花屋の手伝い中。
家の電話が鳴り響いたのはそんなときだった。
おふくろが受けたその電話の相手は女だったらしく。
最初に浮かんだのはマイハニー風子の顔だったが、外れ。
実際聞いた声は、なんというか。
ものすごく慌てた柳の声だった。
「ごめんね、ごめんね土門くんっ!!」
俺を家に迎えた柳は、電話のときの慌てた様子とはまた違い、
申し訳なさそうに玄関先で俺に向かって手を合わせた。
何やら、締め切りが近いらしい。
電話口の向こうで慌てている柳の、錯乱して支離滅裂な言葉を総合して得た情報はそれだけ。
手伝いに来て欲しいという意図だけはなんとか理解できた。
花屋の手伝いもあったが、あそこまで頼まれて断れるような所業はそのときの俺には出来なかった。
そんなわけで柳の家に来て。
2人黙々と、指示されるままにトーン貼ってベタ塗ってたわけなのだが。
「・・・・・・ごめんね土門くん。実は今、ご飯作ってくれる人誰もいなくて・・・・」
昼時。
隣で律儀に正座する柳と俺の目の前のテーブルには、
2つのカップラーメンがちょこんと置かれていた。
「私が作ろうかなとも思ったんだけど、前に薫くんに作ったときすごく失敗しちゃって・・・・」
「それでカップラーメンってか」
「ごめんねごめんねっ!せっかくお手伝いに来てくれたのに・・・・」
「いや、それはいーんだけどよ・・・・」
なんか意外だよなあ。
そんな気分で、土門は柳の隣で同じく正座をしてそのカップラーメンを見つめていた。
風子や水鏡や花菱の家ならともかく、柳の家に、こんなものが存在しているとは正直思わなかった。
ここに手伝いにきたのも、「もしかしたらいい昼飯が食えるかも」という期待が少なからずあった土門にとって、
目の前に並んでいる二つのカップラーメンは、まさしく意表を突かれた代物だった。
「正直意外だな。柳の家でもカップラーメンとか食べんのか?」
「ううん、食べないよ。実はこれ、さっき土門くんが来る前にコンビニで買ってきたの」
「あー。納得納得」
「本当にごめんね」
「気にすんなって。どっちかってーと、これのが気安くてこっちも助かるぜ」
「本当?良かった!」
「とにかく湯だな。湯」
「それはちゃんと沸かしてあります」
「んじゃーまずこの包装をはがしてだな・・・・・。そいや柳、作り方ちゃんと知ってんのか?」
「うん、知ってるよ!」
そう言って、えへんと胸を張る。
そして土門に続くようにしてカップラーメンと手に取り包装をはがし、
中に入っているかやくなどを取り出し始めた。
「前、烈火くんに教えてもらったの」
「そいや、今日は花菱来ねえのか?」
「さっき電話したんだけど。まだ寝てるみたい」
「起こさなかったんか」
「だってせっかく寝てるのに悪いでしょ?」
「あいつだったら寝てても何してても飛んでくんだろ」
「そうかな?」
「絶対そうだ。・・っと、そいやこれって湯入れてから何分だ?」
「えーっとね。3分」
言いながら、柳が自分の分と土門の分のカップラーメンに湯を注ぐ。
律儀に大きさの違う、少し大きめの土門のカップラーメンに湯を注ぎ終えた後、
最初と同じようにテーブルに並べ、その前に2人並んで正座する。
そして2つのカップラーメンの間に時計を置いた。
「これであと3分だね」
「そうだな」
「私ね、これ初めて食べるんだ」
「そいや俺もだ。初めて見るけどもしかして新製品か?」
「うん。そう書いてあったよ」
「今はこんなんも出てんだなー」
「美味しいといいね!」
「まあ、柳の料理よりは美味いんじゃねえのか?」
「ひっどーい!!」
正座したままで続く漫才に似た掛け合いの間で、
アナログの時計が、黙々と時を刻んでいた。
チクタクチクタク。
残り時間はあとわずか。
FIN.
この日の昼に何を食べたかがよくわかる。