はたらくおにいさん




「もしみーちゃんがファーストフードのお店でバイトをしてたら」



神妙な面持ちとは裏腹な突拍子も無い風子の言葉に、
ソファに座ってコーヒーを飲んでいた水鏡が眉をひそめながら顔を上げた。



「すぐクビになりそうだよね」

「・・・・・・嫌味か、おまえは」



満面の笑みで告げた風子に、呆れたように言ってから軽く頭を叩いた。
何をするんだ、と言いたげな視線を、風子が恨めしげに投げかけてくる。
こっちのセリフだといわんばかりに横目で軽くにらんで、またカップに口をつけた。



「だって、笑顔で『いらっしゃいませ』とか言えなさそう」

「・・・・僕だって、仕事となればそれくらいする」

「『申し訳ございませんお客様』」

「仕事だろう?」

「『少々お待ちください』」

「仕事ならな」

「『お待たせいたしました』」

「それくらいは言えるだろうが」

「・・・・・・みーちゃんが言うとどっかのホストみたい」

「うるさい」



けたけたと笑う風子の頭を、強くならない程度に重圧をかけて押した。
大した力がこもっていたわけでもないのに、ふざけて彼女が倒れこむ。
笑い声が、部屋に響いた。



「『ご注文は以上でよろしいでしょうか』」

「『こちらでお召し上がりですか』とかな」

「『こちらはセットがお安くなっております』」

「『またのご利用をお待ちしております』で終わりだ」



言いながら、依然倒れたままの風子を手を引いて起こした。
どうせ想像でもしたのだろう。起き上がりながらもくすくすと笑いをこらえていた。



「みーちゃんが接客するとこ見てみたい」

「もしバイトでファーストフードに行くことになっても、
おまえにだけは場所を教えないようにしたほうがよさそうだな」

「何でさー」

「絶対冷かしに来るだろう?」

「うん」



真面目に頷く風子に、本日3回目の攻撃を仕掛けた。
防御もなしに素直に受けているところを見ると、冗談のつもりなのだろう。



「ジュースとポテト頼んで、1時間くらい居座んの」

「嫌な客だな」

「何回もレジ往復したりとか」

「嫌な客だ」

「ジュースとポテトとー。あと」

「あと?」

「スマイルひとつ」



言いながら、にやりと風子が笑った。
こんな客にだけは、絶対に当たりたくないと思った。



スマイル、ワンオーダー入りました。




FIN.

うちのメニューにスマイルはないのですが。
初バイト記念。火曜日までに必死こいてオーダー名覚えてきます・・・。
今月だけでいくら稼げることやら・・・。

(2004.6.6)