貴方の一歩。僕の二歩。
見下ろす貴方。見上げる僕。
ずっと、昔はそうだった。
「たまに思い出して、考えるんです」
夕暮れの道を歩きながら小さく切り出した。
主語のないその言葉に、アティが歩みは止めずに目線だけ上げてウィルを見る。
「貴方にとって僕は、本当に、初めての生徒だったんだ、って」
そう言って、視線を下げてアティと目を合わせる。
言葉の意味を取りかねているらしいアティが、不思議そうに首をかしげた。
「歩調」
何かを思い出そうと遠くを見ながら小さく呟いて、
何かを思い出したように小さく笑って、目を閉じた。
「会ったばかり・・・初めの頃は、先生。合わすの下手だったから」
「そうでしたか?」
「そうですよ。僕も、最初のうちはなんとか着いていこうとするんです。
でも、だんだん貴方との距離が広まって・・・・その度に貴方の隣まで走っていって。
子供の歩幅が小さいことなんて、全然気付いてなかった。
すたすたと自分のペースで歩いていって―――僕がどれだけ苦労してるかなんて考えもしないで・・・」
「あ、あははははは・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
感慨に耽りながら、余計なことまで思い出してお叱り口調になるウィルに、
アティがひきつるように笑って、申し訳なさそうに肩を落とした。
「まあ、仕方ないとは思うけどね」
しょんぼりと肩を落としたアティに苦笑しながら、慰めるような柔らかな声でウィルが言う。
「僕と出会うまでは、子供と並んで歩くなんてことなかっただろうし。
貴方も途中からは僕に合わせて歩いてくれるようになったし。別に、気にしてないよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「今となっては、ただの笑い話ですし、ね」
ひそめるような声で言ったウィルが、アティを見下ろして小さく笑う。
それにつられるようにして微笑んだアティが、次の瞬間、何かを懐かしむよう目を細めた。
「もうないんですね」
「え?」
「君の歩調に合わせて歩くことも。そんな風に、追いかけてくれることも」
ずいぶん、大きくなりました。
そう、かみ締めるように、かすれた声で呟いた。
君の一歩。私の二歩。
見下ろす君。見上げる私。
ああいつのまに、それだけの時が経ってしまったのだろう。
「成長期でしたから」
「うらやましい限りです。分けて欲しいくらいですよ」
「貴方はそのままで十分ですよ。・・・やっと抜いたのに、また抜かれたら困る・・・」
「何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
ぼそりと呟いたウィルの言葉は聞き取りづらかったのか聞き返したアティに、
わざとらしく何事もないように振舞ってウィルが答える。
そんなあからさまな態度がおかしくて、顔を合わせて笑った。
「ウィルは」
「はい?」
「上手ですよね」
「は?」
「久しぶりに会ったとき・・・初めから上手でした。歩調、合わすの・・・・」
歯切れ悪く言ったアティの言葉を、数回頭の中で反芻させる。
言葉の意味と、彼女の表情と、伏せられた目と。
すべてを統合させて得た答えが、嬉しくて気恥ずかしくて。
にやけそうになる顔を必死で抑えた。
「慣れて、ますから」
「あ、えと、それは・・・・。軍学校のお友達に、歩くのが遅い人がいたりとか・・・・ですか?」
「いえ、学校の友人達はどちらかと言えば早かったですよ、歩くの」
「そ、うですか・・・・・・」
「テコ」
「え?」
「テコがいますから、ね」
微かに頬を染めて言ったウィルの言葉に答えるように、足元でテコがみゃあと鳴いた。
ああなるほど。
自分より遥かに歩幅の小さいこの護衛獣といつも一緒の彼にとって、
歩調を合わせることなど実に容易いに違いない。
「テコ、ですか」
「恋人なんかじゃないですよ」
「そ、そ、そんなこと一言も言ってないですよ!?」
「ええ。僕も聞いてません」
「ウィル!からかわないで!!」
「からかってなんかいませんよ」
「嘘!今笑ったじゃないですか!」
「笑ってません!」
「笑いました!」
「笑ってないってば!」
突如始まった不毛なやり取りに、足元のテコが心配そうに二人を見上げていた。
ひとしきり続けた後、ことの馬鹿馬鹿しさに気づいてどちらともなく顔を見合わせて、笑った。
足並みは、ずっと揃ったまま。
僕の一歩。私の二歩。
見上げる私。見下ろす僕。
歩調はゆっくり、あっていく。
FIN.
初ウィルア。いきなりED後。
攻ウィルが好きなんです。年下が強いCP大好き。
年上が天ボケてるととても嬉しい。ウィルア愛。
背が伸びたウィルとそのままのアティ。この逆転劇が楽しくて仕方ない。
余裕のウィルが書きたかったんです。振り回される彼も好きだけど。
子供みたいなアティが書きたかったんです。先生な彼女も好きだけど。
場面設定なんて考えるのはやめにしました。適当にこじつけてください。責任放棄。
(2004.3.26)
ぶらうざばっく