時に言いようがないくらい不安になる。
苦しくて、切なくて。言葉にできないの。
[[[ 線 ]]]
薄暗い道に、人の気配は無い。私と、前を歩むもう1人意外に。
いくら日が長くなったとは言え、
時計の示す時間は、帰宅のラッシュを当に超えている。
もとから人通りの多くないここは、風だけが通り過ぎて、なんだか寂しかった。
沈黙が降りている。
学校を後にしてから、もうずっと。
いつも、話しているのは私ばかりで、貴方はたまに返事を返すのみ。
だから、私が口を開かなければ、言葉を交わすことなどほとんどない。
その沈黙は嫌いではないけれど。今日は、苦しいだけだった。
苦しくて苦しくて。哀しいくらい切なくて。不安になる。
きっかけはささないこと。ちょっとした行動や言葉。
大した事じゃないはずなのに、それは時として、恐ろしいほどの不安を運ぶ。
なんでだろう。いつもと、変わらないのに。
それは自分でも不思議で、答えなんてわからない。
胸を締め付けるような不安も、数日立てば、気付かぬうちに消えている。
数日・・・早ければ翌日には、綺麗さっぱりとなくなってしまうのだ。
だから今だけ。そう、今だけ。
下手に口を開けば、勝手な恨み言を言ってしまう。
だから、無言を貫く。
嫌な言葉を発するかもしれない口なんて、今日は封印するんだ。
―――そう、思っているのに。
気持ちは、そこまで単純じゃなかった。
おさえてもおさえても、あふれ出てくる。
ピタ。
歩む足を止めると、瞬時に対応できなかった貴方が、
数歩先で立ち止まり、振り向く。
「線があるんだ」
何か言いたそうな貴方に。
言葉を挟むヒマを与えずに、続ける。
「線があるの」
それに触れることはできないけれど。
「砂に書いた線だったり、細い糸だったり」
そんなものなら、簡単に踏み越えるのに。
「時々、鎖になったり。気付いたら壁になってたり」
いつもなら、それすら壊して、傍に行くのに。
今日は、何でだろう。何か違うの。壊すんじゃなくて。
――あぁ、そうか。
壊して欲しかったんだ。
言い終わって、また、しばしの沈黙。
そして初めて、後悔の二文字が頭を過った。
言葉が続かない。笑い飛ばせる雰囲気なんかじゃないし。
本当・・馬鹿だな・・・。
ごめん、気にしないで。
少し間を置いて、無理のありすぎる言葉を呟き、歩き出す。
今日だけのこの不安を、押しつけたことを後悔して。また、会話は交え得ないまま。
今日だけなのに。今日だけだけど。
それでもやっぱり、苦しかったんだ。
「お前が・・・何を言いたいかはわからんが・・・」
家まであと少し。
そんな時に、ふと後ろにいた貴方が呟いた。
「僕にはそんなもの、見えないぞ」
線なんて、見えない。
それは当たり前のこと。
目に映るはずのないものだから。
でも、
「・・・・・・・そう」
ニンゲン。って、結構単純なモノだから。
「・・・・・・そっか」
当たり前の言葉が、嬉しかったり、するんだ。
「そっか」
線が、ある。
でも。
線なんて、見えない。
FIN.
モドル