時折、ふとしたきっかけで昔のことを思い出す。
それは烈火と遊んだ幼少時代のときもあるし、土門とケンカした中学時代でもあった。
柳と初めて出会ったときのことも思い出す。
そこまで思い出して、次に何があったか記憶をたどって、いつも思うのだ。
私はあの時、確かにあいつが嫌いだった、と。
容姿端麗冷静沈着。
今まで生きてきた中で、そんな人間は私の周りにいなかった。
血の気が多くて考えるより先に体が動く。
私自身そんなところがあって、自然と周りにもそんな人間が集まって。
だからこそ余計に、頭がキレるあいつという存在は、私の中で異色だったんだろうと思う。
一番最初は烈火を追いかけていたとき・・・らしい。
進路指導室から出てきたあいつと烈火が廊下でぶつかったとき、私が後ろから追いかけてきてたんだとか。
覚えてなかったから正直にそういったら、呆れたような残念そうな顔をされた。
次は噂。烈火が柳を避け始めたって聞いたとき、その裏にはあいつがいるって話を聞いた。
それが、私があいつをちゃんと確認した最初だった。
容姿端麗冷静沈着。加えて成績優秀。
そして、女の勘は、私に「ヤバイ奴」だと告げていた。
柳と烈火の仲を裂こうとしてて、しかも烈火に怪我させて。
柳の髪は切るわ人のことサル扱いするわいつまでも一人でなんか抱え込んでるわ・・。
・・・・・・・挙げていったらキリがないけど、そういうことをひっくるめて、やっぱり私は嫌いだったんだろうと思う。
それなのに、いつのまにかこうなっちゃってんだから。人間って不思議だよなあ。
制服のまま、下校途中に寄り道してやってきた私のため
キッチンでコーヒーを淹れている奴の後姿を見ながら、くすりと笑ってそう思った。
「何がおかしい」
見られていたのか、カップを渡しながら怪訝そうな顔で水鏡が言った。
「ちょっとね。昔のこと思い出してたのさ」
「昔?」
「みーちゃんと会ったばっかん時のこと」
そういうと水鏡は、やはりあの時のことについては思うところがあるのか、
眉間にしわを寄せて、苦虫を噛み潰したような表情になった。
そんな表情すら、昔は見れなかったものの一つ。
「あのときは私、みーちゃんのこと大っ嫌いだったなって思ってさ」
「そこまでいうか・・・」
「とことん嫌な奴だったしね。冷たいし失礼だし愛想ないし!」
「それは・・・」
「まあ、あのときはみーちゃんの方もあたしらのこと嫌いだったんだろうし。仕方ないとは思うけどね」
そう言って、弁解する暇を与えぬままに、視線だけで「そうだろ?」と同意を求めた。
言い訳の言葉が見つからなかったのか、はぐらかすように水鏡がカップに口をつける。
ほらやっぱり。当たったそのことがなんだか楽しくて、嬉しくて笑った。
「あれだけ嫌いな奴だったのに、いつのまにか一緒に戦うことになって」
いろんなことがあって、かけがえのない仲間になって。
気がつけば、なくてはならない存在になっていた。
「お昼一緒に食べて学校の帰りに一緒に寄り道して、休みの日に遊んで。
嫌いだったのに、好きになった」
いつからだったなんて覚えていない。
そんなあいまいな日々の中でたった一つ確かなこと。
私は、嫌いだったものを、何よりも好きになった。
「好きなものをもっと好きになることも、好きなものを嫌いになることも簡単だと思うんだ。
でも、嫌いなものを好きになるのは・・・きっと難しい」
だから、ね。
一呼吸置いて水鏡を見る。
ずっと昔は知らなかった、嫌いだったときは見えなかった。
すました表情の裏の優しさを、きっと私は好きになれた。
「最初からみーちゃんのことを好きだった人より、ずっと、みーちゃんのこと好きだと思うよ」
もちろん、最初私のこと嫌いだったみーちゃんも、ね。
茶化すようにそういうと、赤くなってそっぽを向いた。
嫌いなままだったら見られなかったものを、今の私は目の前にしている。
そして、最初から好きだったら知らなかったものを、昔の私は目の前にしていた。
嫌いで、嫌いで。仕方なかったあのときは、嫌なところばかり目に付いた。
好きで、好きで仕方ない今は、良いところをたくさん見つけることが出来る。
表も、裏も。良いところも悪いところも両方知っていて、それでも好きだと言えるから。
最初嫌いでよかったなんて、変なことを思ってしまった。
そう言うとまた、呆れたようにため息をついた。でも、それすら照れ隠しだってことを今の私は知っている。
知ってる、知らない?
嫌いだったからこそ、今の君を愛してる。
FIN.
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意味は問わないでください。困るから。困るのかよ。
好きか嫌いかってことで、人の見え方は変わってくるんだよというお話。
嫌いだったら嫌なところは目に付くし、逆に好きだったらいいところが目に付く。
嫌いなものを好きになるというのは難しいと思うのです。
でもだからこそ、好きになったら心から愛せるとも思う。嫌いを克服してるから。
水鏡さんが、しゃべって、くれなかった・・・!
(2004.4.4)
ぶらうざばっく