君に贈ろう。ありったけの想いを込めて。











[[[ 
受取拒否 ]]]













紙袋を片手に、有希はバス停から少し離れたここ・・・武蔵森学園の門を見上げていた。

武蔵森学園の内部構造・・及び位置関係は風祭から聞いた。
部活をやっている場所も、だいたい把握済み。




これで、やっと返せる。
ずっと借りっぱなしの――あの傘を。





もうずっと前に借りたのに、なんだかんだで返さず終い。
もう1本あるからと、別に急がなくていいと言ってくれてはいるものの、
借りっぱなしと言うのはやはり気が引ける。
早く返したいのはヤマヤマなのに、お互い忙しくてそうそう会えるわけもなく。



だからこそ、今日は部活終了直後にかなり急いでやって来た。
せっかくだから、お礼も兼ねて、プレゼントしようと思ったから。



今日、桜上水の部員達にも配った・・・あのチョコを。


お礼の品が、部員達への義理チョコと同じ・・・というのも気が引けるので、
ラッピングだけはちょっとだけ手を加えて。
中身も、心なし豪華に。ほんの・・・・ちょっとではあるけれど。









傘と、チョコとが入った紙袋を抱きしめて、恐る恐る門をくぐる。
部外者である以上、あまり堂々とするわけにもいかないし。なるべく見つかりたくない。
特に、教師などに見つかれば最悪。
渡す前に強制送還・・なんてのも有得る。
特に今日はバレンタイン。
サッカー部の誰かに・・と、学校に忍び込んだ輩も少なくないはずだ。絶対。



そんなことを考えて、ご苦労だなぁ・・・と他人事のように思って、ふと気付いて、小さく笑う。

名目は違えど、やってることは自分も同じだ、と。












他校の慣れない雰囲気にのまれそうになりながら、きょろきょろと辺りを見まわして、
風祭に聞いてきた学園地図を頭の中に繰り広げる。
少しうろ覚えな部分もあったが、やはり学校というのはどこも同じような構造なのだろうか?
ある程度想像で進んでみたくせに、案外あっさりとグラウンドは見つかった。



目の前には、桜上水より幾分か広いグラウンド。
そしてそこには、真っ暗とは言わずとも、結構な暗がりで練習に励む・・・サッカー部の面々。

予想以上にあっさりと見つかったそれに、ほっと安堵のため息を洩らす。
そして次の瞬間、新たなる問題に気がついた。







暗闇に何人もいるせいで、どれが誰だかわかりゃしない。










「ど、どうしよう・・・・・」



ただでさえ全員似たような服で練習をしているので、余計に見分けをつけにくい。
試しに名前を叫んでみようか?
・・・いや、それは余りにも相手の迷惑になりそうだ。だいたい、練習妨害にもなりかねない。
いくら敵校と言えども、そんなことは絶対したくない。


さて・・・どうしよう。




辺りはもうそろそろ真っ暗になる。
早くしないと、帰る頃にはかなりの闇が降りているはず。
ここから帰るのも困難だけれど、何より帰った後、母さんに何て言われるか・・・。
どちらかと言うと、そっちの方が断然恐ろしかったりする。



淡々と進む練習風景を見据えて、どうしようかと腕を組む。
いっそこのまま立ち往生して、誰か気付いてくれるまで待ってみようか?
それとも頑張って目を凝らして、見つけてみようか、三上さんを。

・・・・どちらとも、確率的に成功率はかなり低い。









「あー・・・もう、どうしよう・・・・・」






思いつく限りのすべき行動を、全て却下して。
途方に暮れて有希が膝を抱えてしゃがみ込んだ。

もう、このまま帰るしかないのだろうか。
そう、思ったとき。




前方のグラウンドから聞こえた、救いの声。





















「あっれー、小島サンだ。何々、どしたの?」



「ふ、藤代!?」





驚き半分喜び半分で、反射的にそう叫んで、有希が顔を上げる。
思った通り、そこにいた声の主は、にっこり笑顔の彼、藤代。





「そんなとこで何やってんのー?」



「あ。うん、実は・・・・」



「あ。もしかして、三上先輩?」





異様に勘の良い・・・いや、先日寮の住所を聞いた経緯を知っているのを考えれば当然なのだろう、
そんな藤代の言葉に、苦笑いを浮かべて有希は頷いた。
どこにいるかわかんなくて困ってるの。と呟いて。





「暗くなると、誰がどこにいるのかわかんないわね、やっぱり。
もっと早く来れば良かったわ・・・」



「しょーがないって。そっちだって部活あるんだし」



「それはそうなんだけど・・・・」



「結果、会えればいーじゃん!俺、今呼んで来るからちょっと待ってて」



「なんか・・・いつもごめん。それで、ありがと。藤代」



「いーって、いーって」






にっこりと、笑顔でそう言いながら手を振る藤代に、
済まなそうな笑顔を向けて、有希がありがとう、と再度もらす。
その言葉にすら、笑顔を向けて、くるりと藤代が三上を探すべく振りかえった瞬間。






















音もなく飛んで来た鋭く高速なボールが、彼の頭部に直撃した。



















一瞬の出来事が、まるでスローモーションのように流れ、
ゆっくりと、藤代の頭に当たったボールが綺麗な弧を描いて地面に落ちた。
瞬間の出来事で、何が起こったのかも正確に理解できず、ただ当たった衝撃で倒れ込んだ藤代を
同じく状況を把握できず呆然と見つめていた有希。
その視線の内で、弧を描いていたボールが地に落ちて転がり、ある人物の足元で止まった。




「いっっっっってえぇーーーー!!!!」




藤代の痛みの叫びが辺りに響いて、有希も正気に返る。
頭を抱えて痛そうにしゃがみ込む藤代の向こう、足元にボールの転がる。そう、奴がいる。




「練習サボって何やってんだよ、このボケが」


「三上さんっ!?」




冷淡にもそう言い捨てた人物・・三上を見て、有希が驚きの声を上げた。
その行動から察するに、先ほどのボールを蹴ったのはこの三上なのだろう。
動く人間の頭をしっかり狙って、しかもあのスピードで直撃させるのだから、
やはり実力は折り紙付き・・・・・・って、今問題にすべきはそこじゃなくて。





「藤代は別に悪くないわ!私が・・・頼み事したから・・・・」



「――ま、そんなこったろうな」



「・・・・・・へ?」



「痛いじゃないですか、三上先輩!!!
俺、せっかく小島さんのために三上先輩探そうとしてたのに!!」



「探す手間が省けて良かったじゃねーか。黙ってどっか行け」



「なんスかそれー!!!」



「行け」






有無を言わさぬ迫力で、食い下がる藤代をなんとか追い払って、三上がため息をつく。
すっかりカヤの外となっていた有希を振りかえり、もう1度ため息をついて、
少し居心地悪そうに視線を泳がせて、目を合わせた。





「―――よお」



「・・・・・・コンバンワ」



「どうしたんだよ」



「傘・・・・返そうと思って・・・・・」



「・・・だけか?」



「え?」





有希の言葉に、少し不満気に呟いた三上に、聞き返したわけじゃなく、
その言葉の意味を問うつもりで、有希が声を洩らす。

それに、別に。と一言言って、三上がまた視線をそらした。





「ご苦労なこったな。わざわざそのためにここまで来ることねえじゃねーか」



「――あ、それと・・・・。これも、渡したかったから」





紙袋に手を入れ、ゆっくりと取り出す。
傘と一緒に持ってきた、バレインタインの・・・・・チョコレート。






「今までのお礼も兼ねて。傘、本当にありがとうございました」





ぺこり、と頭を下げてそう言い、顔を上げて、紙袋ごとそれを渡す。
受け取った三上が、中身を確かめようと中のものを取りだし、
傘を眺め、チョコの入った袋を眺め。

・・・しばらくしてから、ぽん、とその片方を有希の手に返した。









「これ、いらね」



「・・・はい?」






怪訝な表情で疑いのまなざしを浮かべる有希を見て、にやり、と笑って、
三上が、もう片方を掲げて見せた。






「こっちだけでいいわ」


「え?あ。ちょっと!!それじゃ、私が来た意味がなくなるじゃない!!」






そう言って声を荒げる有希を見て、三上が、また楽しそうに笑った。





有希の手元にあるのは、ずっと借りていた傘。

三上の手のうちにあるのは、有希からの、チョコレート。







「いいから、お前が持ってろよ」




意味のわからない三上の行動に、異議を申したてる有希に、そう言って三上が宥める。
もちろん、部活終了後、急いでやって来た有希が、あっさりと引き下がるわけもなく。
半ば強引に傘を再び有希の手に握らせて、三上はくるりと有希に背を向けた。




「そのうち、取りに行ってやるから。それまで持ってろ」



「うちの場所・・・・知ってるの?」



「知るわけねーだろ」



「じゃ、また学校来る気?部活サボって」



「以外に何かあんのか?」



「どうせなら・・・・」





1度言いかけて、止めた有希の言葉に、
そのまま練習に戻ろうとしていた三上が、もう1度振りかえった。





「・・・・部活、休みの日。会いません?」






























本日の目的は、傘の返却及びお礼の配達。

目的は、半分しか達成されていない。しかも、肝心なものは達成出来ず。




それなのに、こんなに嬉しいのは何でだろう?




貴方に返す傘は、未だ私の腕の中。

受け取ってもらえたのは、お礼のはずのお菓子の包みだけ。





ちゃんと返せるまで、私は何度も足を運んで。

その度に持って帰れといわれるような気がするのは何でだろう?

それはきっと、貴方に受け取る気がないんだってこと、少し気付いてるから。










傘の繋ぐ奇妙な関係。


君に返すまで続くのなら、もう少し持ってても・・・いいかな?






FIN.


どこらへんがバレンタインなのか、誰か教えてください!(知るかよ)
あーっはっはっは!情熱が暴走中☆(死)
有希嬢が(他の奴らが相手のときと)別人のようです。なんででしょう(笑)
いや、実際別人なんだけどさ(笑)

しかも今回の長いですねー・・・・。前振りが(死)
藤代が出てる部分のが、三上より長いんでないだろうか?(ダメじゃん)
マジで藤代、烈火並に使いやすいよ(誉めてるのか?)

えー・・・・なんだか今回、有希三上色がいつもより低かったように思います。
・・・ダメじゃん(笑)
やっぱり基本形態は変えられないのかなぁ・・・。
・・・愛される有希嬢が好きだから、しゃーないのかな?(爆)

つーわけで。バレンタイン投票2位の三上先輩と有希ちゃんのバレンタインでした。
・・・バレンタインじゃないよねー・・・やっぱりさー・・・・(死)


モドル