さくら さくら
弥生の空は 見渡す限り
霞か雲か 匂いぞ出
いざや いざや 見に行かん
[[[ さくらさくら ]]]
「また寒いよね〜。最近さ」
屋上の冷たい風に吹かれて、鬱陶しそうに風子が言う。
一度は暖かくなり、春の兆しが見えたかと思ったが、
数日の間に、また風が冷たくなった。
強い風に吹かれて、葉を揺らし、落とす木々。
まだ茶色の、枯れた葉。
山は少し暗く染まり、まだ緑とは言えない。
あと少し、まだ寒くなれば、それは白に染まるだろうが。
冬は、嫌いではない。
なんとなく、寂しい気がしないでもないが。
「こんなに寒くてもさ、どっかはもう桜が咲いてるんだって」
「そうか」
素っ気なく返される返事に、呆れ気味に息を吐いて、揺れる木々にまた視線を移す。
それは桜ではないけれど、春にはきっと、花をつけるだろう。
南から、徐々に広がる色。
桜がつける、薄いピンク。他の鮮やかな花々の色。
ゆっくり過ぎるそれの歩みに、少しもどかしい感じがする。
「ずるいよねー。暖かいトコは、もう見れるなんてさ」
羨ましげに呟いて、フェンスにもたれかかる。
「桜が見たいのか?」
「桜だけ・・ってわけじゃないけど」
やっとまともに言葉を返した水鏡に、
歯切れ悪くそう言って、風を除けて壁にもたれる。
春が欲しい。
だから、花が欲しい。桜が見たい。
少し違うような気がしないでもないけど、そう思う。
まとまらない思考に、少し難しい顔をする風子に、
少し悩んで、水鏡が言う。
「桜も・・・他の花も。
美しく咲くために、じっと時期を待ってる」
「・・・・・?」
首を傾げる風子に、少し笑んで続ける。
「そう・・・急かしてやるな」
「・・・・・うん」
さくらさくら。
美しく咲くために。今はじっと眠りつづける。
あと少し、暖かくなったら。
色づいて、美しくに染まる。
あと少し、もう少し暖かくなったら。
春が来ます。
モドル