■ ある日あの時あの後で ■
それは、遡る事約2週間前の出来事だった。
場所は下町の密かな人気スポット。
またの名を、『コックが無愛想な料理点』(名前じゃない)
暖かい雰囲気と、上質な食材。そして有無を言わさぬ料理センス。
1度来たらやみつきになるというその店は、現在ランチタイムでてんてこまいとなっていた。
去っては来る客の波。
にぎやかな店内は、表にも人が並ぶ大盛況振り。
もう少しでピークは抜けられるものの、次々と繰り出されるオーダーに、厨房は地獄と化していた。
そんな中、実に朗らかな昼食を楽しんでいた約2名のイタイケな客の元、それは実に騒がしく走りこんできたのだった。
「・・・・三上、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ」
「そうっすよ先輩。他のお客さんに迷惑だし。
あ、スープとかいりますか?ここのスープかなり美味いっすよ」
「んなもん呑気に飲めるわきゃねえだろうが!!
有希が攫われたんだよ!!!」
走りこんできた途端、ぜえぜえと方を息をしていた三上を宥めるように、横から渋沢、藤代のかける言葉を跳ね除け、三上が未だ整わぬ呼吸を更に乱してそう叫んだ。
突然の三上の大層な発言に、渋沢・藤代の2人は一瞬動きを止め――そして、信じられない、といった表情を顔に貼りつけ、恐る恐ると言った風に声を絞り出した。
「攫われ・・・た・・・・・・?」
「ああそうだよ!わけわかんねえ金髪に後ろからいきなりな!!」
「そんな・・・・・・」
「それで、どこに連れていかれるかは見てたのか?」
「・・・・・・・・」
無言で首を振る三上の動作に、渋沢が苦い表情を浮かべる。
恐らく三上のことだ、しとしきり追いかけて、それでも追いつけなかったのだろう。あの人ごみの中、特定の人間を追いかけるのはかなり困難だっただろうことは安易に想像が出来る。
しかしそうなると、本格的に彼女の居場所はわからない。
「・・・・・・・ここはとりあえず、城に伝えるべきだな」
「そんなこと言って、そんな簡単に信じてもらえるもんなんすか?」
「・・・・・・・・・やってみなきゃわかんねえだろ。
とりあえず行くぞ。ちんたらやってる暇は・・・・・」
ない・・・・・。
渋沢、藤代の言葉を受けて、そう答えて立ちあがろうとした三上の言葉は、全て言い終えるより先に立ちきられた。
具体的に何があったわけではない。ただ、店の雰囲気ががらりと変わっていたのだ。先ほどまでの賑やかな雰囲気は消え去り、がらんとした雰囲気に。
気がつけば、店内に溢れかえるほど居た客は皆消え去り、幾つもあるテーブルには、残された皿が数枚残っているだけ。開け放たれていた扉はしっかりと閉まっているし、窓も然り。
そして、テーブルの周りには、先ほどまでは居なかった、3人の人間が立ち尽くし、そして三上ら3人を見下ろしていた。
「・・・・・・今の話、詳しく聞かせてもらおうか」
そういえば誰かが言っていた。
この店のコックは、王女御用達のコックなのだ、と。
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「・・・・・つまり、有希は城から逃げてからは、
その村の世話になってたってことだね」
「ああ・・・・・うちに来る前にどこかの世話になっていない限りは・・・」
「時間的にもぴったりだから、それはないと思うよ。
それで、有希はどうしたって?」
「・・・・・・どうでもいいけどよ。
仮にも城に仕えてる人間が王女を呼び捨てにしていいのか」
「関係ないね」
「・・・・・・そうかよ」
『コックが無愛想な料理店』もとい、
かつて王女である有希が一目ボレした料理センスを持つコックの店。
その店で一番大きなテーブルを、英士・結人・一馬。そして三上・渋沢・藤代の6人は囲んでいた。
「それで、攫われたのがいつだって?」
「さっきだよ。1時間も経ってねえ」
「攫った奴の特徴は」
「金髪。あと・・・・変なしゃべり方してたな。
ここらへんじゃ聞かねえ話し方だ」
「・・・・・・・・服装は?」
「・・・・・・・覚えてるかよ、んなもん。
少なくとも、俺とかおまえが着てるような服じゃねえ。
あとは・・・・・・腰に何か下げてたな。ナイフか何かじゃねえの」
「・・・・・・・・・・」
「なあ、英士。それってやっぱあれじゃねえの」
「だよな。向こうに居たとき、結構騒がれてたじゃん」
「な、何だよ、向こうって!!」
三上の話を聞き、考え込むように表情を沈ませた英士以下3名に、藤代が不安を隠しきれずに慌てて問う。渋沢も三上も、言葉には出さぬだけで、心内は不安でいっぱいのようだった。
しばらく俯いた後、英士が顔を上げ――そして重い口を開いた。
「盗賊だよ。俺達が向こう――第1の方に居た頃、騒がれてた盗賊。
その頭が確か、金髪っていう話だった」
「第1王国・・・・?」
「ああ、俺ら全員、生まれは第1なんだよ」
「向こうよりこっちの方が地価安いって英士が言うから、
店開くとき移ってきたんだ」
「結人、一馬。今はそんな話してる場合じゃないでしょ」
「何で第1の盗賊が、この国に居んだよ・・・!」
「さあね。
大方、どっかで有希が逃げたっていう話でも聞きつけたんだろうけど。
・・・とにかく、第1の盗賊が相手なら、第8の連中は手も足も出ないよ。」
「あの第1王国の先鋭が手ぇ焼いてたくらいだしな・・・・」
「そういうこと。平和ボケしたこの国の騎士じゃ、到底敵う相手じゃない」
「じゃあどうしろってんだよ!!」
冷静に、冷静過ぎるほどに状況を判断する英士の態度が気に入らなかったのか、三上が声を荒げて、テーブルを手で叩きつけて立ちあがった。
そんな三上を、やれやれ、という風に見てから、彼は隣に腰をかけていた一馬に向かって言った。
「・・・・・・・一馬。城に行って、水野呼んできて。すぐに」
「俺が!?
言っとくけどな、俺より英士の方が門番にも顔覚えられてんだぞ!?」
「俺が行く日は一馬だって城に行ってるんだから、行ってる回数は一緒だよ。いいから早く呼んできて」
「水野って?」
「王女付きの騎士・・・って言ったらかっこいいけど、
ただのお守だな、あいつ」
「結人」
藤代の問いに、ふざけて答えた(というか多分本心だろう)結人を咎めるように一声かけて、そしてまた一馬を見る。
英士の有無を言わさぬ雰囲気に、しぶしぶと一馬が席を立ち、店を後にすると、事の真意を知ろうと、渋沢が身を乗り出し、英士に尋ねた。
「それで、その水野という人間を呼んで、君はどうするつもりなんだ?」
「あいつなら、第1の王子付きの騎士に連絡を取れる。
・・・・・第8で敵わない相手なら、第1に協力を要請するしか道は無いよ」
「でもそんなことしたら、わざわざ逃げた意味が・・・・・・!!」
「仕方ないでしょ、結人」
主張する結人を、強く、しかし辛そうに英士が止める。
そう、仕方ない。相手が盗賊なのであれば、彼女の命は保証されない。
下手をすれば殺される。どこかに売られる場合もある。
もっときちんと、逃げる場所を確保しておいたなら。
そんな後悔が、ふと英士の脳裏を過ったけれど、それも全ては遅すぎる後悔。
「・・・・・水野が来たら、もう1度有希が村に居たときと攫われたときの状況説明を。あとはもう・・・・・神のみぞ知る、だね」
数分後。
水野を連れた一馬が店に戻り、そして水野に対しての状況説明があり。
そして、その数日後、第8王国から第1王国への協力要請が為された。
第8王国国境付近の森にて、王女の発見情報を得られるのは、
それからゆうに2週間後のことであった・・・・。
fin?