いつも彼女は素敵に無敵。
でも、今日は何だかご機嫌ナナメ。








ステキニムテキ








「今日はまた、えらい厳しいなー」


未だ治らぬ腕を暑そうに団扇で扇ぎながら、
シゲは視線の先の姫君についてポツリと言葉をもらした。


「朝からずっとあんなだぜ」

「ずっと眉間にシワ寄せてたんか?固定されたらどうすんねんな・・・」


部活の輪から少し離れたところに座るケガ組。
シゲと高井は、言葉通り不機嫌のご様子の姫に対し、はぁ、とため息をついた。


不機嫌さが顔からにじみ出ている有希は、先程からずっと怒鳴りっぱなし。
さすがに女子部の指導では怒鳴りはしないが、それが男子相手になると話は別。
小さなミスも、普段より100倍辛口なダメ出しで返って来る。
あぁ、本日傷心で帰路に着く人間は一体何人居るんだろう。
そんな思考がふと脳裏をかすめたが、我が身のためにとっとと忘れることにした。

また視線を有希に戻してみれば、やはりというかなんというか。
眉間にシワを寄せて、今はサン太に集中攻撃中。


――サン太、迷わず成仏しろや。








「なんかね。昨日の試合で
小島さんのお兄さんが早いうちに交代させられちゃったんだって・・・」


所変わってこちらは有希の声が響くグラウンド側。
今日の彼女は一体どうした!?という部員全員の疑問に、
さらりと風祭が答えを返したところだった。


「それであの不機嫌さ・・・」

「迷惑なものだな」


はぁ・・・とため息のこぼれる水野、不破を慰めるように、
風祭が必死でフォローを試みるのだが、あえなく失敗。というか中断。




「ちょっとそこ!何遊んでるのよ!!」


という有希の声に、水野、風祭は反射的にポジションへ戻っていった。










今日の彼女はいつにも増して無敵。
さぁ、如何なもんでしょう?









「ほっとく」

「慰める」

「別のもので気を紛らせる」




ホワイトボードに書かれた3つの意見に、部員達はうーんと首を捻った。


部活終了後、サッカー部員は(女子部に内緒で)話し合いの場を設けていたのだ。
今日1日は何とか乗り切ったが、明日機嫌が直っているとは限らない。
まして、この危機はいつ訪れるやもわからないのだ!

中には今日1日も乗りきれなかった屍が何体かあったりするのだが、
きっと彼らも明日・・・明後日には回復してくれるだろう。多分(弱気)




「慰める・・・・は逆効果だろ」


高井の言葉に、部員全員はソッコーで首を縦に振った。

下手に慰めようものなら、余計なお世話だと言わんばかりに
グラウンド10周をプレゼントされてしまいそうだ。



「別のもの・・って言ってもなぁ・・・」


高井の横で、森長が腕をくみつつそう言う。

確かにその通り。
有希にとっての1番はやはりサッカー。そして今回の原因もサッカー。
下手にPKに誘なり、ミニゲームに誘うなりすれば、事態が悪化する恐れもある。
そんな危険なことは、出来るはずも無い。



「――ってことは」








ほっとく。







残されたホワイトボードの文字を見て、部員達の心は1つになった。






――何も問題解決にもなりゃしない。






輪の中の悲しげなムードに、
残された最後の言葉も程なくして消されていった。









翌日。
憂鬱な部員達を迎えたのは、姫君の満面の笑みだったそうな。



「――何でや・・・・」

「昨日の今日だろ・・・!?」

「ナントカは秋の空・・・とは言ったものだな」


呆気に取られる男3人の後ろでは、
同じく不思議そうな部員達に風祭が状況説明を行っているところだった。
「昨日の試合で、小島さんのお兄さんが活躍して、インタビューされたんだって・・・」と。


苦い笑みを浮かべる部員達を尻目に、有希は相変わらず嬉しそうで。
「何やってんのー?練習するんでしょー?」
と鈴のような声でのたもうたそうな。



そんなこんなで桜上水サッカー部に平和は戻った・・・かもしれない。
まあ屍達は全員無事に復帰しているのだから良ししよう。








そして彼女は、今日も元気に素敵に無敵。






FIN.





うちの桜上水はこんな感じです(笑)
最強有希嬢。それに絶対敵わぬ男子部員達(おい)
その中で、唯一有希嬢に可愛がられるは風祭。―――て、おい。
本命カップリングどこ行った、私(死)



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