月ひとつ






久々に遠回りした帰り道。
いくら春が近くなったといっても、午後7時を越えるともう当たりは真っ暗だった。
遊ぶ子供は家へ帰り、道を照らす街灯がちらちらと光を揺らしている。
切れかけている街灯がついたり消えたりを繰り返している夜道は、思いの外明るかった。



「今日の月はずいぶん明るいね」



右ななめ上に上がったまん丸の月を見上げながらそう言った。
まだ真上には昇りきっていない月は、歩みを進める間に何度も家の屋根に隠れては顔を出す。
真っ白に光る今夜の月は、街灯と見間違えてしまうほどに光り輝いていた。



「月が光って見えるのは太陽の光を反射してるからだってのはわかってるんだけどさ。
今日みたいにこれだけ明るいと、なんか、自分で光ってるみたいだよね」



そういうと、何も言わないままの水鏡が顔だけあげて、確かめるように月を見上げた。
ふと目を細めたその仕草は、たぶん、無言の同意だと思っていいのだろう。



「ねえ、みーちゃん」



依然月を見上げたままで呼びかける。
月があるのとは逆側にいる水鏡が、こちらに向いたのを横目で確認してから、ふと思いついたことを口にした。



「月と北海道ってどっちが近いかな?」

「・・・・・・は?」

「どっちが近いかな?」

「何かの冗談か?」

「・・・・・やっぱり北海道だよねえ・・・・・」



いまいち噛み合わぬ会話ののち、確認するように、半ば残念そうに風子が呟いた。
水鏡はと言うと、突然の素っ頓狂な風子の問いかけに、怪訝な表情を示すのみ。



「何が言いたい?」

「だってさ、おかしいと思わない?」

「何が」

「だって、月はここからでもちゃんと見えるのに」



手を伸ばしたら、届きそうな気さえするのに。
そう言って、少しずつ昇り始めた月に向かって手を伸ばした。
月に向かって手をかざすと、広げた手の中にすっぽりと納まってしまう白い月。



「こっから姿も形も全然見えない北海道の方が近いなんて、絶対おかしいって」

「・・・・・・おかしい、か?」

「でも実際近いのは北海道なんだよね。なんでだろ」

「なんでと言われてもな・・・・・」

「月はあんなに近いのに」



なんでだろ。
繰り返しそう言って、納得いかないように眉をひそめた。







夜空に浮かぶあの月と、山の向こうのあの街は、どうして街のほうが近いのですか?

だってあの月はあんなに、大きく、近くに見えているのに。




FIN.
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こんな感じの話が、論語にあったような。なかったような。どっちだ。
孔子なのは確かなんだけど。

風子は馬鹿な子なんじゃなくて、素朴で素直な子なんです。
ところで私、これに似たネタで過去に小説とか書かなかった?

(2004.4.5)

ぶらうざばっく