今年の梅雨は、そんなにたくさんの雨も降らなくて、
梅雨入り宣言も、梅雨明け宣言も、聞かなかったような気がする。
気がつくと、太陽がさんさんと照りつけていて、あぁ、夏だな。って思ってたんですが。
どうして、今日はこんなお天気なんでしょう?
窓から見えるどこかの誰かの家に、昨日まで飾ってあった笹飾りは、今日はもう外してしまっている。
そりゃそうよね、どしゃぶりの雨だもの。
下手に窓枠にでもひっかけてたら、せっかく書いた短冊が濡れてしまう。
きっと、ここからは見えないけど、部屋の中にでも飾ってあるんだろう。
そんなことを思いながら、すでに生徒が帰ってしまった教室で、
一人、有希はぼんやりと外を眺めていた。
明日は七夕だと言うのに、この天気は何だろう。
定規を使って無造作に何本も縦の線を引いたような雨模様に、思わずため息をつきたくなる。
昨日は確かに晴れてたのに、この雨雲はいつの間にここまで流れてきたんだろう。
せめて、あと2日。遅く流れてきてくれたら、文句なんか言わなかったのに。
「何やってんのん?」
「ぼーーっとしてんのよ」
後ろからの突然の質問に、慌てもせずに答えたら、相手はさも残念そうな顔をした。
御生憎様。実は教室に入ろうとしてた時から気付いてたのよ。
「で、あんたは何してんの?」
「一人で寂しそうやったから、景気付けに驚かしたろー思たんや」
「・・・余計なお世話だわ」
憂鬱に呟いて、あくまで楽しそうなシゲから視線を外す。
窓の外は、やっぱり雨だった。
「――で、ホンマに何してたん?今日は部活休みやで」
「知ってる」
「あ、カサないんか?」
「持ってる」
「・・・なんやねんな」
全くわからない。といった風に、がしがしと髪を乱すシゲを尻目に、
やはり外を見つめて、有希はため息をついた。
「明日・・・七夕なのに・・・・」
ぽつりと呟いた言葉に、シゲはおぉ。といった感じに、ぽん。と手を叩く。
そして有希の隣に移動し、言った。
「こう雨が続いとったら、天の川も増水して、会われへんやろなー。織姫も彦星も」
エエ。私が言いたかったのはソレなんですケドね。
「あんたの口からそんな言葉が出るとは思ってなかったわ」
「俺、ロマンチストやからなー」
「バカ・・・」
またため息をついて、今度は頬杖もついて、また外を見つめた。
会えないんですか?せっかくの七夕なのに。
天の川って、増水とかあるのか知らないけど。
空と一緒に暗くなる気分で、部活がないのは知っていても、なんだか帰る気になれなかった。
教室で一人でいても、晴れる気分じゃなかったけど・・・。
「まぁ、俺やったら・・・・」
「・・・何?」
しばし流れた沈黙を破るように、話し出したシゲに、声を返す。
その言葉に反応したように、ちらりと有希を見てから、続きを言う。
「俺やったら、泳いででも、会いに行くけどな」
阻むのは、水を含みすぎた天の川。
ねぇ、例えば橋が壊れてしまったら。
・・・泳いで渡っちゃうの?
「――水牛でも通れないような、増水した川を?」
「そーや、根性で泳ぎきる」
「・・・大した根性ね」
しばらくの放心状態から抜け出し、やっと言った言葉もあっさり肯定され、
なんだか呆れが出てきた。
いつもいつも、やっぱり今も。笑ってるから。
どこまで本気なのか、わからないけど。
でも。
喜ぶだろうな。織姫は。
「――泳ぎきったあと、きっとくたくたでムードも何もないんでしょうね」
「そこは愛嬌でカバーや」
「・・・誤魔化してどーすんのよ」
しばらくそんなバカ話に花を咲かせて、2人で笑っていた。
ふと、話が途切れたとき、シゲが一言。
「・・・・晴れるで、明日」
窓の外は大雨。それも踏まえて、そんなこと言ってるんだろうか。
いつも笑ってて、どこまで本気かわかんないけど。
でも、そんな気がしてきた。
「・・・じゃ、大丈夫ね」
きっと明日は晴れるでしょう。
織姫も彦星も、きっと会えるんだ。
・・・泳いで渡る、心配もないよね。
「さーてと、帰ろうかなー・・」
「送るか?」
「いーよ。別に」
「そーか?――あ、そーいえばな。明後日俺誕生日やねんで」
「そうなの?」
「そや。なんや祝ってや」
「・・・考えとく」
「――期待してるわ」
FIN.
企画・書き上げ・展示・・・すべて今日(死)
小説内の日付は7月6日。うーん、微妙にずれたね(笑)
最後の台詞ばっかの部分は、ささやかながらシゲさんの誕生日祝い(死)
7月8日。私と1日違い(笑)
ちなみに、不破有希サイドの世界とは、まったくの別物です。
違う世界だと思ってくださいませ。有希ちゃんフタマタとかやだしな・・(撲殺)
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