[[[ 救い ]]]

 

 

私が今まで

あなたのそばにいて

何かひとつでも

できたのならば

 

 

 

 

「どうかしたのか?」 

雨の振り続く外を見つめながら、一向に動かぬ風子に水鏡が声をかける。

毎週やってくる日曜日。
水鏡の家におしかけるのが、風子の主な休日の過ごし方だった。

特に何をすると言う訳でもない。
ただ一緒にいるだけで満足だった。
特に雨の日ともなると、何処にも出かけず、ただ部屋でぼんやりと過ごす事が多かった。
それでも、ただ片隅に存在していられることが嬉しかった。

久々に降った雨に、今日は部屋でそれぞれ思い思いの事をする。
水鏡は本から目をそらさず、風子は窓際から動かない。

そのことが水鏡にとって疑問だった。

いつもなら暇を持て余す風子から、「退屈だ」という声を聞いてもおかしくない時間帯。
しかし、今日に至っては何も言わず、そして何もしない。
何かにとりつかれたかのように呆然と外を眺めている。

 

「さっきから少しも動かな・・・」

「ねえ、みーちゃん」



一言目に何の反応も示さない風子にかけた二言目は、
突然口を開いた風子の言葉に遮られた。


「あたしが今まで」


初めは視線を移さず。


「みーちゃんと一緒にいて」


次はゆっくり下を向いて。


「何か、してあげられた事。ある?」


途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

こちらを見ようとしない風子の目は、
哀しげな光を放って、空ろにさ迷う。
行き場を失った視線は、ただ宙を泳ぐ。



「どうか・・・したのか?」


初めと同じセリフを、今度は控えめに言ってみる。

何かがあったことは、今までの行動からも読み取れる。
ただ、それに触れて良いのか聞いても良いものなのかがわからない。
そんな複雑な念からか、言葉が上手く出てこない。

そんな水鏡を見つめながら、風子が少し笑う。



「あたしって、誰かに助けられてばっかりだなって・・思ってさ」


そう言う風子は、やはり暗い。
浮かべる笑顔も、少しも笑ってはいなかった。
ただ、表情をそのカタチに止めているだけ。
哀しすぎる、その表情。

失ったものは大きくて。
自分の不甲斐なさを思い知らされた。

自分のために・・、自分の所為で。
1つのモノが終わりを告げた。
その事実が重く、自分に圧し掛かる。



いつでも助けられてばかりいたような気がした。

 

自分自身で何が出来たのだろう。
自分一人で何が出来るのだろう。

途切れる事なく、繰り返される。

だんだんと姿を消して行く、いつもの自分。
それに反比例して増えて行くマイナス思考の自分。


そんな自分が、とても嫌だった。

 


一層強くなった雨音が、気分も暗くしていく。
塞ぎ込むのも、きっと無理の無い事。
それでもいつもの風子であって欲しいと望むのは、いけないことなのだろうか。
そんな思考が水鏡の頭を過る。

ふと風子を見ると、先程の質問の答えを待ち望んでいるかのように水鏡をただ見つめている。
そんな風子の様子を察し、水鏡は少し悩んで、口を開いた。

 

「僕がお前と一緒にいて」


風子を真っ直ぐと見ながら。


「僕は独りではなくなった」


しっかりとした声で言う。


「・・・それだけで十分だ」


そして優しく、呟いた。

 

 

その言葉を聞いて、風子は複雑な笑みを浮かべる。

 

自分が助けられてばかりではないと事を教えてくれたその言葉に、
また自分が救われた事が、なんとなくすっきりしないけど、
それでも、自分が人の役に立てている事がやはり嬉しくて、
自然と笑みが零れていた。

目が合う、そして笑い合う。
そして、ゆっくりと口を開く。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

私が今まで

あなたと共に生きて

何かひとつでも

できたのなら・・・

 

 

 

モドル