つよいひと
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『大丈夫』と言って私に差し出したその右手が、
少し震えていたのを覚えてる。
「ネルは強い人だね」
静かにロッテが切り出した。
そういう彼女の顔には、いつものような笑顔は無い。
真剣な、それでいて暗い表情。
そんな彼女の視線は、隣にいて、話しかけている対象であるはずのルックにすら合っておらず、遠いどこかを見ていた。
ルックにも見えている今の風景を見ながら、
遠いいつかを見るように。
「私が初めて戦争に参加したとき」
あの静かな村で初めて会って、ミナを見つけてもらって仲間になった後の、グレミオの命を奪った花将軍との戦いのとき。
「私がこっそり震えてたら、ネルが大丈夫って励ましてくれた」
嘘みたいに優しい声で、笑顔で『大丈夫だから』と言いながら、
暖かな、それでいて大きな手を差し出してくれた。
今でもちゃんと覚えてる。私を支えた大きな手。
でも、心の底では私と一緒で怯えていた、小さく震えた子供の手。
「ネルは強い人だね」
自分の恐怖を押し殺して人を思いやることが出来る。
「でも弱い人だね」
誰かを気遣うために、怖いと叫ぶ強さがない。
「だから、何か悔しいね」
こんなに近くにいるのに、助けてくれと呼ばれる事も無い。
助けてあげたいと願っても、助けさせてなんて絶対くれない。
助けさせてなんてくれなくていいから、せめて弱音くらい吐いて欲しい。
「やっぱり、人の上に立つ人っていうのは、
いろいろ我慢しなきゃならないのかなあ」
嫌だとか。怖いとか。やりたくないとか。
泣き言の1つも言えないような。心に蓋をしているような。
「別にどうだっていいよ」
「・・・・そう言うだろうとは思ってたけど、
たまには他のこと言ってくれたっていいじゃない」
「・・・・・・・・・見てたらわかるよ」
「?」
「口にしないだけで、辛いときは辛いって顔してるだろ。
あれでも隠してるつもりらしいけど、まるで隠せてないね。
心配なら、あいつがそういう態度でいるときに励ますとかしてやれば」
「・・・・・・・ふーん・・・・・」
「何」
「たまーに良いこと言うよね、ルック」
「うるさいよ」
「・・・・・・・励まされてばっかりじゃ、悔しいもんね」
今度差し出された右手が震えていたら、
握り返して、今度は私が励ましてあげよう。そう思った。
それだけでもきっと、少しは軽くなるかもしれない。
蓋をして押し込めた、溜まりに溜まった心の辛い感情が。
怖いと言えない弱さを持った強い人。
怖いと言わない強さを持った弱い人。
貴方の周りには、いっぱいいるんだよ。支えてあげたいと思ってる人。
fin?
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ルックとロッテがネルを語るの図。
どこらへんがカップリングなのかと言いますと、
単独行動が好きそうなルックの隣にロッテがいることです(だけか)
強くて弱い人。弱くて強い人。
同じ言葉の順序を変えただけですが、意味は全く違います(私的に)
前者は、普段気丈にふるまう弱い人。後者は、弱さを隠さない強い人。
どっちがいいのかなんて知りませんが、
誰もがこういう一面持ってるんじゃないでしょうか。
人間って複雑だ。一言で言い表せるような単純構成してないんだね。
(最後に白状しますと。書きたかったのは坊がどれだけ愛されているかであって、ルクロテではありませんでした(死)あははー、いつかルクロテのみの小説が書きたいわ(無理っぽー))
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