:: 風の坂道 ::






何がきっかけかなんて覚えていない。
ただ、久しぶりに並んで歩いて、どちらかが言い出してどちらかが賛成した。
それ以上の理由なんていらない。
私達は、懐かしい場所を訪れた。







「変わってないねえ」



夕日に染まる空をバックに、ぽつり風子が呟いた。

遠い過去、毎日通った学校。
校門近くの時計は、いつでも数分ずれていた。
朝は賑やかな学校。けれど夕方は少し寂しい学校。
大好きで、けれど苦い。小学校。



「鍵、開いてるか」

「うんにゃ、しっかり閉まってる」

「・・・・しゃーねえ、あれ行くか」

「はいよ」



時々忍び込んだ、夜の学校。
忘れ物したときや。夏は肝試しに。
幽霊の類が見えるどうこうの前に、見回りの先生を出し抜くのが楽しかった。
大事な、楽しい、明るい思い出。



「理科室の・・・・・左から2つめだっけか?」

「ハズレ。右から2つめ」

「直してないといいけどな」

「直してるわけないじゃん。
私らがここに来てた時点で、5年もほったらかしだったんだし」

「だといいけどなー・・・・・・っと」



言いながら、烈火が音を極力立てないように、ゆっくりと窓を横に滑らせる。
理科室の右から2つめ。少し、鍵が緩んだ窓。
何かあるときは、いつも、その窓から出入りした。
ゆるくなった鍵は、外からでも簡単に開いてしまう。
無用心の極み。けれど、とても都合がよかった。


開けられた窓から、くつを脱いで上がり込む。
がらんとした教室。いつか授業を受けた部屋。



「どこだっけ、教室」

「一番近いのは、3年ん時の教室だよな。2階の階段の横」

「あー、あそこねー・・・・・・」



2階階段横。
始業のチャイムを聞きながら階段を駆け上がり、
鳴り終わると同時に教室に滑り込んだ。
遅刻常習犯には、調度良い教室の配置。
学年が上がるとき、その教室を離れるのが名残惜しかった。



「今は、1年生が使ってるみたいだね、この教室」



階段を上がりきって、教室に張られたクラス表示を見て、風子が言う。
それには答えないで、烈火が風子の横をすり抜け、いち早く教室に入り込んだ。
綺麗に並べなれた、机。高校とは違う、木目の壁。



「・・・・・・変わってないなあ・・・・・・」



懐かしむように、呟く。
もう少ししか思い出せない、それでも懐かしいこの教室。



「何か、思ってたよりちっちゃいけどな」

「そうだよねー、ドアとか何か低くない?」

「机とか低すぎだろ、これ」

「そうそう!」



言いながら一番後ろの机に座り込んだ烈火に、風子が強く同意する。
記憶より小さな教室。机。
記憶が曖昧なせいだろうか?それとも・・・。



「あー、でも・・・・」

「ん?」

「景色は一緒だな」

「・・・・・・・そだね」



隣の机に座り込んで、風子が小さく同意する。


小さくなった教室、机。
でも、座って眺める景色は同じ。

変わったのは、私達。





「早いな」



ぽつりと烈火が呟いた。
夕日の中。並んで歩いたのは、もうずっと遠い過去。



「早いねえ」



続いて風子も頷き言った。
帰り道、ふざけあったのあの日は、霞むくらい遠い過去。










いつの間にここまで来たのだろう。遠い過去を思い出す。
気がつけば時は流れ。歳を追うごとに大人になって。
幼い日のことを、何かを知った分だけ忘れていく。
楽しいことも。辛いことも。少しずつ。でも確実に。







「また、今度来よっか」




外を眺めながら、突然風子が言った。
そだな、と烈火が簡単に答えた。






楽しいことも、辛いことも。少しずつ、でも確実に、私達は忘れていく。
触れ合う事をしないから。思い出そうとしないから。
こんなに大事なものだから、忘れるのは嫌だから。

忘れないように、触れ合おう。
あの日通ったこの場所を、深く胸に刻み込む。





遠い過去。通った日々。
小さくなった教室、机。変わらない景色。変わっていく私達。
大切な思い出。風に吹かれた坂道。



忘れない。






FIN.

烈火と風子。
この2人好きだわ、やっぱり。
小学校一緒だったのは、この2人だけ。
他の人間には踏み込めないものが、やっぱりあると思う。
それを抜きにしても、こいつらは大好きなんだが(笑)

小さくなった教室、机。でも変わらない景色。
・・・私も今度行こうかな。

 

モドル