ティーコール |
その日、小島有希は(また)誰の目からもわかるほどに悩んでいた。 先日のあの一件がある辺り、下手に心配も出来ないのだが、 それでもやはり悩み方は尋常ではなく、部活中も授業中も思い出してはため息ばかり。 部員の間からも、やはり疑問と不安の声は聞こえ、部長として水野もまた心配していた。 もしかしたら、今度こそ大変なことがあったのかもしれない。 水野竜也は考えた。 それならば、やはり悩みは人に話したほうが気も楽になるし、解決法も見出せる。 そんなわけで、水野はまた、部活終了後の部室に遅くまで残っていた。 とりあえず、有希と二人になれるタイミングといえば、そこしかなかったので。 そして今日も部活は終了。部室に邪魔者は無し。 水野はまた、机に向かって部日誌をつけ、そしてどこか暗い有希に向かって意を決して声をかけた。 「小島・・・・。(今度こそ)何か、あったのか」 「・・・・・・」 水野の問いかけに、ワンテンポ遅れて有希は反応し――たはしたが、 別段声を上げるわけでなく、じろりと水野を睨む形で反応した。 ・・・ああ、この間、本気の悩みを『そんなこと』扱いしたのを怒ってるんだな。 そんなことを思いだし、水野は両手を降参の形に上げて謝罪した。 「あの時は悪かったって。今度こそまともに考えるから、話してみろよ」 「・・・・本当でしょうね」 「当たり前だろ」 自信たっぷりに答える水野に、やっと有希も気を許したのか、 軽く息をついて、また、静かに声を紡いだ。 「最近、やけに体がだるい・・・・・・っていうか、すぐにバテちゃって。 家に帰ったら、すぐに寝ちゃうのよ。 部活してるときはそうでもないんだけど、授業中とかは全然ダメで・・・・・・。 やけに眠いのよね、ここ最近。寝不足なわけでもないのに・・・・・・」 「それで?」 「それで、夜家で勉強できないもんだから、予習できなくて困ってるの。 睡眠時間は足りてるわけだから、余計に寝過ぎないようにしたいのよ。 つまり、もう少し遅くまで起きてられるようにしたいわけ。 ・・・・・でも、なかなか・・・・・・・ね」 「まあ・・・・あんだけ練習してれば、睡魔にも負けるだろうな」 「そういうこと。でも、それじゃダメなのよ・・・・・」 はあ、と重いため息をついて、有希が頬杖をついた。 こうして話している今も、もしかしたら体がダルかったりしているのだろうか。 もしそうなら、かなりの重症だ。水野は思った。 「・・・・・眠くなったら、顔洗うとかは」 「試した。でもねー・・・・・・」 「勉強の合間に体操してみる」 「柔軟しようと思ってベッドに横になった途端寝ちゃったのよ、この前」 「・・・・・・・・」 思いつく事は、全て実践済み。 やはり常人が思いつく程度の事は、誰でも思いつく事なのだろうか。 二人してうんうんと悩んでいたとき、この平穏をも乱す声は、のうのうと部室に降り注いだ。 「そういうときは茶を飲むと良い」 「不破!?」 「不破・・・・・・!」 おまえもか、おまえもかブルータス!(違) 絶妙のタイミングで出てきた不破に、水野は机の下で小さくこぶしを握った。 この前のシゲと言い、おまえらこの部屋に盗聴機でも仕込んでるのか!? ・・・というか、部室前に張り込んでるんだな。 ていうか、今でもシゲか風祭あたりいるんだろう、絶対。 覗いて見るつもりはさらさらないが、そんな予想が安易に立ってしまう辺り恐ろしい。 しかも当たってたら怖いので、覗くつもりがないというより、覗いて見るのが怖いのだ。 そんな事はともかくとして、どかどかと割り込んだ不破の言葉に、有希の心はすでに傾いていた。 「お茶って?麦茶とかでいいの?」 「いや、紅茶だ」 「紅茶?・・・・飲んでるけど、あんまり効いてないみたいよ」 「紅茶は多種類あるからな、種類によって効能が違う。 リラックス効果があるものもある。小島が飲んでいるのは、その類なのだろう。 睡魔を払いたいのであれば、その効能にあったものを選んで飲むと良い」 「ふーん・・・・・・・」 「とは言っても、一人では探すのも苦労する。 小島はそう紅茶に詳しいわけでもなさそうだからな。 予定が合うのであれば、俺が一緒に探しても良いのだが・・・・・」 「じゃ、日曜日。試合も練習もなかったじゃない?」 「決まりだな」 スムーズにまとまった会話に、しっかり取り残されている水野。 待ち合わせの時間や場所を決めながら、部室を後にする有希に言われたありがとうの言葉が、 彼の耳に届いているのかは定かではないが、とりあえず有希の悩みは解消したようだった。 眠れぬ夜も眠れる夜も。全て紅茶におまかせを。 FIN. 紅茶にどれだけの効能があるのか私は知らん。 |