[[[ その笑顔、危険につき ]]]
「あー、面白かった!」
すっかり暗くなった、冬の帰り道。
満面の笑みを浮かべて、そう、有希が言った。
久しぶりに1人で行った、公共のフットサル場。
身近な誰かとするのもいいけれど、会ったこともないような誰かとやってみたくて、
誰にも内緒でやってきた。
結果は上々。いろんな人と知り合って、思う存分プレイしてきた。
ただ1人、ハジメマシテじゃない人間も、中にはいたのだけれど。
「やっぱりアマチュアでも上手い人って多いのね。
これから、頻繁に行ってみようかな・・・」
「当然だろ?将達なんかのレベルで満足してるようじゃ、上目指すなんて到底無理だね」
「よく言うわよ、その『なんか』なレベルに1回負けてるくせに」
「うるさいよ」
即行でそう答えた隣を歩くハジメマシテじゃない人間・・・翼に、有希が小さく笑う。
その態度すらも気に入らないようで、翼が不機嫌そうにそっぽを向いた。
行った先で出会った、ハジメマシテじゃない人間、椎名翼。
初め互いに顔を合わせたとき、あ。という一言の次が続かなくて、
数秒にらめっこしてから、どちらともなく笑い出した。
その後、同じコートで何度も試合をして、いろんな箇所の指導を受けて・・・。
気付いた頃にはすっかり辺りは真っ暗で、今現在こうして一緒に帰路に着いている、というわけ。
と言っても、それは駅までの話なのだけれど。
「椎名はよく行くの?あのフットサル場」
なんとなく会話に困って、有希がそう切り出した。
彼、翼の学校にはフットサルのコートがあるから、ここまで来る必要などはほとんどない。
実際、今まで何度も来ているのに、会った事はなかった。
そのことが、ほんの少しでは有るがずっと気になったいたのだ。
しかし、そんな思いで投げかけた問いも、翼はあっさり簡潔な答えを出した。
「別に」
「・・・答えになってないわよ」
しかも、会話終わっちゃうじゃない。
苦々しくそう呟いて、有希が呆れたような表情を示した。
さっきの不機嫌が持続しているのだろうか?
そんなことを少し考えて、なんとなく悪いような気がして、そっと翼の顔を見やる。
前を向いたままの表情に、不機嫌さは残っていないけれど、機嫌が良いようにも見えない。
身を刺すような寒さに、白い息を吐いて、どこか遠くを見つめている。
機嫌のほどが掴みにくくて、思わずじっと、その横顔を見つめていた。
「・・・・・・あのさ。あんまジロジロ人の顔見て欲しくないんだけど」
しばらくして、有希の自分に向く視線に耐えきれなくなった翼が、
下を向いて目を閉じ、そう言った。
その言葉に、はっと気がついて、慌てて有希が目線をそらす。
「別に珍しいもんでもないだろ」
表情以上に言葉にトゲをつけて、不機嫌そうに翼が付け足した。
あ・・・・やっぱり、怒ってるんだ。
自分の行動と、さきほどの言葉に後ろめたさを感じて、ふいと下を向く。
しばらく地面を見つめて、そして顔を上げて、もう1度口を開いた。
「やっぱり・・・・怒ってる?」
「まあね」
またも簡潔な翼の言葉に、やっぱり、と小さく呟いて、また下を向く。
「あの・・・・・さ。―――ごめん」
「・・・・謝るぐらいで許すと思う?」
「ごめん、ってば!ごめんなさい!!」
「誠意が感じられない」
「・・・何よそれ」
「言葉だけじゃいまいち足りないね」
「それってどういう・・・・」
どういう意味?
そう問おうとして、地面を見つづけていた視線を翼に戻す。
そして見たのは、にやりと悪魔の笑みを浮かべる翼の表情。
「やっぱり。何か奢ってもらうくらいしないとね」
「あんた・・・まさかそのためにわざと怒ったフリしたわね・・・」
「さあ?」
なんのこと?とでも言うように肩をすくめて、翼が笑う。
それに、多少の怒りは感じながらも、
本気で怒らせていなかった事への安心で、有希も少し笑った。
「―――で?多少詐欺ではあるけど、あんたは私に何を奢って欲しいの?」
「そうだな・・・・」
そう有希が問うと、翼が少し視線を泳がせて悩むような素振りを見せた。
そして、視線を一点・・・・もう近くなった駅に定めて、少し小走りにそれに向かっていった。
有希もそれを追うように走り、先行く翼に追いつく。
追いついた場所は、駅の中の、小さな売店。
そして、翼が手に持っていたものは。
「これでいいや」
「これ・・・って。チョコ?」
「見ればわかるだろ」
そう言った翼の手に握られていたのは、言葉の通り、チョコ。
よく目にする、シンプルな板チョコだった。
「本当に、そんなのでいいの?」
店員に代金を払いながら、有希が翼を振りかえりそう言う。
「フランス料理のフルコースの方がいい、ってんなら、それでもいいけど?」
「いーえ、これで結構です」
店員からおつりと品物を受け取り、そのまま品物だけを翼に回す。
受けとって、小さく礼を言って、翼がそれをカバンに仕舞い込んだ。
「・・・何よ、今食べるんじゃないの?」
「別に。どうせだから当日まで置いとこうと思ったんだよ」
「当日・・・・・・・・って、まさか」
「そ。バレンタイン」
さらっとそういう翼に、少し驚いたように有希がぽかんと口をあけた。
今日は、バレンタイン直前の土曜日。
忘れていたわけではないけれど、特に意識していたわけでもない。
明日、みゆきらと部員に配る義理チョコを作ることにもなっていらから、わかってはいたのだけれど・・・。
「まさか、あんたがこんなことするとは思わなかったわ。意外・・・」
「・・・・悪かったね」
ぼそりと呟いて、翼が改札へ向かう。
それに続くように有希も改札をくぐって、次の電車の時間を調べた。
幸い、そう時間はかからないらしい。
残り5分の過ごし場所を求めて、先に翼が座っていたプラットホームの椅子に腰掛けた。
「ねぇ、やっぱり嬉しいもんなの?女の子からチョコ貰うのって」
先ほどの有希の言葉から、怒ったような不機嫌なような、見ように寄れば照れているような翼に、
有希が、先ほどまでの後ろめたさも感じずにそう聞く。
「そりゃ、男に貰うよりはね」
「なーにバカなこと言って・・・」
軽く、冗談めかして言った翼の言葉に、
やっぱり怒ってなかったと安堵しながら、有希が明るい声を上げ。
そして、セリフは途中で途切れ。
―――しばし沈黙。
「・・・貰った事ありそうね、男から」
「ないよっ!!!」
ムキになって怒る翼に、有希があははと笑いながら謝る。
完全にヘソを曲げた翼が、有希とは全く違う方向に体を向け、不機嫌さを露にした。
「そんなに怒る事ないじゃない」
未だくすくすと笑いながら、有希が言う。
それにも、完全無視を決め込んで、翼は黙ったまま。
そんな翼の態度に、有希が1つため息をついて、がさがさと自分のカバンを探った。
その有希の行動が少し気になるのか、軽く顔を有希に向けた翼の頭を、
カバンから取り出した何かで、有希が軽く叩く。
「追加よ。さっきのお詫びの、ね」
ぽん、と軽い衝撃を翼の頭にもたらしたのは。
さっきの売店で同じく売っていた、ビターのチョコレート。
「今日1日いろいろ教えてくれたお礼と。さっきまでの私の言葉のお詫び」
ほんとは、私のために買ったんだから。
付けたしそう言って、軽く有希が笑う。
しばらくそんな有希の顔と、手に持たれたチョコレートを見つめて、
そして、翼も笑って、そのチョコレートに手をかけ、そして言った。
「込めた気持ちは、礼と詫びだけか」
「・・・・え?」
にやりとした笑顔の翼が言ったその言葉に、有希がそうもらす。
同時にプラットホームに滑り込んできた電車に翼が乗り込もうと席を立つ。
立ちあがって、乗り込む直前、翼は言い捨てた。
「じゃ、来年はぜひ。本命をもらうってことで」
そうして、有希が言葉を返す前に、電車はホームから走り去っていった。
急にがらんとしたホームには、
呆然と、さきほどの言葉の意味を理解しようと務める有希の姿があったとか。
イチからジュウまで全て彼の思い通り。
あそこで出会った偶然すら、疑ってしまうのはいけないのでしょうか?
笑顔と言葉を巧みに操り、勝ち取ったそれ。
私は、見事手玉に取られてしまったのでしょうか?
来年がどうなるかなんて、誰にもわからないけれど。
また来年も、同じ手口にひっかかってしまいそうな自分が怖いです。
【教訓】
あの笑顔、危険につき。
重々、注意すべし・・・・。
FIN.
以上、バレンタイン投票3位の翼さんでした。
翼さんは好きです。はい、好きなんです。でもさ、やっぱりさ。
資料無しで口調マスターしろってのは無茶だよね(死)
言いまわしわからんわー!!!(ちゃぶ台返し)
なんとなくバレンタインにはなったのでしょうか?
・・・って、これバレンタイン当日じゃねえし(死)
舞台が何年の話なのかわからんので、下手に曜日指定もできんかったし。
もし、当時のバレンタインが金曜日とかだったらどうするよ?
日曜日にみゆきちゃんとかとチョコ作って、5日も置いとくんか?(死)
えー・・・・・・こんな翼有希でいいんですか?
てか、翼有希の基本形態ってどんなんですか?(聞くな)
と、ゆーわけで。stmimi初☆翼有希SSでした。
もう、学校の垣根とか関係ないよ!!何でも来い!!(死)
調子乗って笠井くんとかいってみましょうか!!(死)
(冗談です。本気にしないで下さい(特に鬼リクが趣味の人達(笑))
モドル