ジリリリリリリリリリリリリリ・・・・・・


バコンッッッ!




「んー・・・・?あ・・と、5ふん・・・・。」


けたたましく鳴り響く目覚し時計に渇
(?)を入れ、
いつもと同じ言葉を呟く。


こうして、花菱烈火の朝はいつものようにやって来た。








[[[ 出来る事なら夢のままで ]]]








「ほら烈火!シャンとしなさい!」


目覚ましが鳴って約5分後。
いつものように母である陽炎が部屋を覗きに来る。


「あ〜〜〜、わかってるよ母ちゃん・・・・。」


渋々と布団から這い上がり、のろのろと服を着替え始める。
完全に醒めきらぬ頭で、とたとたと廊下を渡り、いつもと同じように戸を開ける。


「おぉ、遅い目覚めだなあ。烈火。」


「おう。親父おはよー。」


いつものように嫌味を吐いてくる
親父に朝のあいさつ。


「もう少し早く起きなきゃダメでしょ?」


「ふぇーい・・・。」


いつもと同じように、寝起きの悪いおれに怒る
母ちゃんに曖昧に返事を返す。


「・・・・・。」


「おう、水鏡。おはよー・・。」


そしていつものように無言で飯食ってる
水鏡にあいさ・・・・







・・・・・・・・・?







ここで烈火はいつもと違う何かに気付く。








今なんか・・・、
水鏡って・・・言ったか?おれ。









自分の言葉をもう1度思い出し、その人物を再度見直す。


珍しいものでも見るように、
じろじろと自分を見つめる烈火に異様な雰囲気を感じながら、
水鏡が頭上に疑問符を浮かべる。
そして同じように烈火の頭にも疑問符が無数に浮かんでいた。










・・・・・・・・?








やっと醒め始めた頭が、状況を把握する。






「水鏡ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」




大袈裟に戸を突き破り、再び廊下へと逆戻り。
豪快に壊れた襖の穴から覗く烈火の顔が、驚きに固定される。

その様子を見ていた3人が、異様な烈火に目を丸くする。


「ど、どうしたの?烈火。」


「ど・・どうしたって・・・・。」


花菱一家の団欒に入りこんでいる人物。
そしてその人物の意外性。
そして何より、それをさも当たり前のように受け入れている自分を除く家族の様子。

すべてが、烈火にはわからないことであった。



「だ・・だいたいな、水鏡!!
 なんでおまえがウチで飯食ってんだよ!!」


その言葉に、3人が顔を見合わせる。


「何言ってるの烈火。
 水鏡君がここに住むようになったのは、
ずっと前の事じゃない。」


「へ?」


真面目に語る陽炎に、間抜けな声を上げる。
それと言うのも、烈火にはそんな記憶が欠片もないからだった。

住むようになった?
ずっと前の事??

陽炎の一言一言が、烈火を混乱へ導いていく。


「な・・・・なんで?」


声を絞り上げ、やっと呟いた言葉に陽炎が顔を赤らめる。
その異様な反応に、またも烈火が首を傾げる。

すると、今度は後ろから成男の声がした。


「寝ぼけてんのか、烈火。
 陽炎さんと水鏡君。
 
入れるとかいうから、水鏡君にウチに来てもらったんだろうが。」









・・・・・・籍?








この時烈火の頭には、いつも教室で腰掛けている
や、
風邪を引いてマスクごしに
き込んでいる人など、
いろいろな「せき」のイメージが流れた。


「せ・・・せき?」


「そう、
だ。」


聞き返す烈火に、念を押して伝えなおす。






籍っつーと、アレだ。
結婚するやつらがなんかするやつ・・・。
・・ってことは・・・だ。



「ケッコン・・・・てことか?」




そうそう。と首を縦に振りながら成男が腕を組む。
その横には無言で下を向く水鏡、陽炎がいた。



「水鏡がおれのになる・・・ってことか?」



同じく。そうそう。と呟きながら成男が首を縦に振る。

出来る事なら否定して欲しかったその言葉を、
当然のように肯定され、烈火の顔から血の気が引く。



み・・水鏡が、おれの親・・・・・?




完全に混乱した頭を抱えながら、へたへたと座り込む。




いつのまに・・いつのまにこんなことになってたんだ?
おれの知らねえ間に・・・。
はっ!そうか、これは夢だ!!
そうだ、そうに決まってる。
夢なら、何やっても痛くねえよな。
んじゃあ試しになんか・・。




バシィ!!!


「痛ぇっ!!!」


突然頭に走る激痛。
何も無いはずの背後から、何かに殴られたような衝撃が走る。


「いってぇ・・・・。
 なんで後ろから殴られ・・・」



って、ちょっと待てよ。
夢なら痛くねえはずだろ。
じゃあなんで痛ぇんだよ。



はたと気付いて青ざめる。


まさか本当に本当の事か???
あーーー、考えてたら頭痛くなってきた・・・。



頭を抱えてうめき声を上げる。





                 
 れ・・っ・・・・か・・くん




どこからか、姫の声が聞こえた気がした。





                  れっ・・かく・・・ん






段々と確実なものとなっていくその声。









「烈火くん!!」


3度目の呼びかけで、声は確かなものとして現れた。


「何?やっと起きたの?」


手にハリセンを持ちながら、風子が顔を覗きこむ。


「魘されてたよ。大丈夫?」


心配そうな面持ちで柳が声をかける。


「ここ・・・どこだ?」


ぼんやりと辺りを見渡しながら、むくりと起き上がる。
どう見ても、ここは家じゃない。
じゃ、どこだよ。


「どこ・・って、学校の屋上だろうが。
 寝ぼけてんのか?花菱」


弁当片手に土門が声をかける。


学校・・・屋上?



その時、自分が屋上で昼寝をしていたことを思い出す。


確か授業抜けて・・、昼寝してたんだよな。
んで、授業終わったから姫達が来て・・・。

少しずつ、抜けていた記憶がよみがえる。


「おい、風子・・・。
 おまえ、ハリセンでおれ殴ったか?」


「へ?ああ・・・。
 全然起きないから起こしてあげようと思ってねー」


悪戯な笑みを浮かべながら、楽しそうに話し出す。


さっき頭に感じた痛みはそれかよ・・。

夢の中の痛みなら、感じないかもしれない。
しかし、それは現実のもの。
本当の痛みは、消えることなく夢の中にいた烈火にも伝わったのだ。


「っはあ〜〜。助かったぜ風子。
 おまえのおかげで夢、醒めたのかもな・・・。」

「夢見てたんだ?
 魘されてたけど・・・どんな夢?」


どんな夢?

その悪気も何も無い風子の一言に、再び烈火は青ざめる。
ほんの一時、夢から覚めた喜びで、内容を忘れていたものが、
一気に蘇ってきたのだ。


「言いたくねえ。」


乱暴にそう言い捨てると、かばんを手繰り寄せ自分も昼食にありつく。
その様子を不思議そうに見ながら、3人は首を傾げるのだった。







放課後。

何も知らない水鏡は、いつものように風子につかまり、
夕暮れの道を二人で歩いていた。



タタタタタタタタ・・・・・


ボコンッ!!



突然響く鈍い音。
何の前触れも無しに現れた烈火により、
水鏡がかばんで頭を殴られた音だった。


「な・・・烈火?いきなり何を・・。」

っるせえ!!てめえなんか、ぜーーったい認めねえからな!!」


そう言い捨てると、疾風の如く早々と走り去ってしまった。
残された二人は、何をどうしていいものかわからず、ただ呆然と立ち尽くす。


「な、なんかやったの?みーちゃん・・。」

「さ・・あな・・・・。」







全ては、夢の中のお話・・・・





FIN.



モドル