春も麗らかなそんな日。

春休み中だろうが何だろうが問答無用で部活はあって。
やはり、今日のこの日も当然あって。
終わったのは、ほんの数十分前。


昼過ぎまでの短い部活を終え、部員達のほとんどが帰宅した後。

部室には、何故か甘い匂いが立ち込めていた。













[[[ 
ショートショート ]]]














「―――不破サン?一体これは何なのか、教えてくれる?」


「見ればわかるだろう。ケーキだ」




いや、そりゃ確かに見ればわかるんですけど。
部室内の大き目の机に置かれた小さなケーキを見ながら、有希は白白しくため息をついた。

机の上に乗せられたのは、最もシンプルで代表的な。
真っ白な、上にはイチゴの乗った、ショートケーキ。
あのいびつな三角形を見る限り、あれは大きな丸いケーキの一端で。
おまけにあの少し不恰好とも取れるずれたクリームの線を見る限り、あれは売られているものではなくて。
というか、あからさまに手作りで。

・・・・手作り?




「ちなみにこれは・・・・・・・・・・・何で?」


「誕生日なのだろう。そう聞いた」


「・・・プレゼント?」


「そうだ」


「とりあえず聞くけど、どこの店のケーキ?」


「売り物ではない。俺の手作りだ」




やっぱりか。
なるべく表情には出さないように、心で呟く。
そういえばこのまえの不破の誕生日に、私も手作りで贈ったな、などと遠い過去のように思いながら。
だからといって、何故不破も同じように手作りをするのかは、わからなかったけれど。




「わざわざ作って、持ってきたの?」


「そうだ」


「・・・・そう。なんか、悪いわね」


「謝られる必要は無い。俺が勝手にやったことだ。
・・・・いらなかったか?」


「え、あ、ううん!!そうじゃなくて!」


「そうか。なら、食べてみてくれ」




慌てて否定する有希はそう気にせず、マイペースに不破が皿を差し出す。
立っていた有希に座るように促し、座ったのを確認してから、
どこから取り出したのかフォークを差し出した。




「ね・・・ねえ。今食べなきゃダメなの?持って帰るのとか無し?」


「安心しろ。持ちかえる分は他にきちんと置いてある」


「・・・・今ふと不安が過ったんだけど。
この一切れを除いたホール1個分、その大きな紙袋の中にきっちり収まってたりする?」


「ああ」


「・・・・・」




つまり私は、その大きな紙袋持って家に帰るってわけですか?
なんか・・・思いっきり母さんに不信がられそう・・・・。

的中しな不吉な予感に、まがりなりにも贈り物なのだから、と少しは遠慮しつつ、
有希が、静かに肩を落とす。
多分家に帰れば、家族が用意してくれたケーキもあるだろうから・・。
・・・このケーキを処分するのに、何日掛かるだろう。
考えると、頭が痛くなった。

まあ、せっかくの贈り物なんだから・・・・!
嫌な気持ちを吹き飛ばすようにそう唱えて、フォークを手に取り、ケーキに向けた。




「どうだ?何分初めて作ったものなのでな。余り自信がないのだが」


「そうね・・・・。あ、イチゴが甘くておいしい」


「・・・・・」


「・・・冗談よ冗談。そんな不満そうな顔しなくてもいいじゃない」


「・・・結局どうなのだ」


「おいしいわよ」




ごくん、と飲み込んでから。にこりと笑って。
有希がそう、簡潔に答えた。
そして、2口目をフォークに刺して、口に運ぼうとした直前に、ただ、と呟く。
歯切れの悪い呟きに、不破が眉間にしわを寄せたのを見て、慌てるように、続きを言う。




「ちょっと・・・甘すぎる。かな」


「そうか?」


「んー・・・・。ほんっとにちょっとだけね。別にこれでも十分なんだけど。
私はもうちょっと・・・・」


「・・・言葉が曖昧でよくわからん」


「じゃあ、食べてみる?」




そう言って、自分の口に運ぼうとしていたフォークの先を、不破に向けた。


一瞬部室の中の空気が止まって。時計の針だけがちくたくと時を刻み。
妙に空白の空いた雰囲気がしばらく流れて。
そして少ししてから、有希が、あげていた腕をしびれをきらしたように下ろした。




「・・・・せめているとかいらないとかいうリアクションしてくれない?
黙られても、困るんだけど」


「・・・そうか。悪かった」


「ん。素直でよろしい。で、本当に味見いらないの?
・・・・って、そっか。作った時点でしてるわよね、味見くらい」


「いや、俺はしていない」


「・・・・・」


「じいさんに味見を頼んだ」


「あ、そゆこと」


「どうやら、じいさんと小島の味の趣味は合わなかったらしいな」


「別にあわないってほどでもないわよ。これだっておいしいもの」


「・・・気を使う必要はないが?」


「本当だってば。ほら、味見」


「・・・・・」




また、先程は空ぶったフォークを不破に向けて、沈黙が流れる。
不破はフォークを見つめたまま動きを止め、有希はそんな不破を凝視し。
そして、しばらくしてからまたあげていた腕を下ろして、今度は深くため息をついた。




「・・・・・だから、いらないならいらないって・・・・」


「そうか。悪かった」


「・・・・・も、いいわ。なんかすっごく無駄なことに思えてきた」


「いいからお前はそれを食え。片付けは俺がしておく」


「え。別にいいわよ。そんなの後でも・・・」


「遠慮するな」


「・・・・・じゃあ。お言葉に甘えて」




そう言って、1度は不破を止めようと立ちあがった姿から、もう1度椅子に腰掛ける。
有希のそんな様子を見届けて、彼女の後ろに位置しているドアへ向かおうと不破が立ちあがり、
有希の後ろを通ってドアに近付き、ドアノブに手をかけ。
そしていざ回そうとした直前に、何かを思いついたように有希がにやりと笑って。
そしてフォークの持ち方を変えて、そして音も立てずに立ちあがって。
そして言った。




「ふーわっ」


「なんっ・・・・・」




呼ばれた方へ振り向いた瞬間、口にしていた言葉は途切れ。
口に広がる甘い味。




「ね?ちょっと甘すぎない?」




突然のことに、少し理解に苦しむ不破を尻目に。
何事も無かったかのように、有希がさらりと問うた。

そして、微笑む彼女の利き手には、先程までささっていたスポンジの消えた、フォーク。




「でも、おいしいでしょ?」




そう言ってまた、にこりと笑った。




「・・・・確かに少し甘いかもしれんな」


「でしょ?」


「しかし・・・」


「ん?」


「味は悪くない」


「ほら。言ったとおりでしょ」


「・・・しかし、今のはやめろ。下手をすればどこかに刺さったかもしれないだろうが」




そう言って、口元についたクリームを、親指できれいになぞった。


振り向いた瞬間、彼の口を襲ったプラスチックのフォーク。
そして広がるクリームの味。
下手なところに刺さらなかったから良いものの、彼女の行動は非常に危険なことで。
どちらかというと、しっかり口の中に収まった事の方が稀だというのに。

しかし、楽しそうな彼女の笑顔で、怒る気は失せてしまった。




「じゃあ。片付けよろしく」




機嫌よさそうにひらひらと手を振って、振り向き加減に有希が椅子に座りなおした。
その言葉に背を押されるままに部屋を出て、すでに次の部が練習に来ているグラウンドへ不破は出た。
後ろでぱたん、と扉が閉まる音を聞いてから、ふと振りかえり、もう1度口元を拭う。
口の中に残る味が、有希の笑顔と共によみがえる。

思い出した味は、先程感じた以上に甘かった。





FIN.


アイタ(死)

この一言が内容の全てを表しているようです(笑)
またまたいつもとは違う感じで、いつも以上にセリフが多い!(死)
ダメ街道まっしぐらです。こんな私に合いの手を(違う)
ああ、それとね。これの続編・・・っぽいものが、ssにありますので。
見ればすぐわかるよ。うん。・・・ハハ(謎の笑い)

ぶっちゃけた話。これって甘いのかな?(聞くなよ)
いや、甘くないよね。違うよね。違うといって(言ってほしいのか)
あー。でもこれ実際。目撃者欲しかったな。某ミズノンな目撃者が(爆)
最初はね、目撃者ミズノンの視点から書いたやつにしようかとも思ってたんですが。が。
・・・イジメすぎるのもどうかと思って(今更)
今ふと思ったんだけど。うちのミズノンは有希のこと好きなのか?
・・・作者は知らないから、結果は神のみぞ知る。って感じですな(待て)

(ちなみに、ミズノンの名の由来は隠し書庫のギャグ小説見てね(笑))

こんなところでウラバナシをしますと。
今回のこの話のイメージは。某十和田様からいただいたイラストです。ずばり。
こんなところで名前出してすみません;でも、でも!!
どっちかってーと私は、
名前だけに留まらず貰った作品全部HPにあげたいくらいの情熱をアナタに傾けてます!!(大告白)
あああ。是非あの、今回の目玉シーン的(待て)イラを見せびらかしたい!!!(悪)
あー。てか。勝手にあのイラをイメージして小説書いてすいませんでした;;(遅い)

え―――・・・・・・ハイ。それでは。
有希嬢誕生日おめでとー!!(全然祝えてないとかいう厳しいツッコミなし(痛))

(ところで誰か「小島有希サンの呼び方は『有希嬢』だろ連盟」一緒にしません?(笑))



モドル