◆ ゆくとしくるとし ◆ 年が変わる数分前。真っ暗な道を歩いていた。 いつもほどは人通りの少なくない、でも暗い道。 街頭が足元を照らし、何とか晴れた空には星が瞬いている。 身を切るような寒さに白い息を吐きながら歩いていると、 ずっと前方で、見知った影を見つけた。 「不破!」 「・・・・・・小島か?」 「そうよ。・・・あんた、こんなときまで黒い服着るのやめない? 暗いから同化しちゃって、人だか何だか一瞬わからなかったじゃない」 「そうか?」 「まあ、別にいいんだけど・・・・。 ・・・・って、こんな時間にどうしたの?」 「それは小島もだろう」 「私はお兄ちゃんと初詣・・・・・・あ、もしかしてあんたも?」 「ああ、風祭に誘われたのでな」 「ふーん・・・・・」 さほど興味なさげに呟く。 後ろから兄が追いついてきたのに気付いて、 有希が兄に「先に行って」と伝える。 「今年も一年早かったわよねー。 私なんか、今日が大晦日だって、朝言われるまで気付かなかったんだから」 「長期の休みに入ると、日付の感覚がなくなるからな」 「そうなのよねー・・・。おかげで今日は1日大掃除! ・・・・今日が大晦日だって知ってたら、もう少し前から始めてたのに。 不破は?大掃除、終わった?」 「もちろんだ」 「あ、そ」 日付の感覚をなくしていた自分と違って、 しっかりと年末の用事をてきぱきとこなしていたらしい不破が、 あまりにらしく思えて、それでもどこか悔しくて、 精一杯素っ気無く、有希が返事を返した。 それから数分道端で話をした。 他愛も無い話ばかりで、だからこそ止まらない。 そうこうしているうちに、時間は経ち、 不破が時間を気にして時計を見たことに気付いた。 話しすぎた。 待ち合わせの時間もあるだろうに。 引きとめた事に罪悪感を覚えて、慌てて有希が声を出す。 「・・・っと、ごめん。待ち合わせしてるのよね、あんた」 「いや・・・・・・まだ大丈夫だ。余裕を持って出たからな」 「でも、そろそろやばいんでしょ?早く行った方がいいわね」 「・・・・・すまん」 「なんであんたが謝るのよ。 ・・・・そういえば、あんた達はどこに詣でるの?」 「知らん」 「知らん、って・・・・・・・。あんた、それでいいわけ?」 「だから待ち合わせるのだろう。 それに、先に行くところがあるという話だからな」 「ふーん・・・コーチのところでも行くつもり?」 「大方、そんなところだろう」 「そう。じゃあ、私の分まで挨拶しておいて」 「わかった」 「それじゃ、またね、不破。良いお年を!」 「ああ」 有希がそう言って、兄が歩いて行った方に走り出す。 それを見送るように数秒その背中を追っていると、 数m行ったところでくるりと有希が振り帰った。 「? どうかし・・・・」 「そういえばあんた、今日誕生日だったのよね。 誕生日、おめでとう!」 じゃ、今度こそ、またね。 もう1度そう告げて、また有希が走り出す。 もう彼女が振り帰ることはなかった。 暗闇の中で、次の一歩が踏み出せず、立ち竦む不破がいた。 忙しい年の瀬。 覚えやすそうで、それでいてその日が来る事を忘れやすい大晦日。 残るモノが贈られなくとも、その言葉だけで、嬉しい。 HAPPY BIRTHDAY FOR YOU FIN. 書きました。遅すぎ?いえ、まだ間に合ってます!(死) |