今日の天気は晴れのち曇り

降水確立10%

傘は必要ないでしょう




――――天気予報なんてのは、アテにならないんだと痛感した。













[[ 君と屋根の下 ]]














「信っじらんない!!」


目の前に降り注ぐ、叩きつけるような雨を凝視しながら、苛立つように有希はそう叫んだ。

朝、でかけに見た天気予報では、
レポーターのお姉さんがマイク片手にはっきりと、今日傘は必要ないと言っていたのに・・・。
素直に信じた自分が悪いのか、正確な予報を出さなかった天気予報士が悪いのか・・・。
どちらにしても、買い物帰りに立ち往生を食らった彼女の怒りは、おさまることを知らなかった。




「あんっなに自信たっぷりに言うから信用したのに!
言った事にはちゃーんときっちり責任取りなさいよね、レポーター!!」




んな無茶な。


あの金髪の関西人がいれば、真っ先にそうつっこまれてしまいそうな文句をぶつくさと言いまくる。
少なくともレポーターに罪がないことに気付いたのか、
数十秒後には、怒りの矛先は予報士へと変わっていたが。
もうしばらくすれば、矛先はきっと、雨雲なりに移っていくのだろう。

もしくは、やつあたりなどに。




「だいたい、私がこんなところで立ち往生しなきゃならなくなったのも、ぜーんぶあいつのせいよ!
買出しみんな私に押し付けて!一体人のこと何だと思ってんのよ!
私はマネージャーだって言っても、女子部の選手でもあるんだから。
こんなこと、1人でしなきゃいけない理由なんてないんですからね!」
























「そう思いません?三上さん!!」

















レポーターに始まり、天気予報士、雨雲、果てはクラブの誰かサンへのやつあたりを終え満足したのか、
有希はくるりと横を向き、同じく雨により雨宿りを余儀なくされているお仲間・・・三上に向かって言った。








「・・・・俺に聞くなよ」

「他に聞く人いないじゃないですか」

「独り言してろ、大人しく」

「いーじゃない、返事くらい。減るもんじゃないでしょ!」

「あのなぁ・・・」




終始不機嫌そうに、年上の自分に対してきっぱりはっきり言ってくる彼女に、
最後はどこか呆れたように頭を抱えて、三上がはぁ・・・とため息をついた。







ことの起こりは数分前。

突如降り出した夕立に、傘を持たない有希が急いだ屋根の下。
ほんの数十秒後に、この三上も逃れてきた。ただ、それだけのこと。

初め、すぐ止むだろうと思っていた雨は、思いのほか長くて。そして強い。
なかなか止まない。おまけにどしゃぶりなので走って帰るわけにもいかない。
どうにもこうにもいかなくて、有希は冒頭のように雨に向かって叫んでいたのだった。
隣の三上に同意を求めても、先ほどのように会話が成り立つ事はなかったけれど。










「あーあ。でも本当・・・・よく降るわね・・・・・・・・」





呟くようにそう言って、先の見えない暗い雲をじっと見上げた。





見上げると、雨はまるで自分に向かってきているように見えて、少し怖い。
決して自分だけを狙っているわけではないのに、何故かそう錯覚してしまう。


暗い雨は、あまり好きとは言えない。










「・・・・・・・三上さんは、どこ行ってたんですか?今日」

「別に・・・・ぶらぶらしてた」

「じゃあついてないですよね。散歩に出たら雨降ってきちゃって。
オマケに雨宿りした屋根にはこんなのがいて・・・」

「・・・・イジケんなよ。相手にしなかったくらいで」

「いじけてません」

「いじけてんだろが」




互いに、互いのことを一目も見ずに交わしたこんな会話が、
最後のセリフでしばらく止まり―――少ししてから、どちらともなく小さく笑った。
雨はやみそうにないけれど。こんなのも悪くないかもしれない。
降り注ぐ雨の中、雨音の中で感じる孤独も、ここにはない。
飛び込んだ屋根に、自分以外の人間がいて、よかったと思った。












しばらく、なりたたない会話や、時々成り立つ会話。
最終はサッカーの討論会にまでなった雨宿り組の意思疎通が数十分にまでなったとき。
叩きつけるようだった雨は、まるで霧吹きで吹きつけたようなものにまでなった。








「・・・・・・もうちょっとで止みますね」



嬉しいような、残念なような。
複雑な気持ちで有希が呟く。

それなりに楽しかった、ずっと話していて。
他校の、あまつさえ先輩、そして敵。
そんな、普段なら会うことさえもないような人と、ここまで長く話したのは初めてかもしれない。
そんな会話が楽しかったのは、単に内容がサッカーだったからかもしれないが・・・。



名残惜しいような・・・惜しくないような・・・・。


そんな有希の気持ちを知ってか知らずか、
三上は一言そうだな、と呟いただけで、がさがさと自分の荷物を探り出した。
しばらく探して、目的のものを見つけて、取り出した先にあったものは。











紛れもなく。傘。















「・・・・・・傘・・・・・・・・」

「持ってたんだよ。実は」




にや・・・といった風な笑みを浮かべて三上が言う。






「じゃあ・・・なんで待ってたんですか?雨止むの・・・・」




当然の疑問を投げかけられて、言い難いのか三上が少し視線をそらす。
その態度に、ますますの疑心を深め、促すようにじっと有希が三上を見つめた。


はぁ・・・・と、出来れば言いたくなかった、という風にため息をついてから、言う。


















「―――濡れて帰っても風邪引かない程度の小雨を待ってたんだよ」
















そう言って、手にしていた折畳式の傘を、有希に向かって投げつけた。














「返しにくけりゃずっと持ってろ。・・・・じゃあな」













そう言い残して、有希の返事も聞かずに、
水を蹴るようにして、屋根のある場所から飛び出した。
さすがサッカー選手とでも言うべきか、足の早さはやはり折り紙付き。
呆気に取られて呆然としているうちに、すっかり姿は見えなくなってしまった。










残された私は、この傘をどうすればいいんですか?





手のうちに投げられた傘は、気のせいかほんのりと湿っている。
もしかして、1度差したものを・・・・とじたのだろうか。自分の、姿を見つけて。

自分が、1人で雨止みを待っているのを、見て。

























―――――なんだ、良い人じゃない。















そんな言葉が浮かんで、くすりと笑う。




聞いてた話と全然違う。
初めて話したけれども、私には良い人に見えた。
不器用だとか、素直じゃないとか。そんな風に思えた。












手の中の傘をゆっくりと開いて、閉じ込められていた檻から一歩踏み出す。
雨はすっかり小降りになっている。本当なら、傘も必要ないほどに。
これなら、風邪も引かないよね。ひく必要のない風邪なんて、患って欲しくない。
ぱしゃぱしゃと水溜りを踏んで、足並みはゆっくりと、家へ向かった。
この傘、どうやって返そうか。そんな他愛の無いことを考えながら。





百聞は一見に如かず。
会ったあなたは聞いてたよりも、ずっと良い人でした。
ちゃんと傘返しに行くわ。


だからそのときはまた、サッカーの話、しようね。







FIN.


目指したのは良きライバルっぽい三上と有希。
蓋を開ければ何故か有希→三上。・・・・・・・・・・なんでやねん(笑)
うっわー。万踏越で書いたシゲ有希よりも稀な設定だわよ(謎)
でもなんかこれ好きだなー。
これで本格的に三上有希にハマったら君のせいね、フィンv(死)
とゆーわけで。フィンと林檎姐さんとの三上有希交換企画in正月。でした(謎)
ミナサマも今年もどうぞよろしゅうv


モドル