ながれるかみ




髪、切らないの?
言いながら、腕を伸ばして僕の髪に触れた。
毎日がじっとりと湿気の多いこの季節、うっとうしいくらいに長いこの髪は、
彼女にしてみれば暑さを増すだけのものに映るのだろう。
さっぱりとした髪型の彼女にしてみれば、なおさらのこと。



「面倒だからな」

「切ればいいのに」

「気が向いたら切る」

「涼しくなると思うんだけどなー」



言いながら、ぱたぱたと団扇を扇ぐ。
今日も日本列島は尋常でなく暑い。



「蒸し暑いのは結構辛いよね・・・・」

「そういう季節だからな。諦めろ」

「クーラーはあんまり好きじゃないしー」

「そもそもまだ付けるには早すぎる」

「ねー、窓全開にしちゃっていい?」

「好きにしろ」



そういうと、だらりと座り込んでいた風子がすっくと立ち上がり、
ぱたぱたと窓まで駆け寄って勢いよく窓をいっぱいまで開けた。
さっきまでは小さな隙間から少しずつ入り込んできていた風が、大量に部屋の中に流れ込んできた。
髪が、乱れる。



「ほーら。やっぱり切っちゃったほうがいいって」



鬱陶しそうに髪をまとめる水鏡を見ながら、ほれ見たことかといわんばかりに言った。
わかっている、となだめるように言って、風が弱まってきたのを見計らって、
手近なところに紐がなかったので髪をまとめていた手を離した。
確かに、この季節この髪は鬱陶しいことこの上ない。



「後ろ髪切るくらいならやったげるよ?」

「どちらにしろ今日はもういい。・・・・・暑さに我慢できなくなったら改めて頼む」

「でも、みーちゃんはどんだけ暑くても涼しい顔してそうだよね」

「・・・・何が言いたいんだ、何が」



憎憎しげにそういうと、けたけたと風子が笑った。
遊ばれている、とすぐにわかる。
わかったところでどうしようもないので、諦めるようにため息をついた。
風が、また部屋に流れ込む。髪を、さらっていく。

その様子をじっと見つめていた風子が、ぽつりと、何が言いたそうに口を開いた。
声が聞こえなかったので、聞き返す。すると、半ば呆けながら、彼女が復唱した。



「・・・・・・綺麗かも」

「は?」

「長い髪がさ、風にさーって流れるとこ。今、結構綺麗だった」

「・・・そうか?」

「ついでに言うとちょっと涼しそうだった」

「言ってることがさっきとまるで違ってるぞ」

「だって本当にそう見えたんだもん」

「勝手に言ってろ・・・・」

「もっかい私も髪伸ばそうかなー・・・」



そう言って、風子が自分の髪をくるくると指に巻きつけていた。
そういえば、自分はこの少女の髪が長かった頃の姿を見たことが無い。
見てみたいな、とちらりと思った。
ある梅雨の初めの昼下がり。



FIN.

私の妥協が村長の妥協に繋がるんだと悟ったので頑張って書いた(笑)

最近髪を切りました。
そしてストパ当てたんですけど、やっぱそれだけで大分変わりますねー。
てか、それ以上に重かった髪を大幅に梳いたので、現在頭が軽いです。
えーと・・・・それだけ!(逃げ)

(2004.6.7)