「水野ー。今日の帰りあんたの家寄っていい?
借りたい本があるのよ。確かあんた、あの本持ってたわよね?」




久しぶりに降った大雨のせいで、グラウンドは水浸し。
よって、急遽中止となった本日の部活のおかげか、
HRが終わる直前、彼女は小さな声で彼にそう告げた。
そんな彼女の言葉に、彼が一言簡潔に言葉を返し・・・・そして心で小さくガッツポーズ。

ありがとう雨!ありがとう梅雨!
久々のそんな幸福をかみ締めつつ、ふと彼の脳裏に不安が過った。
過去の経験からして、こういうときは必ず何かが起こるのだ。
そんな不安に駆られた瞬間、ふと我に返り彼は思う。


何故起こるかどうかもわからない未来に不安を感じて胃を痛めねばならない?



不幸慣れした少年の苦悩は続く。












[[[ 
友達賛歌 ]]]












HR終了後。

雨はやはり降っていた。
となると、やはり部活は中止。
いつもなら嫌な部活を邪魔する雨が、今日は感謝したくなるくらい愛しいものに思えた。



早くしなさいよ、と言う有希の言葉に責めたてられて、早々と教室を後にする。
校舎から出ると、小雨ながらも降り続く雨が、水溜りに無数の波紋を起こしていた。


あーあ、と部活が中止になったことを悔やむように、有希が空を見上げる。
そして傘を差して、その雨の中に飛び込み、明日は晴れるといいね、と彼女は笑顔で言った。

こんなことが毎日続くなら、一生雨でもかまわない(おい)
そんな言葉が脳裏をかすめたが、
口にしたが最後、彼女に何を言われるかわからないので口にするのはやめておいた。
そんなどうでもいいことすら幸せに感じつつ、水野も続いて傘を差す。


急いで出てきたためだろうか、校舎から校門に続く道に人はいない。
・・・いや、校門近くに溜まっている3人を除いて、だが。
しかしこんな雨の日に、あんな場所に佇んで何をしているのだろうか。
濡れぬうちに帰るのが、雨の日の最良の手段なのに。
誰か、待っているのだろうか。


そんなことを考えながら、数歩進んで。
水野の足が、ぴたりと止まった。





『誰か』を、『待って』・・・・・?





ふと過った不安に、思わず校門で佇む3人を凝視した。
よく見れば、それはうちの学校の生徒ではない。
しかも、3人とも着ている服がばらばら・・・・つまりは制服がばらばらで、
それぞれが別の学校の生徒だということ。

・・・いや、そんなはずがない。そんなことがあってたまるか。
浮かんだ1つの考えを、即座に否定する・・・というか、そう思い込む。

そう、信じようとしたのに。




校門が近付くにつれて、その不安は段々と現実じみていって。
そのことをひしひしと身に感じながら、
このまま回れ右をして裏門からこっそり出るに足る言い訳を、少年は必死で考え続けた。




しかし、そんな都合の良い言い訳を考え付くに足る時間的な余裕が、今の彼には全くなくて。

















「有希」

「ゆーきちゃんっ!」
















しっかり聞き覚えの有る2人分の呼び声に、
少年は何の星の元に自分が生まれてきたのかを悟ったとか何とか。


















「郭!?若菜君に真田君まで・・・・・!
どうしたの、一体」


「別に。雨で練習がなかったから来ただけ」


「何よそれ。用事があったんじゃないの?」


「あるにはあるけど俺と英士じゃねーの。なー、一馬」


「う、うるさいな!結人達が無理矢理連れてきたんだろ!!」







そんなことどうでもいいから用事があってもなくても帰ってくれ。


いつの間にやら自分を外して4人仲良く会話を弾ませている彼らを見ながら、
水野は半ば懇願するようにそう思った。


話が弾むごとに彼の居場所はなくなって、盛り上がる4人を尻目に、ただただ雨に濡れるだけ。
さっきまであんなに、あんなにしっかり心の平穏が保たれていたのに・・・・!
おおよそ子供らしからぬことを思いながら、少年の苦悩はまだ続く。

それはそれとして。







「真田君が私に用事ってこと?」


「そういうこと」


「だっ、だからそれは英士達が・・・・!!!」


「一馬」






完全に困り果てているようにどもらせていた一馬を、
結人、英士が有希から離すようにして囲い、ぼそぼそと何か話し始めた。


よし、そのままそいつを引き摺って帰ってくれ。

起こるはずもないそんなことを本気で願いつつ水野がぐっと手に力を込める。
そんな水野の願いなど知る由もなく、有希は1人そんな3人の姿を不思議そうに見ていた。

で、そんな3人がどんな会話を繰り広げているのかと言うと。






「昨日あれだけ練習したでしょ、一馬」


「だから俺はっ・・!!」


「男なら言いたいことははっきり言えよ、一馬」


「何度も嫌だって言って・・・・!!」


「ここまで来て何言ってるの」


「無理矢理連れてきたんだろ!!」


「潔く覚悟決めろよ」


「だから!!」






「・・・・・・ねぇ」







始めぼそぼそ程度だった3人の会話が(というか一馬の声が)ヒートアップしたとき、
しばらく放って置かれた有希が、少しためらいつつ声をかけた。






「悪いんだけど、この後水野の家に行くことになってるから・・・・。
用事があるならなるべく早くしてくれない?」





有希がものすごく悪そうに言ったその言葉に、水野が小さくガッツポーズした。


そうだ。頼むからこれ以上何もしないで潔く帰ってくれ。

この日何度目かの心からの願いを心の中で唱えて、水野が3人の出方を見守る。
しかし、じっと見守ったところでどう動くかは全く予想できなくて。
サッカーのプレイ中、相手の動きを読むのは容易いと言うのに、
どうして一般の生活の中で人の言動を読むのはこんなにも難しいのだろうなどと思う。
何気に、それが実行できた時点で人間として何か間違っているような気がしないでもないが、
とりあえず水野は彼ら3人の次の行動に、ぐっと息を飲んだ。







「―――だって、一馬。早くしなよ」


「なっ・・・・・、英士!?」


「何?真田君」


「え・・・・・・あ・・・・えっと・・・・・・・その・・」







顔を真っ赤に染めて、それでいて言葉の続かない一馬に、
やはりダメか、とでも言いたげに英士と結人が顔を見合わせる。



じゃ、次行くよ。結人。
おう。

アイコンタクトでそう会話を交わして、2人がすっと一馬の後ろへ回った。


何をするつもりだ。と、平静を装いつつ、内心気が気でない水野など見もせず、
突然一馬の背後に回ったことで、彼ら2人に不思議そうな視線を向けている有希をちらりと見てから、
英士、結人がまた顔を見合わせて、そして言った。






「実は一馬。柏の小島選手のファンなんだ。
だから、いろいろ話を聞かせて欲しいって」


「な、え、英士!?いつ俺がそんな・・・・・」


「本当!?真田君!!」


「・・・・いや・・・・あの・・・・・・・それは・・・・・・」


「でさ。こいつも結構忙しいヤツだから、
有希ちゃんの都合さえよけりゃ、今日にでも相手してやって欲しいわけよ」


「結人っ!?」






何を突然、と。本当に何を言い出すのか、という風に、
英士・結人の言葉に心底驚きつつ、その内容に戸惑いつつ、
一馬が、焦りを一層強くした。

しかし、水野の焦りはそんなもんじゃなかったり。



『都合さえ良ければ』!?
ついさっき「うちに寄る」って言ったばっかりだろ!?
しかも巧みに小島の弱点をついて・・・・・!!!
どこまで嫌なヤツらなんだ!

そんなに不安なら、有希に制止の一言くらいかけろよ、という言葉が聞こえてきそうだが、
今の水野にそんな言葉を聞き入れるほどの余裕はない。
ただ、今から起こすであろう彼女の行動を、はらはらと見守るだけ。
それ以外は、何も出来そうもなかった。



そんな水野の葛藤も余所に、悩むような格好で俯きつつ有希がうなること数秒。
やっと答えを出したのか、顔を上げた有希が、ふと水野の方を向き、そして、にっこりと笑った。


小島・・・・そんなヤツらよりちゃんと俺を選んで・・・・・・!
有希の笑顔に、そんな感動を覚えつつ、水野が今日の心の平穏を確信した次の瞬間。



















「本は別に逃げたりしないわよね、水野」
















依然、笑顔でそう告げた彼女を見ながら、
少年はやっぱり自分はとある星の下に生まれてきたのだと確信したという。










「それじゃ、本はまた今度借りに行くわ。ごめん、水野!」





軽く手を合わせて、済まなそうな顔をする有希に、行くなといえるはずもなく。
ただ心無い返事を返して、水野は走り行く有希の後姿を見送った。



ああ、ここにシゲの1人でも居てくれればどうにかこの場を凌げたかもしれないのに!!
ふとそんな考えが浮かんだが、水野の頭の中ですぐにその意見は却下された。
例えこの場にシゲがいたとしても、
先程の状況をこれ幸いと、1人彼女を連れてどこかへ消えたに違いない、と。


くっ、所詮俺の周りの人間なんてこんなものなのか!?
あいつらのように、俺のために何かしてくれるような友達はいないのか!?

何か思考がズレているような気がしないでもないが、
ただ1人校門前に残された水野は、悔しさを糧に力強く拳を握った。



ちょうどその頃。






「ね、真田君。うちに来ない?
お兄ちゃんの試合のビデオとか、いっぱいあるから。
―――あ、ねえ。郭達も来るんでしょ?」


「違うよ、一馬1人」


「え、そーな・・・」


「なっっ!!おまえら来ないのかよ!!!」


「―――あのな、一馬」






必死に非難する一馬を、また2人が有希から離すように、囲む。
そしてまた、ぼそぼそと話し始めた。






「俺らが行ったら、またお前甘えるだろ」


「だ、だけど・・・!」


「せっかくお膳立てしてあげたんだから、あとは自分でがんばりなよ」


「そんな・・・!」


「だーいじょぶだって。がんばりゃなんとかなる」


「根拠もないくせに何自信マンマン言ってんだよ!
だいたい、なんで俺のことなのにお前らの方が張りきってんだよ!」


「一馬のために決まってるでしょ」


「そーそー。ほっといたら何もしないだろ、お前」


「お、俺のためとか言って、結局あとから遊ぶくせに・・・・・」


「そんなことしないから。早く行きなよ、有希が待ってる」


「見てるこっちが辛いから手助けしてるだけだろ。だから頑張って来い」


「英士・・・・・結人・・・・・・・・・」







確かな友情を感じながら、一馬がゆっくりと頷き、そして有希の方を向いた。

それじゃ、俺達はここで。
そう言って英士・結人がその場を離れた後も、
言いつけ通りちゃんと頑張って会話を保っているらしかった。















ああ、友達っていいもんだな。


助けの来なかった少年と、大いに助けられた少年は、
形は違えどしみじみそう思うのだった。








FIN.


てゆーか主旨からして間違ってるから(死)
有希嬢影薄いし!!どうして何故に友情がテーマになってんの!?
・・・まあいいか(いいんか)とりあえず私は満足だし。

上手い具合にヘタレは書けているんでしょうか。2人共の(死)
ヘタレってなんだろう、から始めなければならないstmimiが書いた割には、
ほどよくヘタレてますか?ますよね?お願いそう言って(笑)

どうでもいいけど今回小説ともssともとれる文章だよな。
えー・・・セリフは全部有希と一馬・結人・英士のものであり、
描写は全て水野のためのものであります。
水野は一切口を開いてないのですな、今回。
もー、言いたい事があるならはっきり言えばいいのに(お前が言うな)

えー・・・てなわけで、一馬は郭と結人の助けを借りて幸せな時間を過ごしましたとさ、めでたしめでたし。
ちなみにどうでもいい後日談が
こんなところにあったりします。U−14友情モノなり(笑)



モドル