別のものとして生きていく。そうであって良かったと思う。
手を繋ぎ、向き合える。

入れ物、二つ。




FIN.


いつかやろうと思って置いてたネタ。
今までのどのCPでもしっくりこなかったんですが、これではあっさり書けた。びっくり。
どうでもよくないんですが、全体通しての描写が三人称だったり一人称だったりします。まちまち。
でも気にしたら負けですよ。忘れてしまえ。
似たようなネタがED付近であったような気もします。忘れてしまえ。

入れ物二つ。別のものだからこそ、人は分かり合おうとするんだろうというお話。のような気がする。
握手は一人じゃ出来ないんだよ、と。誰かに言われた記憶があります。本当だね。
自分の顔は鏡を通さないと見えない。だから、一番わかりにくいものなんです。
やっぱりどうでもよくないんですが、なんで私の書くウィルアってこう・・・ウィル→アティなんですかね。
両想い・・・・いつか書けるといいが。うーん。


(2004.3.28)



ぶらうざばっく