学校全体がいつもより少し慌しい。
だって、今日は。卒業式。
[[[ 明日 ]]]
3年間なんてあっという間に過ぎてしまうから、それ以上に2年なんて早くて。
君に会ってからの2年は、矢のように過ぎていった。
あっという間だった、2年間。
明日から君は、この学校にいないんだね。
だけど不思議と、哀しいなんて気持ちはなくて。
つまらない、眠い卒業式が終わっても。
やっぱり、寂しいとも思わなかった。
退屈な式の後は、卒業生達が思い出作りに励む時間。
体育館を出たすぐのところは、写真を撮ったり話をしたりする先輩達で溢れていた。
目に涙の浮かぶ人、満面の笑顔を浮かべている人。
友達とふざけあう人、勇気を振り絞って気持ちを伝えようとする人。
皆が皆、十人十色の様子を見せて、つまり要約すると、ものすごく賑やかで。
だからこそ、そんな中で1人でいるであろう君を見つけるのは、
思った以上に簡単だった。
「ほんっと寂しい奴だねー。別れを惜しむ友達とかいないの?」
賑やかで鮠かな場所からは遠く離れた場所から、騒ぐ人間を傍観するようにしていた水鏡の姿を発見するなり、
風子は茶化すようにそう言った。
そんな風子の言葉に、水鏡は何を今更とでも言うように、うっすらと笑った。
「みーちゃんも卒業かー・・・。変な気分」
水鏡がもたれかかっていた校舎の壁に、並んでよりかかる。
そして、昔を振りかえるような口調で、風子が言った。
「明日から、みーちゃんはここにいないんだよね」
だからどう、ってわけでもないんだけど。
笑いながら言って、すっと上を向く。
「寂しくなるね」
呟いて、上に向けていた顔を、下に向けた。
少しだけ沈黙が訪れて、2人が、口をつぐんだ。
回りの騒がしさで、やけに静けさが映えた。
そして、数十秒黙った後で、水鏡が小さく笑って、言った。
「そういうことは、そういう表情をして言うんだな」
「・・・・・やっぱりわかる?」
そう言って、下に向けていた顔を上げて、にこりと笑う。
その表情には、哀しさの欠片も、寂しさを押し殺す様子も、伺えなかった。
「だってさ。学校にいないって言っても、会おうと思えばすぐに会いに行けるしさ」
「用もないのに、勝手におしかけてくるからな。お前は」
「まあね。だから、あんまり寂しいとかいう気持ち、ないんだよ」
本当。あっけないよね。
そう言ってまた、笑った。
「でもまあ。みーちゃんもいちよう卒業したんだし」
もたれかかっていた壁から背中を離して。
水鏡に向かい合うような形になって、風子がぺこりと頭を下げた。
「卒業おめでとう」
簡潔であっさりとした言葉を言って、顔を上げる。
「今までありがとう」
少し、照れたような表情を示して、更に続ける。
「もう学校では会えないから。さよなら」
でも。
小さくそう呟いて、そして、笑顔を増して、最後に一言。
「―――また、明日」
そう言ってまた、風子が笑った。
用がなくても、会いに行くから。多分今より、いっぱい行くから。
覚悟しててね。と、冗談混じりに言いながら。
明日から君のいないこの学校。
でも、哀しくないし寂しくない。会いたいときには会いに行くから。
だから今は、別れよりもお祝いをしよう。
おめでとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
また、明日。
FIN.
全ての、今年度卒業なさった皆様へ。
おめでとうございます。
1つのものを終えて、次へ行く人達へ。
本当に、おめでとう。
次の道は。決して作られてはいなくて。今から貴方が作るもので。
だからこそ可能性は未知数で。その道を通って、どこへでも行けるから。
どうせなら、笑顔でいられる道を作ってください。
その道を通る事を決して後悔しないで。後悔したら、そこから方向転換して。
そして、また新しい道を作り始めてください。
道は出来ているのではなくて、今から作るのです。
悔やんでも悩んでも迷っても。貴方が作るのです。
だからこそ、辿り着く場所が。貴方の望むものでありますように。
全ての。先へ行く皆様へ。新しい事を始める人達へ。進み続けている人達へ。
stmimi
モドル