「ねえ陽炎・・・。
 今あたし・・、どんな顔してる?」


日曜日。
よく晴れた、暖かな日。
久しぶりに皆で訪れた火影屋敷で、
風子が、静かにそう呟いた。









[[[
いつもいつでも ]]]










「・・・・え?」


よく聞き取れなかったのか、陽炎が不思議そうに聞き返す。
それには答えずに、風子は言葉を続けた。


「柳はいいね・・・・。」

そう言って、頬杖をついて、庭で遊ぶ奴らに目を向ける。


「いっつも、楽しそうでさ・・・。
 いつでも、誰かが隣に居て。周りに誰か居て・・・さ」



なんか、悔しいよね・・・・・・




嘆くようにそう呟いて、風子が視線を完全に落とす。


最初から、こんな気持ちがあったわけじゃない。
もちろん、今でも友達だって思うし。嫌いなわけじゃない。

でも、なんか悔しくて。
時々、悲しくなって。
なんだか、すごく羨ましくて。
最終的に、妬んでた。



何かを失ったわけじゃないのに、なんだろう、この疎外感。
いつでも一緒にいるじゃない。じゃあ、なんで寂しいの?


繰り返される、自問。
でも、答えはなかなか・・・・今でも出ていない。




少しづつ陰り始めた部屋に、少しだけ重い空気が流れる。
何が悪いわけじゃない。・・・だから、余計に悩むのだ。
そういった気持ちが、痛いくらいに陽炎に伝わる。



「貴方は・・、前ばかり見ているから。周りが見えていないのね」


「・・・へ?」



唐突に、そう呟いた陽炎に、今度は自分が間抜けな声を上げる。
それに反応して、陽炎が少しだけ微笑む。


「前を見て生きる事はいいことよ。
 でもね、時には周りも見つめて、足元も見ないと。
 身近な幸せに、気付けないでしょう?」


「身近な・・・・幸せ?」



そう、幸せ。


そう言ってまた微笑む陽炎に、風子は疑問符を掲げて見せた。




幸せ・・ねえ・・・・・


少し悩んだフリをして見せても、やはり、何が言いたいのかはわからなかった。

そうこうしてる間に、陽は完全に姿を隠して、
あたりが真っ黒に染まった。
『もう帰ったほうがいい』
そう言う陽炎に見送られて、私達はそこを後にした。




今日もまた、いつものように、柳達が先を歩く。
その後ろを、私が歩く。
柳も烈火も、土門も小金井も・・・・。
楽しそうに笑うんだね。


前を向くのが嫌になって、少しだけ俯く。
道路の暗い色しか見えなくなって、方向がいまいち掴めていなかった。
フラフラとしていると、とんっと肩に何かがぶつかる。


「ぼさっとしてると、頭をぶつけるぞ」



ぶつかったものを一目見ようと顔を上げると、
嫌味にそう言う水鏡と目が合った。

ぶつかった、肩。
それほどまでに距離は近くて・・・・。
でも、気付かなかった。
怖いくらいに違和感がなくて、居る事が普通で、
私は、気付いてなかった。


当たり前のように、横を歩く水鏡に、
少しだけ、気付かれないように笑って見せる。




・・・・そっか、そうなんだ



少し、陽炎の言葉の意味が、わかったような気がした。


「・・・風子?」

少しだけ下を向いて、一向に顔を上げない風子に、水鏡が声をかける。
それを聞かないフリをして、風子が、また少し笑う。






前ばかりを見てはいないで、



「風子?」



時々、少しだけ横を向いて、



「どうかしたのか?」



隣の誰かを、



「・・・風子?」





貴方を確かめて。




「ううん。・・・・・なんでもないよ」


そう言って自分だけがわかるくらいの笑い声を上げた。


前を向いて、目に映るのは、
楽しそうに笑う、柳や烈火達。
いつでも私は前を見て・・・・。
そして、隣は見なかった。

いつでも居てくれたのに、
私は、気付いてなかったんだ。



「ね、みーちゃん・・」


下を向いて、小さく風子は呟く。
その言葉に反応して、こちらを向く貴方を感じて、
顔を上げる。 笑う。



「ありがとう、いつも。・・・・ありがとう」





羨ましかったよ、妬ましかったよ。
いつでも、周りに誰か居るあんたが。
嫌いだったよ、大嫌いだった。
そんな風に、妬んでる自分が。

でも、私は独りじゃない。
もちろん、一人でもない。
いつでも、隣には誰か居て・・・。
あんたと、変わらなかったんだ。



何も聞かされぬまま、ただ礼だけを言われて、わけのわからぬ水鏡。
それでも何も言わずに、ただそっと、風子の頭に手をやった。





嫌いな自分は、もうきっと出てこない。
誰も、嫌いにならないよ、もう。
私はひとりじゃない。
そう、教えてくれたから。

いつもいつでも、隣に居て。
いつもいつでも、傍に居て。



ありがとう。そう言うべき人がいるから。








FIN.





モドル