いちばんぼし
「うーわ、真っ暗じゃない」 「この季節となると、午後7時とは言えこの程度だろうな」 「もう冬なのねー」 部室から出るなり、思った以上の空の黒の深さに驚いた有希が声を上げた。 それに対して淡々と答える不破の言葉を受けて、そんなことを呟いて、 すっかり冷えた両手を暖めるように、はあと息を吹きかけた。 吐く息が、濃い白をしていた。 「・・・・・寒いわね」 白く浮かんだ息が消えたのを見てから、ぽつりと有希が呟いた。 「なんてゆーかこう・・・・・・空気がぴーんと張り詰めてる感じ」 「静かだからだろう」 「そうかもね。足音がすごくよく響くもの」 「冬だからな」 「冬か・・・・・・」 また有希が深く息を吐く。会話が、そこで途切れた。 かつんかつんと響く足音がやけに心地よくて、聞きなれているはずなのに新鮮だった。 足元を照らすのは、点々と置かれている街頭だけ。 となると、それが途切れる場所は暗くなるもの。 電柱をまた1つ通りすぎて、辺りに闇が降りた時、 ふと見上げた空を凝視して、突然有希が立ち止まった。 「・・・・・・・・小島?」 「見て」 「?」 「空!」 「・・・・・・?」 単語で区切られた、非常に簡潔で分かり難い言葉に、表情では怪訝を示しつつも、 不破が言われた通りに、有希と同じように顔を上げる。 そこに広がるのは、すっかり日の暮れた真っ暗な空。 でも、点々と輝く星の散りばめられた、煌く空。 「空気が冷たいせいかしらね。 冬って、他の季節よりも星がきれいに見えると思わない?」 「そうか?」 「そうなのよ!見つめてると段々、星の数も増えてくし」 「目が慣れてくるからな」 「今、すごく綺麗よ、空。星がいっぱい」 「俺にはよく見えん」 「ずーっと見てたら見えるわよ。 ――ほら、あれとか、大きいから不破にも見えてるんじゃない?」 「ああ、あれは見えている」 見知らぬ人が後ろから歩いているのにも気付かないくらい熱心に 空を指差して、あの星がどうだこの星がどうだと語り合う事数分。 自分達を追い越した見知らぬ誰かが、不思議そうに振りかえり彼女達を見ていた。 そのことが恥ずかしくも可笑しくて、顔を見合わせて笑った。 「ああ、そっか。 冬って、知ってる星座が多い分、空見てるのも楽しいんだわ」 「例えば何だ」 「オリオン座」 「他には」 「・・・・・・・・・・家帰って調べたら、きっと知ってるやつももうちょっと出てくるわよ」 たくさん知っていたはずなのに、いざというときには出てこない。 そのことが悔しいのか、意地を張るような口調で有希が言った。 そしてまた歩き出す。 「――――あ、また見つけた。大きな星」 「さっきと同じものではないのか?」 「わかんないわよそんなこと。 全部同じように見えるし、全部違うようにも見えるもの」 「星はそう早くは動かんが」 「私が動いてるから意味無いの。あ、ほらまたあそこにも―――」 そう言って、有希が空を指差した。 つられるように不破も空を見上げる。 見上げた先の星は、確かに大きい。 けれど―――それは星というにはあまりにも不自然で。 「・・・・・・・・・・動いたわね」 「速い動きだったな」 「しかも周りで赤いランプが光ってた」 「そうだな」 「・・・・・・・・・・・・・・珍しい星もあるもんねー」 「というか、あれは飛行機であるから星ではないな」 「わかってるわよそんなこと!」 そう声を荒げて言って、また有希が笑った。 冬の夜。 いつもより多い星を、見上げながら帰ろう。 FIN. 不破有希です。3333HITゲッターの涼月しゃんに贈る(いつのやねん)(死) |