来年もまたその次も、この日だけはこの場所で。
[[[ 約束2 ]]]
「随分と余裕だな、受験生」
重いドアを、大きな音を立てて開いてこの場所に辿り着いた水鏡は、
その場所の数少ない陰に座り込む風子の姿を見るなり、呆れたように笑いながらそう言った。
問いかけられた風子は、そんな水鏡の様子を見ながらにこりと笑って、
早かったね、と一言言った。
「もっと遅くなるか――来ないかと思ってた」
「どこにいるかわからないとでも思ってたのか?」
「そ。何にも言わなかったからね」
「一年前の『約束』を忘れるほど、物覚えの悪い頭をしているつもりはないがな」
そう言って、手にしていた荷物―ビニールの袋を小さく鳴らして、風子の隣に座り込む。
真上に上がりかけている太陽のせいで小さな陰では彼ら2人は完全に覆いきれず、
はみ出した足が太陽の光りで除々に暖まりだし、更に上がった体温に、暑いねと一言呟いた。
「皆よくやるよねー、この暑いのに・・・・」
「ほんの数日前、無理矢理『運動しよう』と言って連れ出されたような気がするのは僕の記憶違いか?」
「・・・・・あの時はそんな気分だったの」
校庭で部活に勤しむ生徒達をぼんやりを眺めながら言った言葉に返った返答に、
風子は苦笑いしながらまたそう言って、だるそうに手で顔を扇いだ。
「暑い・・・・・あとでかき氷食べに行こー・・・・」
「随分と気力体力が落ちたようだな。」
「とーぜん。風子ちゃんはいちよー受験生だからね。寝る間も惜しんで勉強してんの」
「授業中寝てるんなら、睡眠不足は体力低下の理由にはならないだろう」
「う・・何でそれを・・・・・・」
「眼の下にクマも作らないような人間に、睡眠不足なんていう言葉が纏わりつくはずないからな」
水鏡の言葉に、少し悔しそうな表情を示した風子に、
水鏡が余裕綽々と言った風に笑って、彼もまた、暑さに耐えきれないように小さく息をついた。
そして傍らに置いていたビニール袋をがさがさを探り、手にしたそれを、風子の首筋に当てた。
「う、わっ。冷たっ!!」
「かき氷、とは行かないが、少しは涼しくもなるだろう」
「缶ジュース?よく冷えてる・・・気持ちいー・・・・・」
「この暑さじゃ、すぐぬるくなるぞ」
「わかってるって。すぐ飲むよ。あー、冷たい・・・・」
しばし缶の冷たさに暑さを忘れて涼しさを取り戻す。
そして、水滴でびしょ濡れになった手を軽く払って、缶の蓋を空けて一気に飲み干した。
どんどんと残り少なくなっていくそれに、名残惜しさを感じながらも全てのみ終えて、はあと一つ息を吐く。
見上げた空はどこまでも青くて、広かった。
「言っておくが、来年は僕だけじゃなくお前も部外者になるんだぞ。
ここにどうやって入る気だ」
「こっそり」
「風子」
「だーいじょうぶだって。バレないバレない」
「その自信はどこから来るんだ・・・」
「だってほら、今だってバレてないじゃん。去年だってバレなかった」
だから大丈夫だって。
そう言って風子が笑ったのを見て、水鏡がまた、呆れたようにため息をついた。
この場所、今いるこの場所は、学校の屋上。
昔から、そして今でも、仲間達と共に過ごす大切な場所。
今年から一人減ったその場所の使用者。来年からは、誰が使う事になるんだろうか。
「絶対大丈夫だって。1日くらい、先生だって大目に見てくれる・・・・はず!」
「・・・・・大した度胸だ」
「みーちゃんだって、見つかったところで別にどーってことないでしょ?」
「・・・・・・・」
「うん。問題なし問題なし」
そう言って、風子があははと笑って、すっくと立ち上がる。
立ち上がった彼女を見上げる水鏡を見下ろして、どこか行こうかと言って、風子が、水鏡に手を差し出した。
「やっぱり食べたくなってきた、かき氷。美味しいの食べに行こう。
で、ぶらぶら時間潰して烈火の家行こう」
「・・・・・毎年よくやるな、あいつらも」
「みーちゃんだってその一員じゃん」
そう言ってまた笑って、水鏡も唇の端を吊り上げて小さく笑って、風子の手を取って、立ち上がった。
「言い忘れてたが」
「ん?」
「おめでとう」
「へ?」
「誕生日」
「・・・・・・・・・え?あ、うん・・・・・・ありがと」
「・・・・何だその歯切れの悪さは」
「いや、だって。今まで1回も言われた事ないし。びっくりした」
「そうだったか?」
「うん、初めて。みーちゃんも素直にお祝い言えるようになったじゃん、エライエライ」
「・・・・・2度と言うか」
ふざけて、背伸びをして頭をなでると、急に不機嫌になった水鏡がそう言ってそっぽを向いた。
その仕草がおかしくて、また風子が笑って、
二人連れ立って、屋上から下階へと続く扉を開けて、そして、外へ向かうべく屋上を後にした。
少しずつ大人になっていく私達。
それでも、共に過ごした、一番最初の一番楽しい思い出達を、ずっとずっと忘れないように。
来年もまた次も、この日だけはこの場所で。
「おめでとう」の代わりに、他愛無い話をしよう。
FIN.
締めが甘くてツメも甘い(痛)
とりあえず愛だけ込めて、そして前日まで忘れていたために一時間で仕上げた作品(死)
記念すべき4度目のバースデー。おめでとう、風子!!
いやーもうマジで焦ったよー。
某フィンに1日にメール貰って気付いてさー、その日は力尽きて寝てさー。
次の日(当日)も授業とコーラスで帰ったの5時でさー。
帰った後にパソコンつけたら思わずネットサーフィンしちまって(死)
よかった・・・・今日中にしあがって本当に良かった・・・(本当にファンかという痛いツッコミお断り)
つーわけで。去年のバースデーの続編、です。
当分このネタは使えるわ。イエイ(死)
去年のお話の続編ってことで、謎もいくらか解明。結局約束の場所はどうなったか・・とかね。
にしても本当。日常的な誕生日だなー。
でも、こういうのもきっと「幸せ」だよね?ね?(不安らしい)
とりあえず私は自分の信念が守れてそこそこ満足だし(信念=モノ以外のプレゼント)
ウラバナシを少し致しますと、この小説を書くために何冊も烈火を引っ張り出してきました。
まさか・・・水風を書くために資料が必要な日が来ようとは・・・・(大ショック)
やっぱサボっちゃダメだなあ;
まあそんな感じで。お次は水鏡のバースデー。さ、どうしよう(今から悩むのか)
モドル