まちぼうけ
珍しい事というのは、起こるのも珍しいほどに重なるものなのだろうか。
ふと、彼女は思った。
朝起きても、ミナの姿はちゃんと自分の隣にあったし。
起きてからも、ミナはずっと傍にいた(脱走もせず)
そして今日は何故か、戦闘メンバーとしてのお呼びがかからなかった。
別にいつも連れていってもらえるとは限らないとはわかっているし、
先日の疲れを考慮して、わざと置いていってくれたのもわかる。
だから、どちらかというと感謝したいくらいだし、ネルの判断は正しかったと思う。
でも、それでも。
いつものメンバーの中で、自分だけ置いてけぼりを食らうの言うのは、何となく寂しい。
おまけに、いつもなら外を歩き回ってモンスターと対峙しているので、
城で日中過ごすやり方を、彼女は知らない。
そんなわけで今彼女は。
「ヒマー・・・・・・・・・・」
とてもヒマだった。
「ビッキーってよくずーっとここに居れるね?
私ダメ。すぐに飽きちゃって・・・・・」
「え?え?そうですか?」
「そうだよ!立ってたら疲れるし」
「今座ってますよ?」
「座ってるだけじゃつまんないし!」
「じゃあ立ちますか?」
「・・・・そうじゃなくてー・・・・・・」
「? じゃあ、何なんですか?」
「んー・・・・・・・・、あ、ほら、ここって窓が無くて外も見えないし!!
やることないからつまんなくない?」
「でも、私はロッテさんが来てくれるから楽しいですよっ」
「私がいないときは?何やってるの?」
「えっと・・・・魔法の勉強とか?」
「ふーん・・・・・」
私も勉強しようかなー・・・・・。
窮屈な部屋で凝った体をほぐすように、うんと腕を伸ばしながらロッテがぽつり呟く。
本拠地でも一番下のこのフロアは、窓がなくてなんとなく息苦しい。
おまけに天井も低い気がして、どうしても窮屈に感じてしまう。
ビッキーを訪ねて何度も訪れてはいるものの、
この部屋にだけはなかなか慣れる事が出来ない。
「ねえ、ビッキー。今度一緒にミルイヒ様のところのバラを見に行こう。
今、すっごく綺麗だよ」
「え、え。でも、私がここにいないとネルさん達がどこかに行くとき困らないですか?」
「あ、そっか・・・・。ビッキーは大変だね。
いつネル達が帰ってきて、また行っちゃうかわかんないもんね」
「そうでもないですよ?ずーっとここにいたら、全部わかっちゃいますから」
「だから、ビッキーはいつもここにいるんだ・・・・」
「はい!」
例えばどこかに行くとき。ビッキーはいつもここで待っている。
例えばどこかから帰ってくるとき。いつでもここに居て、迎えてくれる。
余りにいつもそうなので、それが当たり前だと思っていた。
でもよく考えてみたら、それは彼女がここに居るから出来ること。
彼女のテレポート能力を使う機会がいつきても対処できるようにと、
彼女がここに留まることで出来ること。
そのことを思い知って、少しだけ、ビッキーをすごいと思った。
「・・・・じゃあさ、ネル達がここにいるときならいいよね?
どこにも行かないってわかってるとき。その時、一緒にバラ見に行こうよ」
「はい!だったらいいです!」
「うん、約束」
元気なビッキーの返事を聞いて、ロッテが手を差し出して、指切りする。
多分、今度ネルが帰ってきたら、しばらくはどこにもいかないはず。
その時行こう。時間があったら他にも何かしよう。
そんなことを考えながら、にこりとロッテが笑った。
「今度の約束はしたけど、やっぱり今ヒマなのは変わんないね。
何かないかなー・・・・・・」
「そうですねー」
「ユーゴさんに頼んで、何か本借りてくる?」
「え、えと・・・・・」
「マリーさんに頼んで、何か貰ってこようか?」
「私、別にお腹減ってないです」
「そう?・・・・・・・・・・・・ネル達何やってるかなー・・・・・・・・・」
「どうでしょう・・・」
「今日は誰が行ったの?」
「えと・・・。ネルさんと、ビクトールさんと、フリックさんと、ルックさんとクレオさんですよ」
「5人なんだ・・・・・・・」
「はい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒマだねー・・・・・。
やっぱり何か遊べるもの借りてこよっか?」
「えと・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネル達、何やってるかなー・・・・・・」
同じ言葉を何度も何度も呟いて、しまいにロッテが黙り込む。
突然黙り込んだロッテに、少しビッキーがうろたえるけれど、
どうにも声をかけることが出来ず、彼女も同じように黙り込んだ。
「・・・・・・・・ねえ、ビッキー」
しばらくして、壁にもたれて上を向いていたロッテが、ぽつりと声を洩らした。
返事をせず、首を傾げて答えるビッキーの方は向かず、
やはり天井を見上げたまま、ロッテが続けた。
「待つのって、辛いね」
独り言のように呟いて、ロッテがすっと目を閉じる。
放り出していた足を抱え込んで、前屈みになる。
「ここにいると、何もわかんないから。
何やってるかな、とか。ケガしてないかな、とか・・・。
悪い事ばっかり考えちゃって・・・・・。」
「ロッテさん・・・・・」
「ビッキーは?毎日毎日、ここでネル達のこと待ってて、怖くない?」
毎日毎日。
生きて帰れるかわからない場所へ行く仲間達の身を案じて、ただ待つだけの生活。
怖くない?
辛くない?
不安じゃない?
「私は・・・・・・」
「うん?」
「そんなこと、ないですよ?」
「ビッキー・・・」
「私も、いっつもすっごく心配です。でも」
「でも?」
「でもネルさんは。いつもちゃんと帰ってきて。
それでちゃんと、一番に私にただいま、って。言ってくれるんです!」
送るときはいつも不安。
待つときはいつも心配。
でも。
いつでもちゃんと帰って来るから。
ちゃんと帰ってきて、それでいて言ってくれる、笑顔の「ただいま」は
全ての不安を消してくれるくらい、嬉しいから。
「『ただいま』か・・・・・。私、言われた事ないや」
「だってロッテさん、いつも帰ってくる方だから」
「そうだよね。・・・・・・言われてみたいなー、『ただいま』って」
「すごく嬉しいですよ!」
「ふーん・・・・」
「それで、私が『おかえりなさい』って言ったら、ネルさんいつも笑ってくれるんです」
「そういえば、ビッキーいつも言ってくれるよね、『おかえりなさい』って。
あれって、結構嬉しいんだよ」
「はい!それで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!」
「え?」
何かを言おうとしたビッキーが突然声を上げて言葉を止め、そして勢いよく立ちあがった。
突然のことに反応が遅れたロッテも、ビッキーの視線の向かう方向に目をやる。
次の瞬間、眩いばかりの光が溢れて――――そして、それが止んだ後、
懐かしい顔が覗いた。
「やあ。ただいま、ビッキー」
「はい、おかえりなさい、ネルさん!!」
「あれ、ロッテ。ここにいたの?」
「え。あ、うん。ビッキーと話してたの」
「そうか・・・。ただいま」
「うん、おかえり」
初めて言われた『ただいま』。
確かにビッキーの言う通り、何となく柔らかくて暖かい。
でも、彼女が言うほどに、気持ちのいいものだろうか。
「ビクトールさんもフリックさんもクレオさんも、おかえりなさい」
「おう、今日も疲れたぜー」
「体調は大分戻ったか?」
「うん、全然大丈夫」
「そうかい。じゃあ、今度はまた一緒だね」
「うん!」
ビクトール、フリック、クレオの面々がロッテの言葉に笑顔を返して、
順に階段を昇っていく(ちなみにビッキーはネルと話している)。
それを見送っていると、目の前を何も言わずに、
もちろん言われようとせずに通りすぎようとする人間が、すっと横切るのを感じて。
がし。っと、服の裾を掴んで、無理矢理そこに留まらせた。
「・・・・・・・・何」
「何もそんなに急いで行くことないじゃない」
「だから、何か用」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかえりなさい」
「は?」
「お・か・え・り・な・さ・い!!」
1度目は小さすぎて、届かなかった『おかえりなさい』。
聞き返された2度目は、ヤケになって大きな声を張り上げた。
隣に居たビッキーとネルが驚いて振り向く。
言われたルック本人も、驚きと戸惑いで目が丸くなっている。
それが痛いほどわかって、顔を上げ難くて、ロッテがじっと俯いていると、
しばらくして何かを呟こうと、ルックが口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただいま」
聞き取り難い、小さな声。
独り言のように小さく呟いた、1つの言葉。
届いたのは、多分ロッテにだけ。
「・・・・・・・・うん、おかえり!!!」
2度目の『ただいま』は、思っていた以上に優しくて。
それ以上にこそばゆくて。
自然と、笑顔が零れた。
送るのは不安。待つのは心配。
でも、たまになら、待ち惚けもいいかもしれない。
FIN.
ビッキーの口調なんかわからん!(死)
資料無しはやはしキツかったわー;だから違和感あっても勘弁して・・・・(ばたり)
慣れんことはするもんじゃないなー・・・・・・またするつもりだけどさ(おい)
ルクロテで坊←ビキ。(決して坊ビキであってはならない(鬼))
珍しく、ロッテの方がルックのこと好きっぽい。
つか、ルックの陰が薄すぎる(死)
でも、私的には女の子が書けて満足(笑)
もっとまともなルクロテが書きたいよう・・・・(泣)
誰かー・・・見本くれ、見本ー・・・・・・(涙)